人々の希望に
王都の西部に到着する。そこは、ベイルくんとリリアちゃんが同調に失敗し、レックスさんが斬りつけられ、私が誘拐された場所だ。
「見て、たくさんのフォグ・スイーパがいるよ!」
男女のペアが霧を前にして群がっている。
「騎士やサムライもサポートに回っているようです」
確かに、レックスさんに似た格好の人や、さっき将軍の屋敷で見たような人たちもいた。ただ、誰もが疲れ切っているように見える。きっと、何日もの間、ここでデモンの発生を食い止めていたのだろう。
「話を聞いてみましょう」
ベイルくんは、一番霧に近いところで、何やら指示を出しているフォグ・スイーパの前でシシマルを止める。すると、おそらくはこの場を仕切っていたのだろうドラクラが、険しい顔でこちらを見た。
「ここは危険だと言っているだろう。何の用だ! ……ん?」
しかし、そのドラクラはベイルくんの顔をまじまじと見てから、驚愕の表情を浮かべる。
「べ、ベイリール様!!」
そして、すぐさま膝を付き、隣にいた聖女もそれに倣った。
「先日は霧の中でご助力いただき、ありがとうございました!」
「いえ、元はと言えば、私を捜索するために貴方たちが駆り出されたのです。礼を言うのは、こちらの方」
「もったいないお言葉!」
あ、分かったぞ。
王都に向かう途中、大規模な霧が出たとき、私とベイルくんが助けたドラクラの一人ってことか。
「それで、霧の奥の状況は?」
ベイルくんの質問に、ドラクラは首を横に振る。
「実は正確なことが分からず……。ただ、呪木周辺に強力なデモンが出る、という話しですが、そこから戻ってきたものは、ひどい怪我を負い、詳しい話ができないのです」
「なるほど。……では、もう少し霧から離れるよう、指示を出しておいてください」
「そ、それは……つまり、ベイリール様が?」
「もちろんです。この霧は私が払います」
ドラクラの目が希望に溢れ、それが涙として零れ落ちた。ベイルくんはシシマルから降りると、彼の肩に手を置く。
「苦労をかけました。ここからは任せてください。皆にももう少しの辛抱だとお伝えください」
「承知しました!」
ドラクラは立ち上がり、仲間たちに呼びかけた。
「皆、聞け! ベイリール様が霧を払ってくださる。霧は晴れるぞ! あと一息だ!」
周りのいる、全員の視線がこちらに向けられる。
「ベイリール様だって?」
「何を言っているんだ?」
「あの噂を聞いたことないのか?」
「俺は知っているぞ。本物だ!」
様々な声が上がるが、ここにいるフォグ・スイーパーの多くは、あのとき一緒に戦った仲間だったらしく、ベイルくんが本物であると瞬く間に伝わって行った。
そして、全員が膝を付き、ベイルくんに向かって首を垂れる。
「ベイリール様、ここにいるすべての者に、お言葉を」
ベイルくんは頷き、一歩前に出た。
「まずは、ここまでの奮闘に対し、礼を言う。この戦い、多くの犠牲を出し、皆に大変な苦労をかけただろう。しかし、それも間もなく終わる。なぜなら、ここに星の巫女様による使いが現れたからだ」
ほうほう、ベイルくんったら、仲間のテンション上げるの、なかなか上手じゃん。
でも、星の巫女の使いって何さ。
そんなの、皆信じないだろう。
……と、思っていたら、ベイルくんがこちらを見る。
な、なに?
「彼女こそ星の巫女様の使い、大聖女様である。彼女が我々に勝利をもたらす! 彼女が我々の未来を創る! 皆、希望を抱き、ここで私と大聖女様の帰りを待て!」
大歓声。
そこかしこで「大聖女様」という声が上がり、多くの視線がこちらに向けられた。
「ちょい! ちょいちょい、ベイルくん!!」
動揺する私だが、ベイルくんは優しい笑みを浮かべる。
「王都で活躍すること。それが聖女様の夢だったのでしょう?」
「あ……」
出会ったばかり、私は彼の前で自分の夢を語っていたのだ。
まさか、それを叶えるために……?
「さぁ、聖女様。シシマルに乗ってください。霧を払いましょう」
「う、うん」
ベイルくんは、最初に声をかけてきたドラクラに指示を出す。
「霧に入ります。もし討ち漏らしたデモンが出てきたら、そのときは頼みます」
「はい、もちろんです!」
「それから、ビーンズ将軍が嫌な予感がする、と仰っていた。霧やデモンではない、何らかのトラブルが起こる恐れもある。柔軟な対応を」
「まさか……テロ、ですか?」
「分かりません」
ベイルくんはシシマルにまたがる。
「聖女様、準備はよろしいですね?」
「もちろん!」
私たちは、大歓声を背にしながら、霧の中へ突入する。
しかし、そこで待っていたのは、ビーンズ将軍の予想通り、デモンや呪木だけではなかった。
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