人生上手くいかないもんだ
王都の美しい街並みに、悲鳴と血が飛び交う。
「ベイリール様、大聖女様!!」
騎士らしき男性が、私たちに声をかけてきた。
「何があった?」
「テロリストです! 霧が晴れた瞬間、どこからか襲ってきました。迎え撃つにも、誰もが疲弊しきっています。このままでは……」
辺りは騎士やサムライ、フォグ・スイーパ……そして、テロリストと思われる黒ずくめの連中が入り乱れ、戦いが行われていた。すぐ傍で、血しぶきが舞い、断末魔の叫びが響く。
本当に、地獄みたいだった。
そんな光景を目にしながらも、ベイルくんは騎士たちに安心感を与えるように、深く頷いた。
「私が何とかする。負傷している者を優先して撤退を進めるように!」
「はい!」
それから、ベイルくんが縦横無尽に戦場を駆け抜け、テロリストを無効化していくが、いかんせん敵の数が多い。ベイルくんがどんなに頑張っても、仲間たちが傷付いていった。
「いや! リック、死なないで!」
少し離れたところから、女の人の声が。どうやら、フォグ・スイーパらしく、傷付いて倒れたドラクラをパートナーの聖女が何とか助けようと、彼の腕を引っ張っていた。
いや、彼女だけじゃない。たくさんの怪我人が、肩を貸し合ったり、簡易的な担架に乗せられたりして、戦場から離れようとしていた。しかし、そんな彼らをテロリストたちが囲う。
まずいよ!
ベイルくんを呼ばないと……!!
でも、彼も精一杯だ。だとしたら……、
「怪我人を襲うなんて……許せない!!」
落ちていた短剣を手に取り、指先を切って集中する。そして、たくさんいるテロリストたちの足元に意識を潜り込ませた。
「できるだけ多く、長い時間……止めてみせる!!」
私の干渉によって、多くのテロリストが足を止めた。
「皆、今のうちに逃げて!!」
怪我人の皆が、私を見て瞳に希望を宿らせた。
「すごい、あれだけの人数に干渉するなんて!」
「ベイリール様が言っていた、大聖女様だ!」
「今のうちに逃げるぞ!!」
仲間を庇い合い、何とか逃げ出そうする彼らだが、さらにテロリストが増え、襲い掛かろうとする。
「だから……やめんかーーー!!」
私はさらに干渉の数を増やし、新たに現れたテロリストの足を止める。その数、三十に達しただろうか。これだけの数に干渉できたなんて、自分でも驚きだ。
「き、奇跡だ」
誰かがえらく感心してくれたみたいだけど、干渉の負担は大きく、激しい頭痛に襲われてしまう。痛いだけじゃなくて、強い吐き気まで……。
このままじゃ、ぶっ倒れちゃうぞ……!!
「聖女様!」
そこに、ベイルくんが駆け付け、テロリストたちを追い払ってくれる。おかげで、私が助けようとした人たちも助かったみたいだけど……。
「聖女様、大丈夫ですか?」
私は強い眩暈と頭痛に耐え切れず、体を支えられなくなったところを、すかさずベイルくんが抱き留めてくれた。
「私に掴まってください。ここから離脱します」
言われた通り、ベイルくんに掴まろうとしたけど、ぜんぜん力が入らない。さすがの彼も、剣を片手に私を抱きかかえることは難しいようだ。
「ベイルくん、私に構わないで。それより、皆を助けてあげて……」
「しかし、聖女様が……」
「馬鹿、君はこの国の王子なんだろ。前に立って戦わないと、ダメじゃないか……」
ベイルくんが悔し気に歯を食いしばる。
おいおい、ベイルくん。
心配してくれるのは嬉しいけど、いつまでも止まっていられないぞ。
「おい、噂の第一王子がいるぞ」
「聖女をかばっているようだ」
「今なら仕留められるかもしれない」
気付くと、私たちもテロリストに囲まれていた。この状況だと、ベイルくんが敵を倒したとしても、その間に私は殺されちゃうかもしれいな。
つまり、絶体絶命ってやつか……。
「ベイルくん、早く戦って。私のことはいいから……!!」
私のことを守らなければ、ベイルくんは敵を一掃できるはず。それなのに、ベイルくんの綺麗な顔が、苦く歪んで行く。
嗚呼、ダメだ。彼は戦えない。ここまでか……。
テロリストの一人が飛びかかってきた。ベイルくんは私を庇いながら、剣を振って撃退する。
「落ち着け! 確実にやるぞ!」
黒ずくめの男たちが、改めて私たちを囲う。
「まずは弓だ! 別方向から同時にだぞ!」
念を入れてくれるじゃないか。敵が合図を出した後、ベイルくんは飛んできた矢を剣で払ったみたいだが、小さくうめき声を上げた。
そして、どこからか流れてきた血が、私の頬を濡らす。
「ダメだよ、ベイルくん。ちゃんと……戦って」
「嫌だ! 私は聖女様を……!!」
それなのに、テロリストの一人が残酷な指示を出す。
「いいぞ、もう一回矢を放て! そしたら、一気に畳みかけるぞ!」
うわぁ、万事休す。
せっかく、大聖女様って呼んでもらえたのに。
人生、上手くいかないなぁ。
せめて、ベイルくんだけても逃げてほしいけど……。
「今だ、放て!」
そして、ついに私たちの運命を断つ、弓が引かれた。
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