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ナカ×ナカ

「だから言ったじゃないか!」


ベイルくんは正座したニアちゃんに言い聞かせる。


「スイさんは、絶対に注射とか嫌いなタイプなんだから、最後の最後で、飴玉とかあげた後にお願いするべきだって」


おい、ベイルくん。

私が飴玉程度で動くと思っているのか?


「ご、ごめんなさい、ベイル様。スイさんの血がどんなものか、今すぐ知りたくて!! スイさんを見ると、何だか私……私っ!!」


ギロッ、と怪しい光が宿った目が私に向けられる。


「ひ、ひいぃぃぃ」


大型のデモンを前にしたときすら味わったことがないような、鋭い殺気。鳥肌が止まらないよ……。


「分かっているけど、ダメなものはダメ! ニアだってスイさんが生きた人間ってことは分かるでしょう! 他のサンプルと一緒にしちゃダメなの!」


「は、はいぃ……」


反省したのか、体を縮こまらせ、ニアちゃんは何度も「ごめんなさい」を繰り返すのだった。


「で、なんで私が検査を受けないとダメなの?」


ニアちゃんがいると話しが進まないので、私とベイルくんは廊下に出た。ベイルくんは言う。


「やっぱり、スイさんって聖女として特別な存在だと思うんです!」


話しの導入は、私の耳の穴を大きくさせた。だって、聖女として特別って言われちゃったんだもん。


田舎でポンコツ扱いされていた私が!


王子様から特別って言われているだから!


「ほう。どういうことかね、ベイルくん」


「僕のドラクラ化は、どう見ても他と違うのは、スイさんも感じているはずです。まず、体が大きくなるなんて聞いたことないし、剣を一振りすればデモンを一気に薙ぎ払い、巨大な呪木だって根元からバッサリなんですから」


「でもさ、それは単純にベイルくんが凄いんじゃないの? トランドスト家は最強のドラクラを生み出す家系なんでしょ??」


「だけど、僕の体なんて既に何回も調べています。ドラクラとしての適性はどれも標準以下。本当に才能がないんです」


肩を落とすベイルくん。

だが、すぐに真剣な眼差しを私に向けてくる。


「だから、原因があるとしたらスイさんなんです。お願いします、スイさん! 検査を受けてください!!」


深々と頭を下げるベイルくんだが、私の答えは決まっている。


「……嫌だ」


顔を上げたベイルくんは呆れたような目で私を見た。


「……どうせ注射が嫌なんでしょ?」


ぐぅ……。

ベイルくんめ、私のことをよく分かりやがって!!


「そうだよ! 怖いじゃん、あんな尖った針を血管に刺すなんて!」


「でも、デモンの爪や牙の方が怖くないですか?」


「あれは逃げれるし! 危なくなってもベイルくんが守ってくれるから怖くないもん!」


少しだけ嬉しそうにするベイルくんだったが、すぐに必死懇願モードに戻ってしまう。


「でも、スイさんの秘密が分かれば、世界はもっと平和になるかもしれないんですよ? そしたら、スイさんはテレビや新聞、歴史の教科書にだって乗りますよ!」


テレビ! 新聞! 歴史の教科書! 超有名人!!


で、でも……。


「痛いのやだ!」


ベイルくんは肩を落とす。

諦めてくれたか、と思ったが、ポケットの中をごそごそと探り始めた。


「スイさん、これを見てください」


そして、取り出したのは……。


「ベイルくん、まさか本当にこんなもので私を懐柔するつもりかい?? これ、ただの飴玉だろ!!」


そう、袋に入ったフルーツキャンディーだ。


「違うんですよ、スイさん。この飴、若者の街と言われるシーブヤにある、マルキョウという店で期間限定販売されたものなんです。しかも、有名パティシエのファビオ・ナカと、次のトレンドを仕掛けるデザイナーと話題のテリオ・ナカによる、ナカ×ナカ・コラボレーション商品なんです! 」


「うううぅぅぅ、出てきた固有名詞、ぜんぶテレビで聞いたことがある……」


「さらにですよ、スイさん。ナカ×ナカはこのコラボ商品を発売した後、一緒に企画したイベントの失敗をきっかけに不仲になったので、二度と食べられないキャンディーなんです。これを食べたことがある、と言ったら、どんな都会に住んでいるお洒落な若者でも、尊敬の目で見られちゃうような代物なんですよ!!」


く、悔しい……。

でも、ベイルくんは私のコントロール方法を完全に理解している!!


私の頭の中には、注射器の針がぐるぐると回っていたが、それでも言うしかなかった。


「ベイルくん、私……頑張るよぉーーー!!」




それから、身体測定だけでなく、変な液体を飲まされてぐるぐる回されたり、大きい筒の中に入れられたり、色々と苦痛を強いられた。そして、最後は……。


「スイさん、お待ちしてました……!!」


「な、なんでニアちゃんが……」


そう、最後の注射を担当する人は、ニアちゃんだったのだ。


「やっぱりやだ!! 帰る!!」


「スイさん、大丈夫ですから!」


付き添いに来てくれたベイルくんが私の足にしがみつく。


「ええーい、ちびっ子の君が私を止められると思うな!」


しかし、彼を振り払おうとする間に、ニアちゃんの接近を許してしまった。


「ええ、スイさん。大丈夫ですよ。ちょっと針を刺して、血を抜くだけですから!!」


「お、お助けえええぇぇぇ!!」


私は両目を閉じて、星の巫女様に無事を祈るしかなかった。

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