映ってるんです
「呪木の公開除去の会場はこちらですー! 一般の方は、スタッフの指示に従い、整列の上、安全に注意してお待ちください。いいですかー、安全に注意してお待ちください!」
私は馬車の小窓から、こっそりと外の様子を窺う。たくさんの人が、呪木を囲み、これから始まる公開除去を心待ちにしているようだった。そして、そんな彼らからこんな声が聞こえてくる。
「大聖女様はまだかー!!」
「スイ様! 大聖女スイ様!!」
「スイ様ファンクラブにご登録の方はこちらの列にー!」
うっひょーーー!!
なぜか私の名前が知れ渡っている!!
超有名人!!
興奮する私だが、レックスさんは頭を抱えていた。
「城内に口が軽いものが多く存在しているようですね。困ったものだ」
「スイさん、顔を出し過ぎだよ。バレたら、馬車が囲まれちゃうから、気を付けてください」
「もうちょっと! もうちょっとこの熱気を味合わせて……!!」
「スイ様、後で嫌でも聴衆の目に晒されます。いまは自重してください」
くうううぅぅぅ……。
こんな経験、一緒に一度だろうなぁ。
いや、これだけ有名なんだから一生皆にチヤホヤされるのかも??
「ぐふっふっふっ」
小窓から離れる私を見て、レックスさんが世にも珍しい色合いの虫でも目にしたような表情になる。
「ベイル様、スイ様が変です……」
「大丈夫だよ、レックス。たぶん、これだけの人間から人気を得たら、一生チヤホヤされるだろう、って考えてニヤニヤしているだけだから」
「そ、そうなのですか」
ふっ、さすがはベイルくん。
私のこと、よく分かっているじゃないの。
「レックス様!」
馬車の扉をノックしたのは、レックスさんの部下の人だった。彼は、扉を開けることなく、ちゃんと伝わる声量で報告する。
「そろそろ、ベイリール様と聖女様の出番です。少し馬車が移動しますので、ご注意ください」
「分かった。引き続き、警戒の方も頼む」
「はっ!」
そこから馬車が少しだけ動き、また止まる。たぶん、王都の人たちが見ている場所とは反対側、呪木の裏側に回ったのだと思う。レックスさんは言う。
「さぁ、お二人の出番です。準備はよろしいですか?」
「はい!」
ベイルくんも頷く。
私は帯を締めなおして「よしっ!」と気合を入れた。
「では、行きましょう!」
馬車から降りると、騎士やサムライ、フォグ・スイーパなど、たくさんの護衛が周囲を警戒しつつ、私たちを誘導した。そして、呪木の向こうから、イベントの進行役らしき人の声が聞こえてくる。
「えー、皆さん! ついにですね、お待ちかねの公開除去の時間です。それでは、さっそくあの方たちに登場してもらいましょう。皆さん、大きな拍手でお迎えください!!」
バチバチバチッ!!
わーわーわー!!
と、空が割れてしまいそうなほどの歓声。これだけ人が集まると、こんなに大きい音が出るんだ、と妙な感心があった。
「ベイル様、スイ様、私の後を歩いてください。床に印があるので、そこに立ってくださいね」
歓声の中、レックスさんが叫び、私たちは頷いた。そして、皆の前に……。
「大聖女様ーー!! ベイリール様ーーー!!」
「スイ様!! 可愛いーー!!」
「スイちゃん、こっち向いて!! こっちーーー!!」
こんなに多くの人が私を見ている。
私を呼んでいる。
手を伸ばしている。
その非現実的な光景に、私は吞み込まれてしまいそうだった。だって、ララバイ村の人が全員集まっても、こんな人数には到底及ばない。私からしてみると、これだけ多くの人間が生きていることさえ、不思議に思えるような景色だったのだから。
圧倒されている私に、ベイルくんが言う。
「スイさん、皆に応えてあげてください」
「え? 応えるって??」
「こんな感じです」
ベイルくんが手を振ると、悲鳴にような、声にならない声が。
なるほど、手を振ればいいのね!
私が両手をぶんぶん振ってみると、その分だけの歓声が返ってきた!
「き、気持ちいい……」
私は体全身を使って両腕を振る。すると、人の海が波打った。
「凄すぎ……!! ん? ねぇ、ベイルくん。あれは?」
私が見つけたものは、何か大きな機械を担いだ人だ。
「あれは、カメラです。このイベントは全国生中継されているので」
「カメラ? 全国生中継?」
「要はテレビに映っている、ってことです」
て、て、て……テレビにーーー!?
あれって映れるのーーー!?
だ、ダメだ。
落ち着け私。
いや、でもこれだけは言わないと!
「ララバイ村の皆、見てるーーー!!」
私はカメラに向かって全力で叫んだが、それも歓声の吞まれてしまった。
うーん、何も伝えられないのはもどかしいけど、
ママとパパ、それからジョイが、テレビを見ているといいなぁ。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




