第38話 ウィルソン家が見ている
スピードのすごい声に驚いて、私たちは外へと出ます。
そこには武器を持ってスピードに襲い掛かろうとしている人がいました。
スピードは羽ばたいて必死に抵抗しています。
「何をしているのですか、あなたたち!」
ミサエラさんが大声で怒鳴っています。
「げっ、商業ギルドの副マスじゃねえか」
「えっ?!」
冒険者の一人が叫んだ内容に、私は思わずミサエラさんを見てしまいます。
ミサエラさんは私をちらりと見ると、再び冒険者たちに目を向けます。
「あなたたち、その子の従属の輪が見えないのかしら。ここにいるレチェさんの従魔ですよ」
「ラッシュバードが人に懐くなんて信じられるかよ!」
「そうだそうだ。魔物は狩るべきなんだよ!」
ところが、冒険者たちは聞き入れようとしません。これが固定概念に凝り固まっているというものでしょうかね。視野狭窄は困ります。
「スピード、おいで」
「ブェフェ」
なんとも言えない声で鳴くと、スピードは私に駆け寄ってきて頭を擦り付けてきます。
本当に人懐っこい子ですね。
この様子には、スピードに斬りかかってきた冒険者も驚いてしまってますね。
「まったく、従属の輪を持つものに対して斬りつけるだなんて、冒険者ギルドにはきつく言っておかねばなりませんね。それに、重大な冒険者の違反行為です。しばらく依頼を受けられないことも覚悟して下さいね
「な……」
ミサエラさんの威圧感がパンパないですね。
怖そうな冒険者たちが完全に怯んでいます。
「し、失礼しやした!」
冒険者たちは怖くなって逃げていってしまいました。
あまりの光景に、私は目をぱちくりさせてしまいます。
「外に置いておくとまたならず者が襲ってきそうですね。この子も中に連れて行きましょう」
「えっ、ええ?!」
私は驚いていますが、ミサエラさんは私にじゃれつくスピードに近付いてきます。
「うん、おとなしいいい子ですね。さあ、ご主人様と一緒に中に行きましょうね」
「ブェッ」
なんということでしょうか。スピードはミサエラさんの言うことをすんなりと聞いてしまいました。
……本当に何者なのでしょうか、ミサエラさんは。
こうして、再び中へと入っていき、先程の部屋で腰を落ち着けます。
「そういえば、私の自己紹介をまだしておりませんでしたね。半年間黙っていて申し訳ありませんでした」
「いえ、私も自分たちのことで手いっぱいで聞くことはありませんでしたから」
ミサエラさんの謝罪に、私も言い訳をしておきます。
私の言葉に、ミサエラさんはにっこりと微笑みます。
「自己紹介をさせて頂きますね。私はミサエラ・ウィルソン。この街の商業ギルドのサブマスターをしております」
「なんと、サブマスターさんでしたか。って、ウィルソンってまさか……」
私はミサエラさんの家名に気が付いて、表情を青ざめさせます。
ウィルソンということは、ミサエラさんもウィルソン公爵家の血筋の方ということです。
「くすくす、リキシル様ってば私の話をしていなかったのね。そのくせ、この街の近くを紹介するとは、やってくれましたね」
「え……と?」
話が見えてきませんね。どういうことなのでしょうか。
「ウィルソンを名乗ってはいますが、私はリキシル様の妻です。届け出も報告もしていないので、ご存じなくても不思議ではありませんよ」
「え、ええええっ!?!?」
私の叫び声がこだまします。
なんと、リキシルおじさまってば結婚されていたんですね。でも、どうしてミサエラさんはお屋敷に住んでいらっしゃらないのでしょうか。これは気になります。
「一緒に住まないのではなくて、住めないのですよ。私は平民ですから」
一緒に住んでいない理由を尋ねれば、そのような答えが返ってきました。
詳しく話をお聞きすると、ミサエラさんは元々公爵領の屋敷に出入りしていた平民の使用人なのだそうです。
そんな方が商業ギルドのサブマスターをなさっているのですから、世の中何があるか分かったものではありませんね。
「まぁ、詳しいなれそめは……やめておきましょうか。今は仕事の話です」
そこまで話しておいて打ち切るなんて、そんなご無体なですわよ。
でも、元々ただの平民だった方が商業ギルドのサブマスターなんですから、ミサエラさんは能力があったということなのでしょうね。経緯は分かりませんが、素晴らしいと思います。
「では、このくらいですね。次の取引は春先ということでよろしいでしょうか」
「はい、そうですね。今はちょうど冬でも育つ作物に切り替えましたから」
「どんな植物を用意したのか分かりませんが、楽しみにさせて頂きますね」
ちょっとしたハプニングもありましたが、概ね和やかな雰囲気で話し合いを終えることができました。
なるほど、リキシルおじさまがあの場所を紹介して下さった理由がよく分かりました。
家を出てのんびりスローライフをしているつもりですが、どうやら私たちは結局ウィルソン公爵家から見守られ続けていたんですね。
「まったく、みんな過保護なんですから」
スピードの背中に乗った私は、現実を笑いながら農園へと戻っていったのでした。




