終わりじゃない!
「二人とも、同調を始めよ」
将軍の指示に、隣の王様は眉を寄せる。あの困った顔、ベイルくんそっくりだな……。
リリアちゃんは将軍に向かって頷くと、ベイルくんの手を取った。優しく、包み込むように。
「ベイル、準備はできてる?」
「できてるけど……。リリア、無理をしない方がいいんじゃないか?」
「私は無理なんてしてないよ。ベイルは、私と同調するのは嫌?」
「嫌じゃない、けど……」
「分かっている、不安なんだよね。だけど、私はベイルをドラクラにしてみせる。そのために、特訓してきたんだから。私を信じて」
リリアちゃんには覚悟を決めているみたいだった。自分の力でベイルくんドラクラにする。そのために、彼女はどんな努力を重ねてきたのだろう。
リリアちゃんの横に正装姿の女性が現れ、綺麗な刃を差し出した。それを受け取ったリリアちゃんは、何度か深呼吸を繰り返して、祈りの言葉を口にする。
「天にまします我らが星の巫女よ。今こそ我が血に貴方の祝福を。そして、彼に魔を払う力を与えたまえ」
刃を指先に突き刺すと、血液が滴り落ち、先程の女性が素早くそれを盃で受け止める。盃の中が、ある程度の血で満たされると、女性がそれをリリアちゃんに手渡した。
それとほぼ同じタイミングで、また一際大きな悲鳴が。
「で、デモンがこっちに!」
周辺に動揺が走り、多くの見物人が逃げ出すが、その混乱の中でもリリアちゃんは取り乱すことなく、目を閉じて自らの血に祈りを捧げていた。そして、ゆっくり目を開くと、盃を慎重にベイルくんへ手渡す。
「ゆっくりで大丈夫だからね」
ベイルくんは頷き、盃を手に取った。そして、口元へ近付け……リリアちゃんに見守られながら、一気に飲み干す。
残った人たちが、固唾を飲んでベイルくんの変化を待った。たくさんの期待を集めるベイルくんだったが……。
「変化はなし、か」
将軍の呟きが儀式の失敗を告げると、そこら中で溜め息が聞こえ、さらなる悲鳴が重なった。
「王、私は一足先に戻らせていただきます。霧の対応は管轄外ですので」
「……分かっています。フォグ・スイーパたちよ、デモン迎撃の準備を!」
王様の呼びかけに反応して、控えていたのだろう、フォグ・スイーパたちが集まりだす。そんな中、ベイルくんの前で正座するリリアちゃんは、目を閉じて、ぐっと気持ちを抑えていた。膝の上で握られた拳は震え、彼女の感情を表している。
「リリア……」
そんな彼女を前に、ベイルくんは言葉が見つからないらしい。
さてさて、今度こそ出番かな。
あれ、でもレックスさんがいない!
この混乱のせいで、私のこと見失っちゃったのか!
レックスさんの許可なしで行っていいのかな?と迷っていると……。
「まだ、終わりじゃない……」
リリアちゃんの声が聞こえた。
「終わりじゃないんだから!!」
立ち上がるリリアちゃん。しかし、そのすぐ傍までデモンたちが迫っていた。
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