ヤンキー娘、国境を行く。
ん、なんかむず痒い…ん、んぁっ?、、、も、揉まれてる!?違和感に跳ね起きると、モール姉がずるりとアタシにしがみつきながらぶら下がった。
「…モール姉?」
「だ、だって起きないんだもん!」
アタシはモール姉をジロリとひと睨みすると、引き剥がして袖机に置いてあったブラを着用した。…匂い嗅いだりされてそうだな。
窓からは朝日が差していて、起きなきゃならない時間なのは確かそうだな、とさっさと鎧をつけて行く。ヴェール姉はもう身支度も終わった様子で荷物を綺麗に梱包しているのが見えるけど、モール姉はアタシのことを穴があく勢いで眺めてる。…リドリーもその気があるんじゃねえかって思ったけど、どうもモール姉は多分ガチっぽいな。ヤロー共のイヤラシイ視線に近い感じがすんだよ。リドリーのはそういうイヤラシイ感じはなくて、ただ熱心に眺めてるって感じなんだよな。
「行こうぜ。」
「そうねー。朝ごはん食べよー。」
「…そうね!」
荷物も寝る前にある程度纏め終わっていて、あとは細かいものを大容量の小さなウエストポーチに放り込んで準備完了。他の荷物も地面や床に降ろさなくても戦えるように上手くしまう方法をギルベルトのジッちゃんから教えてもらっていたこともあって、アタシは身一つという感じで部屋を出る。ヴェール姉はまだ使い勝手の良い小さい採集袋がないようでまだ一つ大きいのを背中に背負っている感じだけど、それでも大剣を振り回す位なら出来るようにしているらしい。モール姉はベテランの域なのでそれこそ身軽な感じ。余計な荷物は一切持たないし、森とかにあるものを有効活用したり、グループメンバーや周りのヤロー共のを上手く使うらしい。 野営ではそれこそテントに潜り込んだりとかして寝て、それでエッチしたりすることもあるらしいってのはアタシには出来ない芸当だな。や、やっぱりよぅ、触らせたりするのは好きな野郎だけにしてえじゃん?!ってアタシは何考えてんだ。
階下に下りていったアタシ達をダージのジッちゃん達はもう既に準備万端といった感じで待っていた。…あんま遅かったか?酒場の方でも気を使ってくれたのか、朝食に、とおっきな葉っぱに巻いたサンドイッチのような物を手渡してくれた。何やら、昨日店を壊さないように立ち回ってくれたささやかなお礼も兼ねてとの事らしい。嬉しかったので素直に笑顔で受け取ったら、大将が真っ赤になった。慌ててお茶を出してくれたんだけどよ、時間が無いのはわかっていたようで水筒に詰めてくれた。また帰りに寄ってくれたらサービスしてくれるらしい。
「じゃ、行きますかのう。」
「遅れたみたいで悪りぃな。…朝弱くてよ。」
「大丈夫ですじゃ、今日はどっちにしろ日が沈んでからも走る予定ですからの。」
外に出たアタシに待ちきれずに飛びついて来る2匹を撫でたりしながら、アタシは護衛位置の内容を確認した。レベルが上がってステータスが上がっているせいか、デカい四つ足やレイルに飛びつかれても簡単にはぐらつかないってのは女としては可愛く無い気もするんだけどよ、仕方ねえよな。そんで、今日からは3日くらい国境に沿っている街道をゆくらしく、斥候としてジャレットともう一人が常に先行して遠話の魔道具で連絡を取り合いながら進むとの事だった。何せ、沿ってるというよりも事実上の国境線らしく、間の街それぞれがどちらかの国に属している、といったようなあやふやというかごちゃ混ぜというか、そういった状況なんだそうだ。だからというか、街道からそれぞれ結構入ったところに砦だったりボーエーセンが設置されて云々、難しいことはワカンねぇ。まぁ、そんな感じで国の軍が衝突するのを避けるために街道の警備隊も殆ど居なくて治安が悪いんだそうだ。それでもここを通らないとぐるーっと迂回して、カオリモの街まで本来なら1週間で済むところを地形の問題で超絶厳しい山越え(遭難率80%)で3週間か、船旅(遭難率20%)も絡めて2ヶ月ほど掛かるんだそうだ。さすがにやってらんねぇよな…。
「お昼休み取るよー。休憩だよー。」
『ほいさぁ』『了解!』
隣を移動しているヴェール姉がどうやら遠話の魔道具を管理しているらしく、2人の斥候からの返事が元気に返ってきたのが聞こえる。今日のメシはあれだ、パンにチーズと焼いた腸詰を挿んで少し焚き火で炙る、というホットドッグみたいな感じの昼メシになるらしくアタシもパンを炙ったり、メンバーに手渡したりと忙しい。それでも人数が少ないこともあってあっさり終わった。
「アネゴの手作り…。」
「手渡しで…。」
「…なんだよ!不満かよ!?」
「「「「とんでもない!!」」」」
「…何なんだよもう。」
それは、腸詰のジューシーな脂とチーズの塩分を包み込む、柔らかいパンがサイコーな昼メシを食べ終わろうとしていた頃だった。周りを3~40人位の男共が囲もうとしているのをジャレット達がいち早く察知し、みんなに警告した。無論、四つ足やレイルも気が付いたようで、食べていた獲物を放り出して警戒を始めている。
「なあ、ジャレット、あの鎧、見覚えねえか?昨日の街で見かけた衛兵みたいに見えんだけどよ。」
「あっしにもそう見えるでやす。あと昨日アネゴが叩きのめした連中もチラホラみえるっすね。」
「…仕返しかよ。」
そう呟いたアタシに、ジャレットは首を振る。
「アネゴと、恐らく何かを護衛してると見てその品の強奪もしくは身ぐるみ剥ぐつもりかと思いやすね。」
「アタシかよ!?」
「…アネゴ、みんな普段は言いませんけどね、自分が絶世の美女だっていう自覚を持った方がいいでやすよ?」
「ぜっ…。」
「そうよ、あたしやヴェールも美人だけどね、シオリは群を抜いてるわよ?顔だけじゃなくて出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでて、腰回りの滑らかな曲線も完璧だし。世の中の女が嫉妬するレベル振り切って諦めるくらいよ。」
「そうだよねー。みんながのぼせあがるのわかるものー。笑顔なんて見れた日には天にも昇る心地よねー。たまに目つき悪いけどねー。」
な、なんだなんだ。なんで囲まれたのにアタシが褒められてんだ!?ハズカシイ…。真っ赤になってもぞもぞしてしまったアタシを見てみんながニコニコしたあと、さて、とのリーダーの一言でみんなが散開した。
「この程度の人員でランクAのグループを何とか出来るって思われたのか?舐められたもんだなぁ、おい。グループの半分が即席ったって元々ゼールの街で散々大規模依頼の時に組んだ仲間だぜ。」
「最近はファンクラブの活動もあるしな。」
「そうでやす。」
馬車を中心に、ダージのジッちゃんとアタシを庇うように展開したグループに向かって声が掛けられた。
「金目の物と女置いてけ?」
「それは盗賊行為とわかってての言葉だな?」
「あ?野郎はぶっ殺してもいいんだぞ?」
いいよ、と小声で四つ足に声を掛けた次の瞬間、四つ足から物凄い勢いで糸が噴射され、避けそこなった半分くらいの男たちがべとべとに見える糸に絡まれた。レイルはその隣で風のマホーをぶっ放したようで、反対側の5人ほどの上と下がバラバラに吹き飛ぶ。その様子をぽかーんと見ていた男たちが腰を抜かしたり逃げ出そうとしたりするのを、グループのみんなが追い掛けてトドメを刺していくのが見えた。…アタシの出番なんてねえな、コレ。
「盗賊よりはやるのかと思ったんだけどねぇ。…っつーか四つ足君とレイル君が反則なのかしらね。まさか蜘蛛の糸で絡みとられるとか、魔法使いっぽい姿の人間がいないのに風魔法で真っ二つとか思いもしないものね。」
「不意打ちになったからなぁ。オレらも下手すると要らなかったんじゃねえか?アネゴも相当らしいからな。」
「相当ってなんだよ。」
笑ってごまかすリーダーを軽くどつくと、みんなで後片付けをして回収するものを回収してから次の街へと向かった。中に冒険者なんかも混じってたからな、冒険者証とかを回収してギルドに出す必要があるんだとか。今回はダージのジッちゃんが証人としているってんで詳しく聞かれることもないだろう、とか、ジッちゃんってマジ偉いんだな…。




