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親友同盟  作者: 奏多悠香


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3/3


 私は家に帰ってから、大切にしまっていたアルバムを取り出した。

 ひまわりみたいな美雪と、太陽みたいな堀くん、月みたいな蒼くん。高校時代から後の私のアルバムには、この3人の笑顔があふれている。

 いつからだったろう。私が堀くんじゃなく、蒼くんを好きになったのは。アルバムの最初のページに入っていたのは、付き合いだしたばかりの美雪と 堀くんのはにかんだ笑顔。

 蒼くんと親友同盟を結んで間もない頃。

 この頃はまだ、私は堀くんが好きだった。

 次の写真は、クリスマスパーティー。4人でおそろいのとんがり帽子をかぶってはしゃいでる。テーブルの上に載ってるのはシャンパン風の炭酸飲料。そうか、高校生だもんね。かわいいなぁ。

 もう随分と前のことなのに、写真を見ると色々な記憶が戻ってくる。

 一枚一枚めくっていく。

 そして私は手をとめた。

 ああ、そうだ。多分、この頃だ。

 私が蒼くんを好きだって自覚したのは、高校3年生の夏。

 もっと前から惹かれてたのかもしれないけど、堀くんじゃなく蒼くんが好きだってはっきりわかったのは、この頃だ。

 私は一枚の写真をアルバムから取り出す。

 そしてそれをそっと撫でた。

 ティアラをかぶった私と、その隣で王冠をかぶった蒼くん。

 おそろいの(たすき)には、「ベストカップル」の文字。

 堀くんと美雪といつも4人で一緒にいたため、わたしと蒼くんも付き合っていると勘違いされることがあった。同じ学年のみんなはそこに友情しかないのを知っていたけど、後輩はそうはいかない。そして3年生の文化祭、私たちは校内ベストカップル賞をいただいてしまった。

 カップルじゃなくて、同盟なのに。

 事前投票で選ばれるその賞は、校内のカップルが皆狙っている賞だった。

 私も1年生の頃は憧れていた。堀くんと一緒にあの賞が欲しいって。

 ベストカップルと一緒に、ミスコンテストとミスターコンテストもあって、私はミス葉高に選ばれ、蒼くんはミスター葉高選ばれていた。

 ミスとミスターがペアでベストカップル賞を取るなんて初めてのことだったらしく、文化祭は異常な盛り上がりを見せた。その文化祭後、一気に知名度が上がってしまった私と蒼くんのところには、望みもしないお誘いや、ネガティブな攻撃がわんさか寄せられた。

 女子の方が、陰湿でひどかったと思う。

 私が蒼くんを好きになったのはその頃だ。

 分かりやすい形で相手を諌めたりするんじゃなく、ただ静かに私のそばにいて、攻撃から守ってくれた。

 どうしようもなく切なくなって、私はその写真をひっくり返した。

 ミス葉高に選ばれて、嬉しかった。

 ベストカップル賞も、嬉しかった。

 友達が祝福してくれたのも、嬉しかった。

 でも、どうしてだろう。

 私は、堀くんにも蒼くんにも、好かれることはなかった。


「いいなぁ、さゆみは美人だから、選び放題じゃん」って誰かに言われたことがある。

 でも、そんなことないよ。

 自分が好きになった人には、好きになってもらえなかったもん。


 ――蒼くん、美雪と堀くんはきっと崩れないよ。


 蒼くんの失恋は決定事項だよ。

 それなのに、同盟を壊して、もしかしたら堀くんとの友情を壊してまで、 美雪にぶつかるの?

 そんなに、好きなの?

 高校を卒業して3年半も経って、進路が分かれた美雪とは会うことだってあんまりなかったはずなのに、それでもそんなに好き?

 毎日のように会ってた私より?



 敵わない、敵わないよ。



 忘れていた。もう会うこともないだろうなんて、何を馬鹿なことを思ったんだろう。

 親友同士の結婚式、会わないはずはなかったのに。



「久しぶり」


 半年ぶりに見る、蒼くんのほほえみ。

 今日のこの日、やっぱり切なそうなその目は、きっと私以上にウサギの目。


 蒼くん、美雪に気持ちは伝えたの?

 同盟、解消したもんね。

 きっと、伝えたよね。

 美雪、何て?

 無事に今日のこの日を迎えたってことは、蒼くんは失恋したの?

 それで、どうするの?

 それでもあきらめきれずにまだ好きなの?

 蒼くんは、どうするの?

 ずっと美雪を好きでいるつもり?

 そんなの、切なすぎるんじゃないの?

 他に、目を向けたら?

 他にもいるんじゃない?

 もう、私でなくてもいいよ。

 だからそんな、切ない目で笑わないで。

 気づいてないの、蒼くん。

 笑えてないよ。

 ちっとも、笑えてない。

 さっき私のところに寄って来た時から、目には切なさ以上の苦しさが見て取れる。

 苦しいんだね、蒼くん。

 言いたいことが山ほどある。そのどれも、口に出しては言えない。



「他に、目を向けたら?」


 蒼くんの形のよい口からこぼれた言葉に、私は目をしばたく。


「他にもいるんじゃない?」


 ――え?


「それでもあきらめきれずにまだ好きなの?」


 私の心の中の声を蒼くんが紡ぐので、わたしは答えることもできずにただただ目を丸くする。


「ウサギの目をして、ずっと悠斗を好きでいるつもり?」


 どういうことかさっぱりわからない。


「そんなの、切なすぎるじゃん」


 普段は口数の少ない蒼くんが私の言葉を待たずに次々と言葉をつなぐ。


「気づいてないの、さゆみ。ちっとも、笑えてないよ。今日ずっと、切ないウサギの目をしてる。そんなに悠斗が好き? 結婚するのに? 他に目をむけたら? 俺じゃなくても、いいからさ。そんなウサギの目、するな」


 蒼くんの言ってる言葉の意味が、分かったような気がした。

 だって、私が思っていることと全く同じ。それって――


「俺はとうに種村さんのことは好きじゃなくて、さゆみのことが好きだった。さゆみが悠斗のこと好きなの知ってるから、さゆみの切なそうな顔を見るたびに苦しかった。悠斗にも幸せでいて欲しいし、種村さんにも幸せでいて欲しい、さゆみにも幸せになって欲しい。どの気持ちも嘘じゃなくて、難しかった」


 ああ、蒼くん。

 難しくなんてないよ。

 本当はずっと、もっともっと簡単だったんだね。


「蒼くん、私が好きなのは」


 そこで一度、深呼吸をした。

 うっかり、涙がこぼれた。


「蒼くんだよ」

「え?」


 私たち、いつから両想いだったの?

 堀くんと美雪、蒼くんと私、みんなが幸せになる方法、見つかったね。




 親友同盟は、解消だね。



 FIN

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