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ハイテンション・キング

「それで、レックス。そちらの聖女様はどのような方なのか?」


王様は膝の上にベイルくんを乗せ、王様らしい口調でレックスさんに聞いた。


「はい。こちらのスイ様はトランドスト王国の未来に大きな影響を与える聖女様です。そのため、王に謁見の機会を……」


「もっとフランクかつ分かりやすく話せ。ベイルが難しい話を理解できなかったらどうする? かわいそうだろ」


「父上! 僕はそこまで幼くありません!」


だが、王様はベイルくんの頭を撫でるだけ。ベイルくんは呆然とする私の視線に気付くと、頬を赤くして顔を伏せてしまった。


「分かりました。では端的に話します。スイ様はベイル様と同調が可能な聖女様です」


「なんだと……!?」


「スイ様の血であれば、ベイル様は霧の中で自由に動き回り、無双と言える力を発揮します。その姿は、民の尊敬を集め、国を導く立派な王の姿を思い起こさせるでしょう。ついに私たちは……見つけたのです!」


レックスさんの話を聞き終えると、王様が鋭い眼光を私に向けた。


おお、やっと王様らしい態度を見せてくれるのか、と思ったが……。


「い、嫌だ!」


「はい?」


自分の耳を疑う私。

王様はなぜか涙目で言うのだった。


「ベイルがドラクラ化なんて、絶対に嫌だ! 嫌だ嫌だ!」


「お、王……」


「ち、父上……」


それは威厳も何もない駄々をこねる子どもでしかなかった。私からしてみると、意外な展開だったのだけれど、レックスさんとベイルくんは「そういうのいいから」といった呆れ顔だ。


それでも王様は王様らしい態度に戻るつもりはなしく、絶望だと言わんばかりに、両手で顔を覆った。


「いつかこの日がくるってことは、分かっていたよ……。だって、ベイルは私の息子だもん。超絶立派で最強のドラクラになるって、分かってたさ! だけどね! 私は嫌なの! ベイルに危ないこと、してほしくないの!」


「しかしですね」


「嫌なものは嫌だ! 霧の中って本当に危ないんだよ?? あれはベイルが三歳のとき、初めて一緒に霧の中へ入ったときのことだ。毒がない、霧が薄い場所だったのに、少し暗くなっただけでベイルは泣き出した。怖いよ怖いよ。父上、抱っこして、って私にしがみついて離れなかった。可愛かった!」


「や、やめてよ、父上……」


ベイルくん、耳まで真っ赤。

だけど王様はやめてはくれない。


「そのとき、私は思った! もう二度とこの子を霧の中には入れない、てね。だから、なかなかドラクラ化できないこの子を見て、私は少しほっとしていたのだ。それなのに、それなのに……、この子には無理だ! 危ないことは無理なんだよ!」


「王! ならばですよ!?」


レックスさんが珍しく声を荒げる。

……怒っている、のかな?


「ベイル様のフォグ・スイーパとしての活躍を認めないと言うのなら、霧に関する事案はすべてフレイル様に押し付けるというのですか??」


「そ、それは……」


たじろぐ王様。

も、もしかして……この王様、


長男だけ大切にして次男は雑に扱うタイプのダメな親か??


「それは……もっと嫌だ!!」


「はい?」


再び自分の耳を疑う私。

しかし、王様はやはり涙をぽろぽろこぼしながら言うのだった。


「フレイル、かわいそう! いつも一人で霧の中で勇敢に戦って! できることなら、私が一緒に行ってやりたい。

っていうか、霧なんて全部私がなんとかすりゃいいじゃん! それなのに大臣どもは自重自重って言いやがって! 私の大事な息子を何だと思っているんだ……!!」


「それはフレイル様に経験を積んでいただくためです。いや、そんな話をしているのではなく……」


レックスさんも調子を狂わされているのか、頭痛を我慢するようにこめかみを抑えた。


「ベイル様がドラクラとして戦えるようになれば、フレイル様の負担を減らせます。それに、王位継承権についても考え直す必要が出てくるでしょう」


「ふ、フレイル……。いつもすまん。すまん……!!」


「王! 聞いておられるのですか!?」


「聞いているよ! 嗚呼、ベイル。これからはお前に戦えと命じなければならんのか」


「父上、僕は平気です! というか早く立派なドラクラになって、フレイルと一緒に国を守りたいのです。昔の父上のように……!」


ぬいぐるみのように膝の上に座らせられているベイルくんが勇敢な想いを伝えると、王様は目を見開いた。どうやら、子どもの成長が身に染みたらしい。


「何ていい子なんだ……。それなのに、それなのに私は……。なんて最低な親なんだ。息子を危険な目に合わせるなんて、本当に最低な親だ!」


うーん、最低っていうほどかな。

優しいパパって感じだけど。


「ベイル、ごめんよ! お父さんを許してぇ! 嫌いにならないでねぇ!」


「だ、だから父上……そういうのやめてよ」


いや、過保護な親って言うか、親馬鹿と言うか、馬鹿親と言うか。ベイルくんが嫌そうにしていたのは、こういうことだったのね……。




十分後。

王様はやっと落ち着いたのか、まともなテンションでレックスさんに言うのだった。


「確かに、ベイルがドラクラ化できるのなら、色々と話は変わってくるな」


「はい。王位はベイル様が継ぐのが妥当かと」


「そうかもしれん。が、そこは将軍と話し合わねば……」


王様は渋い顔を見せる。

たぶん、この件を将軍に伝えるのが憂鬱なのだろう。レックスさんも頷く。


「分かっております。タイミングは、ベイル様の誕生際の日がよろしいかと」


「儀式の日か……。将軍に話すの、嫌だなぁ」


「しかし、このままでは何もかも将軍の言いなりになってしまいます。トランドスト王家の威厳のためにも!」


「わ、分かっている」


と言いながらも王様は溜め息を吐く。


「将軍と話すのも嫌だけど、ベイルのことをドラクラとして認めるのも嫌だなぁ。嫌なことって、まとめてやってくるよね、ほんと」


頭を抱える王様を見て、ちょっとだけ親近感が湧いた。何て言うか、割と普通の人なんだね、王様も。そんな王様は額を手の平で覆って、もう一度溜め息を吐くと、ベイルくんの頭を撫でた。


「ベイル、ちょっと降りなさい」


ベイルくんを解放すると、王様は私の前に立ち、膝を付くのだった。


「スイ・ムラクモ」


「は、はい」


どうしよう。

王様なんて偉い人から、こんな低姿勢な態度取られたら……!!


「そなたがどんな人物か話を聞けずに申し訳ない。今度、食事に招きたいがよろしいか?」


「もちろんです!」


うわー! マジで??

王様が食べるご飯ってどんなだろう??


「取り合えず、今日は挨拶だけ。息子を……ベイルをお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


後日、レックスさんにはこんなことを言われた。


「スイ様が王の前で突飛な発言をしなくてよかった」


いやいや……あれだけテンションの高い王様の前じゃ、私だって借りてきた猫みたいなもんだから。


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