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承7



承7


猫との生活が始まってから、数日が経った。連れてきた初日、灰色の猫は、美月にも警戒し、ベッドの下からなかなか出てこなかった。しかし、空腹には勝てない。ご飯の匂いに釣られて、やがてゆったりとした動きで姿を現した。

「なんか、ふてくされてない?」

ご飯には釣られたわけじゃない、という顔の猫に、美月は話しかける。

「思春期の中学生か」

その独り言に聞く耳を持つこともなく、猫は耳を前に傾けてご飯を食べ始めた。言葉を交わすことのないやり取り――それが美月には、なぜかとても楽しかった。


家のインターホンが鳴った。

「もう一人、中学生並みのやつが来たかな」

美月は立ち上がり、モニターを確認する。画面には、斜めに傾いた本多の姿が映っていた。

「ちょっと待ってね」

美月は猫を抱き上げ、玄関から逃げ出さないようにケージへ入れ、扉の鍵をかける。それから玄関を開けて本多を迎え入れた。

「うぃ〜」

気だるそうな声を出しながら、本多は部屋に入ってくる。

突然の“巨大生物”の登場に、猫は毛を逆立てて警戒した。その様子に気づいた本多は、猫に向かって白い歯を見せて笑う。

「美月ぃ〜、なんか食べるのない?」

「あ〜……うどんなら」

「ネギだくいける?」

「大丈夫」

「んじゃ、それでお願いします。土下座すればいい?」

「え〜、頭踏ませてくれるなら?」

「徹夜明けでシャワー浴びてないよ」

「そっかぁ、シャワー浴びてな頭はやだなぁ。代わりに、その辺の段ボール開けてくれる?」

部屋の隅には、未開封の段ボールがいくつも積み上がっていた。


「ネット? ずいぶん買ってるね」本多は文房具の引き出しを勝手に開け、カッターを取り出して一つひとつ箱を開けていく。

「うん。グリのおもちゃとかグッズなんだけど、かわいくてさ、つい買っちゃう」

「グリって名前にしたの?」

「うん。フランス語で“灰色”って意味。かわいいでしょ?」

「へぇ。松崎しげるに“茶色”って名付けたみたいな?」

「合ってるかもしれないけど、その例えはかわいくない」

美月と会話を交わしながら開けた箱の中には、釣り竿の先に魚の人形とふわふわが付いた猫用のおもちゃが入っていた。本多はそれを手に取り、不敵な笑みを浮かべてケージの前にしゃがむ。

やがておもちゃを小刻みに揺らし始めると、最初は警戒していたグリも興味を抑えきれず、そっと手を伸ばした。


十分後。

「うりうりうりうりぃ〜!」

リビングから本多の声が響く。うどんを作り終え、二人分をお盆にのせて台所かリビングに来た美月は、目を疑った。

ケージの中にいたはずのグリが、いつの間にか外に出されている。しかも――本多とじゃれ合いながら、楽しそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。


食事もトイレもすべて世話している美月でさえ、ここまで懐かれるのに二日を要した。

ほぼ初対面のくせに、この馴染みようはなんなのか。

男女問わず、誰にでも自然に懐に入っていく本多を“人たらし”だと思っていたが、

「猫もいけるのか」

と、美月は改めて感心するのだった。



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