第36話 お別れですね
いよいよアマリス様が王都に戻られる時がやってきました。
私たちの作った作物は人気だということで、アマリス様も安心して王都に戻ることができそうです。
約束の日の朝のこと、アマリス様は朝食の後、ラッシュバードのいる小屋へと向かっていきました。
「フォレ、ラニ、おいで」
「ブフェッ」
なんとも言い難い鳴き声とともに、アマリス様が巻かれた緑とピンクのスカーフを着けたラッシュバードが駆け寄ってきます。
緑の方がフォレ、ピンクの方がラニ。アマリス様が名付けられたラッシュバードです。
「あなたたちも王都に来る?」
アマリス様が声をかけると、アマリス様をじっと見ながら首を縦に振っています。アマリス様の仰られている内容が分かるのでしょう。
頭がよくないと言われていますが、この子たちはなんだか違う気がしますね。眷属化させたからでしょうか。
ちなみにですが、小屋の中ではアマリス様の侍女であるハンナと、私の侍女であるイリスが荷造りをしています。
「アマリス様、そろそろお迎えがいらっしゃります。着替えて支度をなされた方がよいのでは?」
「そうですね。今日まで本当にお世話になりました、レイチェルお姉様」
見事なカーテシーを決めるアマリス様です。四か月ほどでしたが、ここでの滞在を経験しながらも王女たる気品をまったく失わないとは、さすがはしっかり者ですよ。
あのわがままなアンドリュー殿下を御せていた唯一の存在ですからね。
服を着替えなければならないというのに、アマリス様はもう一度ラッシュバードとしっかりと戯れておりました。
空にはすっかり日の光が昇り切ってしまった頃です。
小屋の外が騒がしくなってきました。
ついに、アマリス様をお迎えする一行がいらしたのです。
「お迎えに上がりました、アマリス王女殿下」
隠遁生活をしたいというのに、小屋の近くまで来て騎士たちがこの敬礼。目立って仕方がありません。
幸いなのはここが公爵領の中でも辺境で人が滅多に来ないということですね。目撃されたら、絶対大っぴらに広がります。人のうわさは本当に伝播が速いですからね。
「みなさま、お疲れ様です」
私たちの前に、王女の装いをまとったアマリス様が出てこられます。まぶしいですね。
横にはアクエリアスが浮いていますが、私とアマリス様しか見えないのですよね。あそこにいるということは、アマリス様についていくのでしょう。
「私たちは馬車には乗りません」
次にアマリス様の言い放った言葉に、迎えに来た騎士たちがどよめいています。
そうなるでしょうね。連れ帰る予定だったのに、用意した馬車に乗らないなんて言われれば当然です。
「私とハンナはこの子たちに乗ります」
アマリス様が視線を向けると、綱に繋がれたラッシュバードが二羽やってきました。フォレとラニですね。綱をかけられていますが、すごくおとなしいですよ。
魔物であるラッシュバードが出現すると、騎士たちが一斉に身構えます。
ところが、ラッシュバードは落ち着き払っていて、アマリス様を見かけると近寄って顔を擦りつけています。
「お、王女殿下?」
「この子たちは私の従魔です。すごくおとなしいですし、賢いんですよ。ハンナ、あれを」
「畏まりました」
驚く騎士たちに、アマリス様の命令でハンナは取り出した書類を見せていきます。
「従魔登録証だと?!」
「これがあるということは、このラッシュバードたちは王女様の従魔なのか?!」
アマリス様が発言してらっしゃるのに、信じない人がいますね。
それにその書類はこのウィルソン公爵領で発行された正式な書類。あなた方はウィルソン公爵家までけなすおつもりですかね。
私は様子を見守りながら、表情を引きつらせています。はっきり申しまして、声を大にして文句を言って差し上げたいですよ。
ですが、ここは快くアマリス様を送り出したいですので、我慢です。
次の瞬間、アマリス様はラッシュバードをしゃがませて、その背中に飛び乗ります。
「これでも信じないと仰るのですかね」
アマリス様の指示をしっかりと聞いていますし、背中に乗っても暴れる様子はありません。
ハンナも同じように乗れば、もう信じない者などいないでしょう。
「お姉様、今日でお別れだというのに申し訳ございませんでした。必ず魔法学園にルーチェと一緒に合格して、お姉様の無念を晴らして差し上げますわ」
「アマリス様なら大丈夫ですよ。ルーチェにもしっかりとお伝え願います」
「はい、頼まれました」
私たちの話が終わると、アマリス様の荷物と農園で採れた作物の一部が馬車に積み込まれていきます。
なんでしょうかね。最初は迷惑がっていましたのに、いざ戻られてしまうとなると寂しく感じてしまうのは……。
ですが、アマリス様は王族ですから、これでよかったのだと思います。ラッシュバードたちを私たちの代わりだと思って仲良くしてあげて下さい。
ギルバートとイリスが荷物の積み込みを手伝っていると、その最中に驚くべき光景を見てしまいます。
「えっ、スピードとスター?! どうやって来たのですか」
私の方の従魔であるスピードとスターがひょっこり姿を見せたのです。
この二羽は小屋でおとなしくしていたはずなのに、どうしてやってきたのでしょうか。扉だってちゃんと開かないようにしてあったはずなのですが、謎過ぎます。
『この子たちもお見送りがしたいんだって』
『だから、僕たちが連れてきたんだ』
なんと、犯人はノームでした。
そうですね。今まで一緒だったフォレとラニともお別れになるのですから、ちゃんと見送りたかったのですよね。
(ありがとう、ノーム)
私はこっそりお礼を言っておきます。
「それではお姉様、私はお城に帰ります。また、お会いできる日を楽しみにしていますわ」
「はい、アマリス様。どうかお達者で」
互いに挨拶を終えると、アマリス様たちは騎士たちと一緒に王都へ向けて出発していきました。
私はその後ろ姿を泣きそうになるのを我慢しながら、ずっと見送ったのでした。




