ヤンキー娘、久々に絡まれる。
神殿のマークが意匠されているすげえ立派な馬車にダージのジッちゃんが乗り込むと、アタシはギルベルトのジッちゃんが持ってきた鞍を四つ足に着けて跨った。四つ足は背中に乗り始めた最初の日こそ不自由そうにしていたけど、2、3日すると慣れて自在に動ける様に既になっていたこともあって、今ではまるでアタシが乗ってないのと同じ様にあちこちに飛び回るくらいになってんだよな。…あんまり飛び回られると気持ち悪くなっから加減しろ、って言ってんだけどよ、背中に乗せるのが嬉しいらしくてはしゃぐんだよな…。ちなみに、レイルは成体になれば人を乗せるのもいいらしいんだけどよ、さすがにまだアタシが乗るには小さい感じで諦めた。…他のみんなは馬に乗ってたり、それこそ虎に乗っていたりと様々だったりした。レイルは少々不満そうに四つ足の隣をてふてふと歩いてるんだけど、それもまたカワイイんだよな。
歩いている最中、みんながグループでの心構えみたいな物を順番に話してくれた。実際の動きみたいな物は休憩中に実際に準備するところとかを見せてもらったんだけど、問題なく出来そうな感じだったし、昼休憩なんかは料理もさせてもらったので、アタシ的には満足だったりする。だってよ、屋敷じゃあ料理させてくんないんだもんよ。主人にはさせらんねえとかいってよ?
全体の日程としては天候があまりにも酷い場合に逗留する予備日の1日を含めて7日程でカオリモの街に着くらしく、結構余裕はあるらしい。勿論、道中では日が落ちても野営せず、ちょっと無理して先の村まで行く日もあるんだとかで雪の中強行軍になる日もあるらしい。ダージのジッちゃんが寒い時はわしと一緒に馬車へ、とか言ってたけどよ、それじゃあ護衛任務にはならねえような気がする、って断った。なんでか護衛グループのみんなも中に入れとか言ってたけどよ、おかしいだろ?
「ねぇ、四つ足ちゃんの背中ってどうなの?」
「まったく揺れないし、風除けのマホー使ってるらしくてよ、寒くもねえんだよな。」
「えー!?何それ。あたしもイリエスタの子との劇的な出会いとか無いかしらねぇ。」
「そんなこというとよ、その虎が機嫌悪くしねえか?」
アタシの言葉がわかるのか、モール姉の乗っている虎ちゃんがこちらをふいっと見て、ため息っぽいのを一つついた。あーあ。四つ足の鞍には背もたれこそ無いけども、前にゆったり掴まれる所がついていて、高機動下でも大丈夫、とギルベルトのジッちゃんも言っていた。というか、腰を固定するベルトが付いてるし、鐙もあるから両手がフリーで使えて、一応ひっくり返っても落ちないようにはなってたんだよね。さっと降りられないのは欠点だけど、糸で飛んだりとかするからな。でも、両手が使えても剣を振り回せる範囲には四つ足の脚があるから実は道具を出したりするか、止まってもらってから投げナイフを投げる程度なんだよな。弓は下手くそだからよ。
結局その日は何事も起こらず幾つかの街を通り抜け、日が暮れる頃小さな街に到着した。街は国境が近いせいか砦のようにぐるっと回りを高い城壁で囲われていたけど、火矢対策と籠城対策で城壁の周りには畑があるだけで建物は無いってことで、さらにそこまで高くないけど馬なんかの突撃を阻むらしい柵が人々が住む街を囲っていた。むーん、物々しいぜ。
脚はすげえバタバタしてるように見えて、アタシが座っている胴体部分はスイーっと滑らかに進む四つ足の隣をかぽかぽとジャレットが馬に揺られてる。
「アネゴ、全然揺れてないように見えるっすね。」
「おう、特に揺れないぜ?家で椅子に座ってるみてえだ。」
「へえー。やるなあ四つ足。」
「だろ?」
「…っと、もうすぐ宿でやすね。街中では護衛の人間は外出の時だけしかつきやせんから、アネゴは今日は休んでください。…といっても、下の酒場で飯を食ってからですがね。」
何やらジャレットは嬉しそうにしている。そういや、アタシは酒飲まねぇし、食堂で飯食うって言ってもそんなみんなと重なるタイミングで食べたりしねえしな。こりゃあ酒は飲まなくても付き合ってやんねぇとダメかもな。そう思って四つ足とレイルを宿屋の馬小屋に入れた。…四つ足に元から入っていた馬たちがビビりまくったものの、ギルベルトのジッちゃんに仕込まれたっぽい気配消しを発動してからは一息ついたようで、馬たちも落ち着いていられるみたいでちょっとアタシもほっとした。
「おい、なんだ。別嬪さんじゃねぇか。」
「こっちきて酒注いでくれよ!」
一足遅れて酒場に入ったアタシを待っていたのはヒューヒューいう口笛と、タチの悪そうな酔っ払いのおっさん達だった。ジャレットやリーダー達は逆にニヤニヤしながらその様子を眺めてる。んだよったく。イラッとしながらみんなの所に行こうとしたところに案の定、酔っ払いが立ち塞がった。
「よぉ~姉ちゃん、お酌してくんねぇか?」
「あ゛?」
「…ヒッ」
おっさんその一は睨みつけてやったら速攻で腰を抜かしてへたり込んだ。ほっといて進もうとすると次はおっさんその二がやってきて、今度は幾らだ?と聞いて来やがった。くせえ息が掛かる距離まで顔を近づけて来たのをコブシで天井まで突き上げて、浮いたところを回し蹴りで外に放り出した。
「んなっ!?」
「おい!」
そこまでやられたら我慢出来ない、んだろうか。テーブル3つ分くらいのヤロー共がガタガタっと立ち上がった。久々にゴロツキどもを締めれるな、とアタシは思わず笑みをこぼしながらコブシをポキポキと鳴らした。
「オラァ!」
「ぐえっ」
アタシも酒場のウェイトレスを生業にしてっからよ。店に被害を出さないことを大前提に、開けっ放しのドアに向かってヤロー共を殴り飛ばし、蹴り飛ばしていく。あまりにあっさり片付いていく事に怖くなったのか、3人くらいそのまま逃げようとした所を捕まえて外に連行する。…店の前ではいつの間にかジャレットが気絶している男共を端に寄せたりしていたけど、それは気にしない事にして壁際に3人を並べた。
「…なぁ、アタシに言わなきゃならねぇことがあると思うんだけどよ?」
ガタガタ震えている3人を小突いて謝罪の一つでも引き出そうとしたものの、本当に震えてるだけで何も言えない様子にアタシは呆れて一人の鳩尾を殴って気絶させた。その様子を見て残りの2人がさらに竦み上がった。アタシは腕を組んで仁王立ちすると、2人を睨み付けた。
「人に絡んで不快にさせておいて、子供でも言える言葉一つも言えねえのか?」
「…す、すす、すすすすいません!」
「…で?オメエは?」
ガタガタ震えるもう一人は懐から財布を取り出し、アタシに両手で差し出した。それを見てか、既に謝ったもう一人も財布を取り出す。
「そこの!何してる!」
「あ?」
「「申し訳ありませんでしたッ!」」
道の方から声を掛けられたのに気付いたおっさん達が、財布をアタシに押し付けてダッシュで逃げていった。あんだよもう、と落ちた財布を拾い上げると、そこには衛兵のような格好の男が一人立っていた。
「今、何をしていた。そこの倒れている男共は何か関係があるのか?」
「あんだよ、店の中で絡まれたから店に迷惑掛けねえように外に放り出して謝らせてただけだぞ。どっから見てたか知らねえけどよ、別に金銭を要求もしてねえし、ただ気絶させた程度だし問題ねえだろ?」
「そ、そうか。それは難儀だったな。」
「もう行っていいか?一日中移動でよ、疲れてんだよ。」
「うむ、事情は分かった。邪魔したようで悪かった。」
物分かりのいい衛兵でよかったぜ。アタシは気絶している男共を衛兵に任せると、酒場の仲間の所へと戻った。
「みんなしてニヤニヤしてるだけなんだもんよ、ひでえよ?」
「でも大丈夫でしょ?久々に暴れたいだろうって思ったのよ。」
「そうそう、あんな連中じゃアネゴに傷一つつけられないでやすよ。それに、アネゴの大切な臨時収入っすよね。」
ジャレットはそう言うと革袋を一つアタシに手渡した。…気絶した連中の財布の山かコレ。アタシはそのまま採集袋にそれを突っ込んだ。




