リリアの焦りと覚悟
霧は王都の西部に発生していた。黒い霧から人々を逃がすため、ポリスや騎士も動員されている。そんな中、私たちは人々の避難ルートとは別の道で霧の方へ近付いた。
「ここで儀式を行う。ベイリール様とリリアを!」
将軍の指示に、レックスさんは二人が乗る馬車の扉を開ける。移動中、どんな会話があったのか、リリアちゃんは緊張した面持ちで、ベイルくんの方は不安でいっぱいのようだ。
「もう! 少しは男らしくいないとだよ!」
私の声は、人々に掻き消されてベイルくんには届かないが、彼はこちらに気付き、何かを訴えようと口を動かした。しかし、私の方も聞き取れず、リリアちゃんに気付かれてしまう。リリアちゃんは私を一睨みすると、ベイルくんの腕を引っ張って行ってしまった。
「恐らく、リリア様ではベイル様をドラクラにできない」
戻ってきたレックスさんが呟くように言った。
「二人は同調を試したことがあるのですか?」
「数年前に一度。あのとき、リリア様は儀式に出席した皆の前でひどく取り乱し、誰もがその痛ましいお姿に目を背けました。それから数ヶ月もの間、ご自身を責めて自室から出てこなかったほどです」
「じゃあ、今日の儀式はリリアちゃんにとっても、過去の失敗を帳消しにするチャンスだった……ということですね」
レックスさんは頷き、そこからは黙り込んでしまった。
「スイさーん!」
儀式の準備が進む様子を眺めていると、どこからか私の名を呼ぶ声が。振り返ると、人混みをかき分けるフレイルくんの姿があった。
「フレイルくん?? どうして、こんなところに」
「どうしてって、俺もフォグ・スイーパだよ? 霧が出たなら駆け付けるさ。と言っても……」
フレイルくんの視線がベイルくんとリリアちゃんの方へ。
「相棒がそれどころじゃないかもしれないけど」
どこか寂し気に目を細めるフレイルくん。
「フレイルくん……」
私も何だか寂しい気持ちになってしまい、彼に何か優しい言葉をかけられないか、と考える。しかし、フレイルくんはパッと明るい表情に切り替えてみせるのだった。
「ま、兄さんがドラクラ化して呆気なく霧を除去するかもしれないしな」
「そう、かもね……」
誰かの言葉が欲しくて、私はレックスさんの方を見る。しかし、彼はフレイルくんからベイルくんの方へ視線を向けてしまうところだった。
「あの二人、何か話しているな」
フレイルくんは首を伸ばして何とか二人の会話を聞き取ろうとする。しかし、周囲があまりに騒がしく、とても聞き取れはしなかった。
「スイさん、もっと前に行こうよ! その方が兄さんも勇気出るかもしれないし!」
「えええ?? でも……」
でも、リリアちゃんの集中力の妨げになるんじゃない?
「早く行こうぜ! 今なら人の間をすり抜けられるはずだからさ!」
フレイルくんに引っ張られ、どんどん前へ進むが……。
「二人とも、お待ちを!」
レックスさんは体が大きいので、そういうわけにはいかないようだ。私たちは最前列に並んで、儀式を見守れる位置まで移動できた。
「兄さん、頑張れよー!」
フレイルくんの掛け声に、ベイルくんもリリアちゃんもこっちを向く。一瞬、二人とも明るい表情を見せたが、リリアちゃんは私を見て、すぐに厳しい顔になってしまった。
そんなとき、遠くから悲鳴が聞こえ始め、少しずつ大きく、増えているようだった。たぶん、霧の中からデモンが出てきたのだ。
「二人とも、同調を始めよ」
将軍の指示に、リリアちゃんが頷いた。
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