ヤンキー娘、護衛依頼を受ける。
ストックが切れましたので、次回は来週月曜日の22:00投稿になります。すいません。
アーヴィンが最初に遊びに来てから一ヶ月近く経った。もうすぐ雇い止めも終わる時期だとかで、地味に客も増えてきてる気がする。ちらほらとしか降らなかった雪も、これからガッツリと降るらしい。アタシの住んでいたヨコハマじゃ、積もったら大騒ぎってところだったからな。冬支度はちゃんとしたほうがいいよ、とリタちゃんからも言われてる。
雇い止めが終われば3日働いて1日休みのサイクルになるから、その前にまた何か依頼でも受けようかとギルドに顔を出したアタシをヘレネさんが手招きした。何か怖い笑顔を浮かべているような気がすんだけどよ…。
「シオリ、ちょっといいかしら?」
「な、何だよ。」
「前に、ランクの話をしたことを覚えてるかしら?上級者のグループに混ぜて、って話。」
そんなん、あったっけか?うーん、覚えてねぇ…。アタシが腕を組んで頭を捻っていると、ヘレネさんが諦めたように溜め息をついた。
「…まぁ、いいわ。それでね、多分今日あたりシオリが来ると思って、カオリモの街迄の護衛依頼を準備しておいたわ。一緒に行くランクAのグループも食堂で待ってるし、すぐに行けるわよ。」
「…ランクAって凄い人達なんじゃねぇのか?」
「ちょうどBの連中が討伐依頼で出払っててね、Aのグループしか捕まらなかったのよ。依頼的にはS、A、B向けだから大丈夫よ。」
「…護衛依頼ってよ、アタシがよく見かけるのはB、C、Dの奴なんだけどよ、なんでそんなランク高ぇんだ?」
おかしくねぇ?とアタシがヘレネさんを見ると、そうなのよ、といった感じで頷いた。
「普通の護衛依頼のランクならそうよ。これはちょっと特殊な依頼でね?神殿から封印指定の物をカオリモの街まで運ぶ神殿の幹部の方の護衛依頼なのよ。だから、高ランク指定されてるのよ。」
「へー。って神殿かよ…。」
「神殿の人は喜んでたわよー。聖女さまと一緒に行けるって。」
「うへえ。」
嫌そうな顔をしたアタシをヘレネさんがニヤニヤ見ていたけど、思い出したかのように口を開く。
「食堂には護衛依頼が終わるまで休みって言っておいたわよ。ついでに執事さんに伝えたら旅装持ってくるって言ってたから。」
「お、おう。」
用意周到だな、と思って溜め息を吐いていると、アタシとヘレネさんのやり取りが伝わったのか食堂の方からゾロゾロとファンクラブの連中と…神殿のジッちゃんがニコニコしながらやって来るのが見えた。アレ?
「何だよ、もしかしておめえらがランクAのグループなのかよ?それにヴェール姉とモール姉まで。」
「そうよー。師匠がねー。一緒に行けってー。心配性だよねー。」
「いいじゃない一緒で。このグループ結成の為に壮絶なクジ引き戦が繰り広げられて大変だったんだから。」
女性陣の言葉にリーダーっぽい男性がアメリカ人みたいなジェスチャーで応える。
「そうなんだよ。元々俺のグループ3人組なのに、みんなして臨時で入れろって騒いでよ。今何人いると思う?7人だぜ。」
「ハハハ…。なんかアタシの所為でよ、悪りぃな。」
「そ、それはいいんだよ。俺はシオリと一緒に依頼が出来るのは楽しみだからな。…みんなも今回に限ってじゃないんだから、焦らなくても」
「焦るわよ!」「回数は多い方がいいじゃねえか!」
「これだもんよ。…仕事はちゃんとしろよ?」
「手取り足取りグループについて教えるわよ?勿論。」
ヴェール姉はあれだ、アーヴィンに出会った帰りに会った冒険者の姉ちゃんなんだけどよ、なんと探していた師匠の師匠ってのがギルベルトのジッちゃんで、今はアタシの屋敷の従業員の官舎に居候中なんだよな。働かざるもの食うべからずとか言われてギルドの依頼に屋敷の仕事に色々ジッちゃんからやらされてる代わりにアタシと一緒に剣技とか歩法とか仕込んでもらってんだよな。ちなみに、もう一人のモール姉はアタシの事を気に入ってくれてるのか、冒険帰りにその土地土地の名産品をお土産にくれる冒険者の姉ちゃんだ。そういやランクはAって言ってたもんな。リーダーの兄ちゃんとかジャレットとか残りのみんなはファンクラブの以下略。
まだあーでもないこーでもない言ってるみんなを呆れて見ていると、神殿のジッちゃんがスルスルっと間を抜けてアタシの隣にやって来た。身のこなしがスゲエな。護衛要らねえんじゃねえか?
「詩織様、先月訪ねに行って以来久方ぶりですのう。カオリモの大神殿まで、よろしくお願いしますじゃ。」
「お、おう。」
「一応、登録の際の儀式で全神殿にお姿は伝わってるんですがの、ついでに大神殿でウチの長の方に面通しもお願い出来ればと思っておるのですが、どうですかのう?」
「儀式、ってあの鈍器がピカーって光ったやつか?そんなんで姿が伝わるってのもすげえけどよ…メンドくせえのは嫌だぜ?」
「ちゃちゃっと終わらせられると思うんじゃがのう。長くなりそうじゃったら放っておいてわしと一緒に帰れば問題ないと思うんじゃがの。」
「…そんなんでいいんかよ。」
呆れたアタシに、ジッちゃんはにっこりと笑って自慢気に自分を親指で指差した。
「わし、神殿でも偉い方から数えたほうがすぐにじゃからの。流石に一番上じゃないんじゃが。」
「へえ。ジッちゃんって偉かったのか。」
「…そうですよ、お嬢様。ダージ殿はこんな感じでもペルエステ神殿の大幹部のお一人ですから。」
「!?」
思わずビクッとしたアタシに申し訳なさそうにギルベルトのジッちゃんが旅装を手渡してくれた。てかホント、いつの間に後ろにいたんだよ。ビックリしたぜ。
「おお、ギルベルト殿、お久しゅう。」
「お久しぶりでございます、ダージ殿。
…お嬢様、くれぐれもお気をつけて。カオリモの街までは帝国との国境を通りますので、この間のお話の通りに少々きな臭いですから。」
「わかったよジッちゃん。他にもみんないるしよ、最悪護衛対象のこのジッちゃん掴んで走って逃げるからよ。」
「…最悪はアレらを呼んで背後を任せるのもお忘れ無きよう。それでは、私は仕事に戻ります。」
ギルベルトのジッちゃんは来た時みたいに気が付けば居なくなってた。最近は四つ足とかレイルにもなんか教えてくれてるみたいだし、それに加えてマシューのジッちゃんもマホー教えてくれてるみたいで2匹もだいぶ強くなってきてるみてえなんだよな。うんうん、と考えていると、じゃあ出発するから表に集合、と号令が掛かった。




