別に興味はないけど
「聖女様、援護を!」
「オッケー、ベイルくん! ……よし、最後の一撃、行っちゃって!」
「お任せを!」
ベイルくんが背中の大剣を手に取り、デモンを数体まとめて斬り伏せる。天才少女に作ってもらった剣を手にしたベイルくんは、これまで以上に無敵だ。
「さっすがー。じゃあ、後は呪木の除去だね」
「はい。聖女様にお怪我がなく、何よりです」
「そうね。安全第一!」
呪木の大きさは、この前のものに比べたら小さいけど、ベイルくん曰く、王都に出るサイズではないらしい。でも、私たち無敵王子様と大聖女のコンビの前には、朝飯前。なんちゃらの大木同然ってわけ。
「それにしても、本当にこれまでは王都で黒霧は出なかったの? 最近、当たり前のように霧が出ているよね」
呪木を切断したベイルくんが、大剣……斬呪刀を背中に戻しながら振り返る。
「はい。週に数回も霧出るなんて、父上の代でもなかったと聞いています」
「何か原因があるのかな?」
「私も同じことを考えていました。なので、この後に調査の経過を聞きに行こうと思っています。ぜひ、聖女様もご一緒に」
「調査の経過? どこに?」
「それよりも、聖女様……」
そう言って、ベイルくんが近付いてくる。
「な、なに?」
ベイルくんは半歩もないくらい近い場所で、私を見つめてくる。
「……」
「呼んでおいて、黙らないでよ……」
しかし、ベイルくんは何も言葉を発することなく、指先で私の顎をなぞった。
これは……絶対にアレだ。
王都に出た巨大な呪木を除去してから、何度も二人で戦ってきたけど、繰り返すたびに確信してきた、この現象……。そう、ベイルくんは大人に変身すると、
エッチになるのだ!!
霧の中だと勇敢に戦う、誰よりも頼りになるドラクラなんだけど、安全な状態になったと確信した途端、こうやって私にちょっかい出してくる。小さいときの彼からは想像できない、すけこまし野郎なのだ。
「や、やめてよ!」
距離を取ろうとするが、ベイルくんは私の腰に腕を回し、逃がそうとしなかった。
「私は……私を抑えられそうにない」
「抑えてほしいなぁ。お利口で可愛いベイルくんが私は好きだなぁ……」
目を逸らしながら言うが、ベイルくんは私の顎を指でつまみ、視線を正面に強制した。
「今の私は、お嫌いですか?」
「き、嫌いって言うか、気持ちが落ち着かなくなるから、こういうのはやめてほしいのっ!」
「なぜ、気持ちが落ち着かなくなるのです?」
「し、知らないよぉーーー!」
私はベイルくんの厚い胸板に手を置き、ぐっと押して抵抗するが、まったく意味がない。逆に、ベイルくんが顔がどんどん近付いてくる……。
ああ、もう!
今日こそ私のファーストキスが奪われる……
と思ったが!!
「むっ!?」
ベイルくんの体から、モクモクと蒸気が上がる。
「ふふん。時間が来たようだね、ベイルくん」
「な、なぜだ……いつもより、早い気が」
「このパターン、何度繰り返していると思っているんだい? 霧の規模を見て、ベイルくんならどれくらいで除去できるか計算し、それに合わせた血をギリギリの量だけ与えたんだよ。そしたら、この通り。霧を除去すると同時に、君はただのちびっ子さ」
「お、おかしい。聖女様はお馬鹿なのに、そんな計算をできるなんて……」
「おい、君。どさくさに紛れて変なこと言ってない?」
「無念!」
ブシューーー、と体全体から蒸気を出して、元の姿に戻るベイルくん。そんな彼の目は、何が起こったか分かりません、と言わんばかりに、丸々としていた。
私は顔をしかめつつ、前々から気になっていたことを聞いてみる。
「前から気になっていたけど……君、変身中の記憶あるの?」
「お、覚えているような、覚えていないような……」
「曖昧だな。ハッキリしなさい」
私はベイルくんを抱き上げ、近い距離で瞳の中を覗き込むが、彼はやましいことがあるのか目を逸らす。
これはしらばっくれるつもりだなぁ?
私は溜め息を吐いて話題を変える。
「まぁ、いいよ。それで? 調査の経過を聞きに行くって言ってたけど、どこに行くの?」
「あ、はい! 大学です! スイさん、今日は大学に行きましょう!」
「だ、だいがくぅぅぅーーー?」
まさか、私の耳がそんなワードを入れることになるとは……。
でも、正直興味ないなぁ。
私、大学で勉強するつもりなんてないし。あからさまに嫌な顔をする私だったが、ベイルくんはなぜか小声でこんなことを言った。
「スイさん、大学と言ってもトランドスト大学ですよ」
「ふーん……。普通の大学と何か違うの?」
「都会の若者は、誰でもトランドスト大学に憧れているんです。都会の若者なら、誰でもここに行くことを目指します。で、トランドスト大学に行った若者は、誰からも憧れられるんですよ?」
……なるほど!
そりゃ行くしかないね!!
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




