◆ベイルの後悔
ベイリールは、ベッドに横たわってうなされる幼馴染の少女、リリアを見守りながら、罪悪感に駆られていた。
「全部、僕のせいなんだ」
呟きつつ、リリアの額に置かれたタオルを取り替える。
「フレイルの言う通りだよ。僕がしっかりしないから、リリアがこんなことに……」
でも、それだけではない。
ベイルはビーンズ将軍に聞かされていた。
――テロによって聖女が一名死亡しました。
将軍の話を聞く限り、それはベイリールにとって唯一の聖女、スイ・ムラクモに違いなかった。もちろん、これは事実ではない。彼の騎士であるレックス、もしくは弟のフレイルとまともに会話する時間があれば、ベイリールが心を閉ざすことはなかっただろう。
ベイリールは思い出す。
――いつか僕はトランドスト王国に永久の平和をもたらすんだ。
弟とリリアの前で高々と宣言した幼き日のこと。二人はそれが何を意味するのか、理解しているわけではなかったが、目を輝かせて自分の話を聞いてくれた。
――私も聖女様になってベイルを支えるね!
――俺だって、立派なドラクラになって兄さんの隣で戦うさ!
二人はあの日の約束を果たすように一歩一歩前へ進んでいる。しかし、自分はどうだ。いつになっても覚束ない。そんな中、ついに光を見出した。
彼女と一緒なら何でもできる。彼女と一緒なら自分はどこまでも強くなれる。彼女と一緒ならどこまでも行ける。そして、彼女と一緒なら……。
それが失われてしまった。嗚咽を漏らすベイリール。すると、朦朧としているだろう意識の中、リリアが呟いた。
「ベイル、大丈夫……だからね。私が、守って、あげる」
……情けない。
何が永久の平和だ。何が第一王子だ!
ただの子どもではないか。
小さな、何もできない子どもでしかない。
それなのに……!!
「リリア、ごめんよ。今はゆっくり休んで」
「……ベイル」
伸ばされた少女の手。
ベイリールはその手を握り、彼女の体温がどれだけ高いのか、改めて理解する。
「僕が余計なことをするから……。そうだ、僕はいらない人間なんだ。僕がいなければ、リリアも、フレイルも……スイさんだって、幸せになれたかもしれないのに!!」
そうだ。何も知らない彼女を巻き込んだのは自分だ。あのとき、彼女を故郷に帰していたら、今だって穏やかに眠っていたはず。
「ベイル……!」
リリアが目を閉じたまま、苦し気に言葉を漏らす。
「行かないで……! 一緒にいてよ……」
「どこにも、行かないよ」
そう言って手を握りしめる。
だけど、本当の自分が抱える想いは、まったく別のものだ。この城から出て、どこまでも進みたかった。
きっと、霧の根源と言われる場所を見つけ出し、それを排除する。彼女と一緒に……。そしたら、彼女は笑ってくれただろう。そして、本当の幸せを教えてくれる。
これからの日々は、そんな未来に続くのだと思い込んでいた。だけど、現実は一歩も踏み出せないのだ。
「ベイル……」
リリアの力が弱くなり、ベイルは彼女の手を毛布の中に戻した。少し安心したようなリリアの寝顔を見つめながら、ベイリールは自分の描く未来を忘れようとする。これ以上、誰も傷付けないためにも……。
しかし、真っ暗な部屋に何者かが訪れ、廊下の光が差し込む。そして、扉を開いたその人物を見て、ベイルは驚愕に思考が止まった。彼女は言う。
「ベイルくん、迎えに来たよ。こんなところで、ボヤボヤしていても良いことなんて何もない。さぁ、行こう。外のやつらに一発ぶちかましてやるんだ!」
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