だんまりベイルくん
やっとベイルくんを見つけた。扉を開き、微笑みかける私だったが、ベイルくんは驚いて声も出ないようだった。いや、可愛い二つの瞳を潤ませたかと思うと……。
「す、スイさん……。どうして」
泣き出してしまった。
「どうしたんだよ、ベイルくん。こんなときに泣き出しちゃって、お子ちゃまなんだから!」
部屋の中に入り、ベイルくんの方へ歩み寄る。だが、彼は涙を流し続けるだけで、何も言わなかった。
やれやれ。
そんな泣き顔を見せられると、抱きしめてあげたくなるじゃないか。
いや、思わず抱きしめてしまった。
「君が助けに来てくれるの、待ってたんだぞ。ま、リリアちゃんが大変だってことは知っているから良いんだけどさ」
頭を撫でてやると、ベイルくんは顔を上げ、やっと喋り出す。
「だって、だって……スイさんは死んじゃったって、将軍が!!」
「私が死んだぁ?? ……あの髭面ぁっ!!」
そんなウソまでついてやがったのか!
リリアちゃんがいなかったら、百の悪口だって簡単に並べてしまいそうだ!!
「ベイルくんがドラクラになったら困るやつらがいる。そいつらが、ベイルくんを閉じ込めるために、ウソをついたんだよ」
「……じゃあ、スイさんがこんなにボロボロなのは??」
「ここにくるまで、三回は殺されそうになったからね」
「……やっぱり」
ベイルくんは弱々しいが確かに意志を込めて、私を押しのけた。
「スイさん、ごめんなさい」
「謝る必要ない。それより、今から霧を払いに行こう。それが、今私たちのやるべきことだよ」
いつものベイルくんなら「はいっ!」と良い子の返事をするはず。それなのに、彼は首を横に振った。
「ダメです。僕にはできません」
意外な言葉に私は混乱してしまう。
「どうして? 今回も、私たちが最強コンビだって世に知らしめてやらないと」
特にあの髭将軍にはね!
それなのに、ベイルくんは首を横に振る。
「でも、ダメなんです。僕みたいなやつが、そんな夢を持ったら皆に迷惑をかける。フレイルもリリアも……次はスイさんだって本当に、死んじゃうかもしれないんですよ??」
ベイルくんの目は怯えていた。
嫌がる子どもに無理をさせるものではない……。
けど、私は引き下がるつもりはなかった。
「ベイルくん、それは本気で言っているの?」
彼の目に宿る動揺の二文字。
「私には分かるよ。ベイルくんは、こんなところで止まるやつじゃない」
「……」
「何年も我慢してきた。だけど、今は夢に向かって走る力を手に入れたじゃないか。本当に、いいの?」
ベイルくんは視線を落とし、葛藤という渦の中へ沈み込んでしまいそうだった。それでも、彼は呟く。
「怖いんです。僕が失敗したら、また誰かに迷惑をかけるかもしれない。今までだって、僕がいなくても問題はなかった。たぶん、今回だってそうなんですよ。僕が無駄なことをすれば、きっと誰かが傷付いて……」
私はララバイ村にいるジョイのことを思い出す。たぶん、ジョイも傷付いていた。私が夢を持ってしまったせいで……。
「でもさ、それは少し前までのベイルくんのことだよ。今は違う」
「何も違いませんよ」
「ううん。今の君には、誰かを守る力がある。いや、君にしか守れない人がたくさんいる」
「そんな人、どこに……?」
「例えば……ここにいるじゃないか」
私は人差し指を自分の顔に向けたが、ベイルくんは首を傾げた。
「ベイルくんは、私の夢を叶えてくれるんだろ? 自分で言ったのに、忘れちゃったの?」
少しだけ目を見開くベイルくん。
「お、覚えててくれたんですか?」
「当たり前だよ。そんなに昔のことじゃないんだから。私のこと、物覚えが悪くなり始めたおばあちゃんだと思ってるのか、君は!」
ベイルくんは首をぶんぶんと横に振る。そして、潤んだ瞳で私を見つめた。もう一押し、何か言葉を必要としているみたいだ。
「私の夢は君にしか守れない。私の夢、叶えてくれるんだよね?」
そう、私の『聖女として成功する』という夢は、ベイルくんと二人じゃなきゃ成し遂げられない。だから、ここでベイルくんに諦められたら困るんだ!
「だから、一緒に戦おう」
「…………」
おい、ベイルくん。黙るなよ。
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