第24話 気まぐれの加護
幸運亭が戦場になる30分前。
念願の異世界のエールを飲んだ。冷たくて美味しい。労働の後の一杯はやっぱり最高だわ。えへへ。二杯も飲んじゃった!
あー、でも美味しい。味わい的には、シャンディーガフの近いかも??
もう一杯ぐらいなら飲んでもいいかな。いいよねぇ。ぐびぐびぐび。ぷはー。幸せー。
ポップ画面が幾つも出て、なんだか赤いような気がするけど、今は久しぶりのほろ酔い?気分を満喫したい。
「しゅわわってして、喉越しも最高。ちょっと後からくる甘みは花の蜜?」
「これはホワイトエールと言って、ハーブと花の蜜を入れた飲みやすい酒だな」
「エイブラム卿は物知りですねぇ」
「……!」
思わずハクのように頭を撫でてしまった。おお、髪がサラサラで、なんだかいい香りがする?
エイブラム卿が静かだ。
「桃香、それは僕の特権だったのにずるい」
「わ」
私に抱きついてきたハクは、いつものふわふわではなく、人の姿だ。それもかなりのイケメンさん。動物の姿の癖が残っているのか、頭をグリグルと押し付けてくる。これ外でやったらアウトだからね。
「ハク。腰回りにずっと引っ付かない。ほら横に座って」
「うん。僕のほうがサラサラだよ」
なるほど。髪のサラサラ具合に負けたくなかったのね。なんて可愛いのかしら。エイブラム卿の頭から手を離すと心なしか、しょんぼりしている──ように見えた。
なんだか狼が落ち込んだら、あんな感じかしら。よしよしと両頬に触れて、元気になるよう頬にキスをする。
「「「「!?」」」」
「良いお酒の振るう場所での頬のキスはお酒の神様の加護を得るとかなんとか。どこかの国の言い伝えがあった……はず?」
「……!」
エイブラム卿は真っ赤なまま固まっていたが、急に目を見開き私を抱きしめようとする。もしかしてお返しかな?
私も加護欲しいので頬を差し出してみた。普段なら恥ずかしいけれど、イベント的なノリとお酒の力を借りているので、楽しい気持ちが上位に来る。チュッと頬にキスを返されて、なんだか恥ずかしさとホワホワ感がする。
「桃香、僕も!!」
「そ、某も」
「……私も」
いつもなら嗜める側のランドルフ騎士団長までノリノリだ。やっぱりこう言うイベントは楽しんだ者勝ちよね。
ハクはわたしをぎゅうううって抱きしめながら、頬にたくさんキスをする。耳とか尻尾が揺れているのが見えそう。ふふふ、可愛い。
ランドルフ騎士団長は神聖な儀式のような面持ちで、片膝を突いて私が頬にキスしやすいようにしゃがんでしゃがんでくれたのだろう。
紳士だ。紳士がここにいる!
気分的には戴冠式のような雰囲気で、頬にキスをする。きっと側から見たら一枚絵のようになったに違いないわ。
「某も本当の本当のようだろうか……」
いつになく照れている桜花様に「もちろんです!」と断言した。なぜだろう、今日は桜花様までももふもふの獣のように見える。エイブラム卿が狼のようなら、桜花様は犬っぽい? モフモフの耳が垂れ下がっている感じ?
「桜花様を除け者になんてしませんし、私の大事な騎士様でしょう! 美味しい物や飲み物は分かち合わないと!」
お酒が美味しくなる素敵な加護なのだ。普段よりも幸せな気持ちになれるのだから、そう言うのは共有すべきだと思う。この時間が楽しいものでありますように。
55階層で、白銀狐騎士団が私に着いてきてくれるかは分からないけれど、ここのいる三人は付いて来てくれそうな気がするから。
少しかがむ桜花様の頬にキスをする。いつも一歩引いている桜花様が、早く私の輪の中に入っていることに気づきますように。
そう願いを込めて額にキスをする。
「なっ」
「えへへ。サービスです!」
誰かの幸福を願う。なんて素敵なことなことか。ちょっと聖女っぽいなぁ。なんて思ったり。
酔った勢いで聖女っぽいことをしたと振り返り、意外と聖女適性があるのかも?
これは白銀狐騎士団の送別会に余興として使えるのでは?
なんて呑気なことを考えていた。
そんな日なんて永遠に来ないのに──。
***
エイブラム卿に「水も飲むといい」と渡されてノンアルコールに切り替えて方少し酔いが醒めた。お皿にも色々載せてくれて、甲斐甲斐しい。
「……あれ? そういえば飲み物以外、最初の料理から追加分が来てない?」
肴の摘み的なものを頼んでいたはずだが、店員さんが部屋を訪れたのは、カリッとポテトやサラダ、串焼き盛り合わせが最後だったような?
ビービービ!
ビックリするほどの大音量と共に、赤いポップアップ画面が表示された。「ひゃ?」と思わず声が出てしまったが、ハク、エイブラム卿、ランドルフ騎士団長、桜花様はすでに臨戦態勢で酔いなど吹き飛んでいた。
ポップアップ画面には危険レベル9と表示があり、情報がリアルタイムで流れてくる。あまりにもその報告する文字が早くて、まるで画面がバグったかのよう。
暢気にお酒を味わっている場合じゃなかった!!
すぐに襲撃に備えて着替える。
突入まで残り300秒。
カウントダウンは始まっており、あっという間に10秒過ぎた。その間に、白銀狐の三人は武装を整える。こんな時だが、三人とも織姫の編み込んだ純白のコート姿がよく似合っている。
後方支援は任せて。そう言う前にハクに身柄を確保されたん?なぜに?
「神獣様。モモカ様のことをよろしくお願いします」
ハクはランドルフ騎士団長の言葉に小さく頷いた。私もコートを羽織るが、ふさふわの尻尾に包まれる。一瞬で視界が真っ暗になった。
え? 私も後方支援とかサポートぐらいなら──。
そんな考えは連続的に続く轟音を聞いて、消え去った。私には全く外の情報が分からない。ハクの尻尾がシェルターのような役割を担っているのだろうか。
ピコン。
【神獣の簡易神域による最大の結界。対象者のみ発動】
これって……。
ポップアップ画面に私の望んだ情報が羅列していた。嬉しいことに暗闇の中でも読める。──って、そうだ鑑定使えるんだった。情報戦ほど恐ろしいものはないもの。
意識的に外の情報を集める。
ピコン、と情報更新がされた。
【死の軍勢発動。それにより疑似冥府の領域が発動。死鯨を筆頭とした深海魔物が領域に出現。
死の妖精。死の騎士、数三千】
文字だけでヤバいという雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。55階層は安全だと思っていた私が馬鹿だった。ここは異世界で、元の世界よりもずっと危険で危ない場所なのだ。
もふもふに包まれていて、外の音が聞こえない。たまに衝撃や振動がある程度だ。
何が起こっているのか、ハクやランドルフ騎士団長たちは戦っているのか、それとも撤退しているのか。
白銀狐騎士団全員と合流しているのか。分からないことだらけだ。今の私に出来ることはなんだろう。
そもそもこの展開は一体何なのか。心当たりしかない。
教会に楯突いたから。
今の教会を壊されて困る人たち。あるいは早めに芽を摘んで生きた人たちの先制攻撃。武力行使は最後の最後。下の下だと思っていた。
でもこの世界の人たちは何の躊躇いもなく、戦争を選ぶらしい。その短絡的な考えかつ暴力性にゾッとする。
大人しく従っていたら?
ううん。どのみち不満を溜め込んで爆発させていた。今は発言者として私ができることを……できること。
「こうなった以上、頼れる者は全部頼る。神様! 力を貸してくれる方はいらっしゃいますか!?」
新たなテロップが幾つか出た。
血の気の多い神様がいるらしい。頼もし……ん?
『更地にするのなら任せろ』
『巨大な隕石を落とすか』
『死の領域なら死の軍勢とか召還する? する?』
「いや駄目でしょ! なんで行けると思ったの!?」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。
感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡
お読みいただきありがとうございます⸜(●˙꒳˙●)⸝!
新作連載のお知らせ
深淵書庫の主人、 鵺は不遇巫女姫を溺愛する
時代は大正⸜(●˙꒳˙●)⸝
今回は異類婚姻譚、和シンデレラです。
https://ncode.syosetu.com/n0100ks/1/ #narou #narouN0100KS
同じく新連載
ノラ聖女は巡礼という名の異世界グルメ旅行を楽しみたい
https://ncode.syosetu.com/n2443ks/4/ #narou #narouN2443KS
リメイク版
最愛の聖騎士公爵が私を殺そうとした理由
https://ncode.syosetu.com/n3516ks/




