ドラゴンどこよ
「裏門に回ってください」
フレイルくんが御者に指示を出すと、馬車が大きく舵を切ったようだった。
「裏門からって……やっぱり危険なの?」
「見張りはいないはずなんだけど……念のためかな」
しかし、城が近付いてきたところで馬車が止まり、御者のお兄さんが顔を出した。
「フレイル様、裏門に見張りがいます。おそらくは、サムライです!」
「なんだって?? 約束が違うじゃないか!」
フレイルくんの焦りが伝わってくる。もしかしたら、私が思う以上に、危険な状況なのだろうか。さらに、御者のお兄さんは慌てた様子でフレイルくんに言った。
「サムライがこちらに近付いてきます!」
「とりあえず、このままで!」
フレイルくんは指示を出した後、私の方を見た。
「スイさん、黙っておしとやかな感じで座っていてください」
「黙って、は分かるけど、おしとやかな感じって意味あるの??」
「サムライたちには、スイさんの特徴が『やかましそうな田舎臭い女』って伝わっているんだよ」
「それ言ったの、だれ!?」
「将軍らしいけど……」
私、将軍の前で声を発したことないのに!
どうして、そんな風に言われるのさ!
私の体から田舎臭さが出てるってこと??
「そうじゃなくて」
怒りに拳を握りしめる私をフレイルくんが宥めつつ、本題に戻す。
「もし、サムライたちの動きが怪しかったら、俺の合図で部下がちょっと暴れるから。その隙に、一緒に屋敷の方へ走ってくれ!」
「りょ、了解!」
元気に返事したものの、正直怖い。どうしても、誘拐されたあの日のことを思い出してしまうんだよね……。
馬車が再び動き出すが、すぐに停止して「コンッ、コンッ」と馬車の扉が叩かれた。フレイルくんが小窓を開けると、目つきの鋭い男が中を覗き込んでくる。
「フレイル様。こんな夜分にいかがしましたか?」
「リリアの見舞いです。……まさか、王子である私を通さないとでも?」
「いえ、そんなことは決して……。ただ、先日のテロ事件のこともあるので、中を改めさせてください。もちろん、武器はこちらで預からせていただきます」
「……」
フレイルくんは仕方なしに馬車を降りる。後ろにも馬車が続いていたらしく、そこからフレイルくんの部下らしき人たちも降りてきた。そして、一人一人の武器が回収されていき、これで通してもらえるかな、と思われたが……。
「後ろの女性は?」
目つきの鋭い男の鋭い目つきがこちらに向けられる。が、答えるのはフレイルくんだ。
「私の臨時パートナーだ。リリアの代わりを務めてくれている」
「……なるほど。失礼しました、聖女様」
目つきの悪い男は引っ込んだと思われたが、少し離れたところにいる仲間と何やら相談し始める。
ちょっと不穏な雰囲気じゃない……?
「いつまで待たせるのか。そろそろ通してもらいます」
フレイルくんが屋敷内へ進もうとするが、目つきの鋭い男が声を上げた。
「そこを動くな!!」
え、王子様に向かってその口の利き方って……。しかし、フレイルくんは無言で従う。これも王家と将軍家のパワーバランスが崩れている証なのかな……。
しばらくして、見張りたちは相談を終えたのか、目つきの鋭い男が戻ってくる。
「フレイル様、申し訳ございませんが、もう少し改めさせていただきます。フレイル様と騎士団の方はこちらに。聖女様はこちらです」
おいおい、もしかしてなんだけど、私のことをフレイルくんたちから隔離しようとしてない??
「私は王子だぞ。なぜ、そこまで厳しく調べられるのだ」
フレイルくんはそう言いつつ、見張りたちに従うので、私も目つきが鋭い男に言われた通りに、と動いたのだが……。
「あれ!?」
フレイルくんが夜空に向かって指をさす。
「ドラゴンだ! ドラゴンが飛んでない!?」
え、どこどこ?
私も夜空を見上げるが、急に腕を引っ張られた。
「え、何??」
「スイさんの馬鹿! 早く走って!」
「ば、馬鹿って……あ、そういうこと??」
どうやら、ドラゴンが合図だったらしい。フレイルくんの部下たちが
「見ろ、ドラゴンだぞ」
「あれ、絶対にドラゴンだって!」
「お前たちも見ろよ!!」
と言いながら、見張りたちの視線を空へ誘導している。誘導するって言うか、腕っぷしで強制していると言うか……。
「こら! 待て!」
しかし、目つきの鋭い男が真っ先に気付かれてしまった。
「私はリリアと兄上に会うだけだ! それをなぜ邪魔すのか! これは後々正式に抗議させてもらうからな!」
そんな捨て台詞を残しながら、フレイルくんは屋敷の中に入って行く。
「ねぇ、フレイルくん! 中にも見張りいるんじゃないの?? こんな方法で押し入って大丈夫?」
「大丈夫! 昔から何度もこの屋敷でかくれんぼしたんだ。大人たちに見付かってたまるかって!」
か、かくれんぼ……。
そんな感覚で大丈夫?
と不安な私だったが、彼の言うかくれんぼは、想像をはるかに超えるハードなもので、何度も死を実感しつつも、私とフレイルくんは屋敷の奥へと進んだ。そして――。
「スイさん、俺はここまでだ……。兄さんを、頼んだよ!」
あと一歩、というところでフレイルくんは、私を逃がすための囮となり、捕まってしまう。しかし、私はベイルくんが待つ、リリアちゃんの部屋まで迫るのだった。
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