マッドなあの娘はサイエンティスト
「ニア! ダメ! 待って!!」
「しかし、ベイル様! これは必要な調査です! 大切なんです!!」
ベイルくんが、ニアちゃんを羽交い絞めにするが、その力はすさまじいのか、彼女は少しずつ私に近付いてくる。
「調査のためには、皮膚を裂いて! 血を抜いて! 臓器を並べて!! 隅から隅まで調べなくてはならないのです!!」
「あっ、あっ、あわわわぁぁぁ……」
ハサミと注射器を手にし、口元には不気味な笑顔を浮かべるニアちゃんを見て、私はすっかり腰を抜かしていた。
「サンプルーーー!! まずは死ねぇぇぇ!!」
「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」
ベイルくんの腕からスポンッ!と抜けたニアちゃん。
これまでか、と思ったが、ベイルくんが彼女の腰に組み付いて、何とか止める。
「こら、ニア! ステイ!!」
「はっ!?」
ニアちゃんが急に停止し、表情が少しずつ弱々しい少女のものに戻って行った。
「す、すみません、ベイル様。私、つい特殊なサンプルを……ではなく、今をときめく大聖女様を目の前にして、興奮してしまいました。スイさんも、本当に申し訳ございません」
何度も頭を下げるニアちゃん。
でも、お前いま、私のことサンプルって言ったよな……??
「び、びっくりしたけど、大丈夫だよ。あと、それとそれをどこかに置いてくれたら、もう少し大丈夫になるかも」
私はニアちゃんの両手を順に指さすと、彼女は自らの手に握られたハサミと注射器に今気付いたとばかりに、驚きの表情を見せた。
「ごめんなさいごめんなさい!!」
ニアちゃんは銀色のワゴンの上に、ハサミと注射器を戻すが、あれがあると思うだけでまだまだ怖い……。
「すみません、スイさん」
次に謝ってきたのはベイルくんだ。
「ニア、普段は大人しいのですが、研究の役に立ちそうな珍しいサンプルを前にすると、異様に興奮してしまうことがあるんです」
「そ、そうみたいだね」
……ん? ベイルくん、君も私のことサンプル扱いしてない??
「そうだ、ニア! これを持ってきたよ」
ベイルくんは部屋の隅に立てかけてあった呪木を彼女に差し出す。
「今朝王都に出た、獲れたてのやつだから!」
少し驚いたように呪木を見つめるニアちゃん。もしかして、またあの狂気が始まるのか、と思ったが……。
「わぁ……!! ありがとうございます、ベイル様!」
案外普通!!
って言うか、普通に喜んでいるだけか。いや、普通じゃない。あの目の輝き方は……。
「私、嬉しいです。こうやって、ベイル様が約束を守ってくれて」
ニアちゃんは愛しそうに呪木を撫でる。……約束、ってなんだ??
「少し時間かかっちゃったけど、これからもたくさん持ってくるからね!」
ベイルくんの笑顔に、ニアちゃんは頬を赤く染めた。
「はい、お願いします!」
これはこれは……。
もしかして、ニアちゃんはベイルくんのことを??
私の女の勘はそう言っているけど……。
でも、だとしたら、ベイルくんって割とモテるのかな??
だが、私の思考を遮るように、ベイルくんが声をかけてきた。
「スイさん、それでなんですが……」
「なんだい?」
「一つお願いがあるんです。ちょっとだけ……検査を受けてもらえないでしょうか」
「け、検査ぁ……?」
なんだか嫌な予感。
「はい。ちょっとした健康診断のようなものです」
「えええ……。例えば、何やるの?」
「身長と体重を測って、視力を調べて……」
慎重に検査内容を説明するベイルくんだったが、ニアちゃんがワゴンに手を伸ばし、何かを握った。
「注射! 注射です! 絶対に注射はさせてくださいーーー!!」
「ひっ、ひやあぁぁぁーーー!?」
注射器を手にし、今にも飛びかかろうとするニアちゃんを再びベイルくんが止める。
「こ、こら! それは最後に説明するって約束!」
「でも、ベイル様! 血を採らないと! 血を採らないと何も始まりませんから!!」
「ベイルくん! 嫌だ! 私は絶対に注射、嫌だからね!!」
しかし、ニアちゃんがベイルくんを振り払い、私に飛びかかってくる。
「注射ーーー!!」
もう何回目になるか分からない私の悲鳴が、またも研究所内に響いた。
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