UMA(未確認動物)
技術試験の訓練が始まってから三日が経ったけど、私は午後になると、ついつい浮足立っていた。なぜなら、アーロンさんは顔を合わせるたびに「可愛いね」「俺のことどう思う?」「スイちゃん、俺本気だから」と囁くからだ。
「ねぇねぇ、ベイルくん。どう思う? アーロンさん、何考えていると思う?」
「……」
寝る前、復習授業が終わってから、アーロンさんから何を言われたのか、ベイルくんに聞かせてみた。ベイルくんみたいな子どもからしてみても、アーロンさんの情熱が本気だって思うはずだよね!
ロマンチックな大人の恋愛に、ベイルくんも目を輝かせると思ったが……彼はどこか冷めた目で私を見るのだった。
「アーロンが何を考えているかって言うより、スイさんはどう思っているんですか?」
「え、私?? そ、そうだなぁ」
アーロンさんのことを考えてみる。
健康的な黒い肌。力強い筋肉。爽やかな笑顔。
……嗚呼、何だろうこの気持ち!!
「えっとぉ、最初はそんなにタイプじゃないって言うか、少し怖いなって思ったんだけどぉ。二人きりになると優しいって言うか、案外いいところあるって言うか?」
やだ、色々と思い出しちゃう。
恥ずかちいよぅ!
しかし、私を見るベイルくんの目は冷ややかなままだ。
「……ちなみになんですけど、アーロンがどんな人間なのか、スイさんは知っているんですか?」
「優しくて、情熱的で、ぐいぐい引っ張ってくれるタイプ?」
「でも、タイプじゃないかったんですよね? 怖い印象を受けたのなら、もう少し警戒心を持って接した方がいいと思いますけど」
「言いたいことは分かるよ? でも、あれだけ積極的に何度も何度も好きって言われちゃうと、私も気になり始めちゃうし、本気だとしか思えないんだよねぇーーー!」
「好きって何度も言われると、気になるものなんのですか?」
「そうそう。女はそういうもんよ! いやー、思い出すだけで照れるなぁーーー」
恥ずかしくて両手で顔を覆う。嗚呼、顔が熱い顔が熱い!
「スイさん」
「ん?」
ベイルくんが真っ直ぐとこちらを見ていた。なんだろう、急に改まった感じで。
「スイさん、好きです」
「??」
「好きです」
「うん、私もベイルくんのこと大好きだよ?」
「僕、スイさんが好きです。好きなんです」
「うんうん。私もだよー」
「……そうじゃなくて」
「どったの?」
ベイルくんは溜め息を吐くだけで、その日は肩を落としながら自室に帰って行った。
「スイちゃん、今日も可愛いね」
次の日も、アーロンさんの激しいアピールは続いた。
「二人きりになる時間、凄い楽しみだった。スイちゃんは?」
「わ、私も嫌では……なかったです、けど」
「どういうこと? 嬉しくもなかったの? それ、俺の片思いってこと?」
「や、やめてください」
やばい、顔が近い。
今まで史上、一番近いよ!
これ、キスされちゃう距離じゃない……??
そんな状況で可愛らしい男の子の声がどこからか。
「スイさーーーん! どこーーー?」
「げっ、ベイリール様」
素早く離れるアーロンさん。
た、助かった……ような、ちょっと残念なような?
「あ、いたいた。アーロン、今日から僕も一緒に練習するよ」
「ベイリール様も一緒に、ですか?」
「うん。スイさんは少し怠け癖があるから、ちゃんと見張っておこうと思って」
おいおい。
どういうことだよ、ベイルくん。
私は真面目に頑張ってたよ?
……頑張ってたっけ?
「分かりました。ベイリール様がそう言うなら……」
アーロンさん、残念そう。
やっぱり、私のこと……。
彼の想いを感じて肩を落とす私に、ベイルくんが寄ってきた。
「スイさん」
「ん?」
「スイさんは人を見る目がないし、悪い意味で素直というか無防備な人です。だけど、僕が守りますからね!」
「どういうこと??」
そんなこんなで三人で技術試験の訓練を行い、何事もなくその日を終えたのだけれど……。
「ねぇねぇ、聞いた? アーロン先生の話」
「え、なになに?」
運動場の更衣室で着替えていたときのことだ。ロッカーの向こう側で、女性たちの会話が聞こえてきた。
確か、アーロンさんはお城で働いている人に、フィットネスを教えているんだっけ?
やっぱり、皆の憧れなのかな、と耳を澄ませると……。
「アーロン先生、また入会したばかりの女の子にちょっかい出しているらしいよ?」
「またぁ? あの人、女を見たら口説かないといけない病気なのかな?」
「そうなんじゃない? 私のときもめちゃくちゃしつこくて、本当に面倒だったんだから」
「あれだけチャラさ全快なのに、女を騙せると思っているのかねぇ」
「ねぇ。今時、田舎から出てきたばかりの女だって、アーロン先生には引っかからないでしょ」
「マジでそれ。あれに騙される女いたら、秘境レベルの田舎から出てきた芋娘だろうね」
「ウケるー! でも、今時そんなレベルの芋娘なんて存在しないでしょ! いたら、マジUMA(未確認動物)だから!」
……芋娘?
……UMA??
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