未来の私は願う
それから、私とベイルくんは手をつないで、夏祭りに参加した。そこには、今まで食べたことのないもの、見たことのないもの、聞いたことのないもので溢れていた。
私たちは一通り、お祭りを楽しんだ後、馬車に乗り込んで城へ戻ることになった。
「あー、楽しかった。都会のお祭りって凄いんだね。ララバイ村で年に一度開催されたお祭りが何だったんだろう、って思うくらい盛大だったよ」
「次は、僕とエンゲ翁の誕生パーティもあります。これは王城で開催されるので、王族、貴族、武家の人ばかりで窮屈かもしれませんが、かなり豪華ですよ」
「うへぇ! そんなの、私が出席していいの?」
「もちろんです。だって、スイさんは僕のパートナーなんですから」
凄いなぁ。
ベイルくんは本当に王子様なんだなぁ。
でも、嗚呼……。
何だか急に罪悪感。
だって、ベイルくんは私にこれだけ盛大なプレゼントをくれたのにさ……。
「ベイルくん、ごめんね」
「何がですか?」
「私は、ベイルくんに何もあげられない。むしろ、まともに誕生日おめでとう、って言ってあげることすらできてなかったよ」
「色々ありましたから、仕方ないですよ。それに、僕はスイさんといるだけで、しあわ……えっと、凄く楽しいですから!!」
「ほんと、ごめんね。来月からは王族聖女としてお給料もいただけるみたいだから、一緒にご飯でも行こうね! 奢るから!!」
とは言え、王子様のベイルくんが喜んでくれるような豪華な料理って、どこに行けば出してもらえるんだろう。結局はお城の食事になるような……。なのに、ベイルくんは……。
「はい! スイさんと一緒に行けるなら、どこでも!」
めちゃくちゃいい子!
本当に良い子!
途端、目に涙が溢れてきた。私の人生は、この子が変えてくれたのだ、と。やりたいことがあっても、できなかった。きっと夢は叶えられなくて、田舎で不満を言いながら、何となく生きていくんだって。
それなのに、それなのに……!
「す、スイさん??」
私は、思わずベイルくんを抱きしめていた。
「ベイルくん、本当にありがとう。大好きだよう……」
「だ、ダメですよ、スイさん!! もちろん、僕もスイさんのことが大好きですけど、そういうことされると、大人になったとき、凄い反動が来ちゃうんです!! 次、大人になったらスイさんに何をしてしまうか、正直僕も押さえられなくて。だから……!!」
大人になったとき、反動??
なんのことだろう。
まぁ、いいか。
今は私の気持ちを伝えよう。
「そのときは、そのとき。私が全部受け止めるから」
「す、スイさん……。本当、ですか?」
「うん。だからね、今はこれを受け取ってほしいの」
私はポケットにしまっておいたものをベイルくんに渡す。
「これは……バッジですか?」
「うん。さっきお祭りの射的で獲った景品なんだけど。ベイルくんが変身したあと、マントで体を隠すけど、風で飛んで行ったら裸になっちゃうな、って……いつもハラハラしていたんだ。だから、せめてこのバッジでマントを止められたらな、って」
バッジのデザインはシンプル。
大きな星のマークがあるだけで、王子様には似使わない安物ですが……。
それでも、ベイルくんはバッジを手に取ると、宝石でも眺めるように目を輝かすのだった。
「ありがとうございます! 一生大切にします!!」
ベイルくんが良い子で……本当によかった!!
よし、今なら言える。
ちゃんと言わないと。
「……ベイルくん」
「はい」
「誕生日、おめでとう!!」
ベイルくんの笑顔は本当に可愛くて、いつまでも守ってあげたい、って思えるものだった。きっと、この幸せは、もっと大きくなる。そう思っていた。
でも、後々思うと、この瞬間が幸せの絶頂だったのかもしれない。
この日から、ちょっと未来の私は、ずっと願い続けている。
ベイルくん、もういいよ。君にはもっと幸せな未来があるはず。違う人と、違う場所で……幸せになれるんだ。だから、もう傷付かないで。嗚呼、どうか……彼が諦めてくれますように。私のことを忘れてくれますように、と。
それなのに彼は戦い続け、私は彼を守ることもできない。
夢を叶えた代償。それはあまりに大きかった。
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