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第12話 今後の方針 ※バルトロメオ視点あり※

『おはようございます。

 皆様は朝は珈琲派ですか、それとも紅茶? 

 私は今日からホット蜂蜜フェート・ミルク一択です!』


 そうコメント付きの写真を投稿する。今回も良い感じに取れた。木のカップにはミルティーに近い色合いの液体が入っている。このフェート・ミルクは牛乳のように見えるのだが、植物の密から採っているのだ。


 フェート・ミルク植物は、巨大雌鹿エイクスュルニルの角に生えているという。元々雌鹿エイクスュルニルはレーラズという葉のみを食べる幻獣種で、時折、歩いた道にフェート・ミルクの種を落とすという。その種が芽吹き、雌鹿のような形となり乳から蜜を出す。それがこのフェート・ミルクである。紅茶の独特風味が残ったミルティーに近く、星屑蜂蜜と合う。

 大変濃厚で美味しいです。


 そんな感じでモーニングティーならぬホット蜂蜜フェート・ミルクを味わっていると、長身のお姉様風の聖騎士様が感想を聞きにやってきた。

 そうお姉様風の聖騎士様だ。

 金髪でサイドポニーテールと女子力が高い。まつげも長いし、空色の瞳はキラキラしている。肌つやも良くて、爪の手入れマニキュアにも力を入れているのが分かった。白いシャツに聖騎士服のような軍服めいたもので、なかなかにお洒落だ。どちらかというと式典などの貴族服に近いかもしれない。絨毯が敷いているとはいえ、膝を突き傅く様も絵になる。

 ちなみに私が命じたから片膝ついている訳ではない。とても大事なことなので告げておく。


「お初にお目にかかります、料理長のバルトロメオでございます。聖女様におかれましては朝食についてご相談がありまして、失礼ながら少々お時間をいただけないでしょうか」


 もの凄く丁寧だわ。私が六歳の姿とか関係なく聖女として接してくる。それはどこか探るような視線も感じられたけれど、気にせずに笑顔で答えた。


「もちろんよ。まだ顔とか洗っていないし、着替えもしていないけれど構わないかしら?」

「はい。お時間ありがとうございます」

「それじゃあ、お話をするのだから、そちらの椅子に座ってください」

「え」


 現在、私の部屋は急ごしらえで用意して貰ったので、六畳の空間に絨毯を敷き詰め、ベッドと棚と椅子が一つのみの状態だ。


「私はベッドに座るので、あ。それとも隣に座るほうがよかったですか?」

「……アタシは、その移民の血を引いていて」

「私は貴女よりもずっと遠くの異邦人(日本人)の血を引いていて、異世界人ですよ?」


 この世界の人たちは血を重視しているらしく、ならば私もそれにならって返事をしてみたらバルトロメオ様は「くくくっ」と手で口元を隠して笑っていた。


「そう。貴女にとって価値基準は血ではないのね」

「はい。生まれは自分ではどうにもできませんから。でもその人がどういった方なのかは、その人自身の生き方で大きく変わって行くと思うのです。料理長のバルトロメオ様は、細やかな気遣いができて、食べる人のことを考えられる素敵な料理人だなと。昨日の夕飯はとても美味しかったです。味も見栄えも、特にスパイス! あれはとても味わい深かったです。それに栄養バランスも素晴らしくて、素敵な食事をありがとうございます。神様方も食べてみたいと絶賛でしたよ」

「──っ、な、なんなのよ、それ。ずるいわ」


 唐突に狡いと言われた……。なぜに?

 小首を傾げるが、気だるそうなハクが同じく首を傾けているので可愛かった。撫でたら「もっと」とお腹も出してきた。可愛い。モフモフ。


「はぁあーーーーーー。なんだかランドルフが即座に陥落したのが分かったわ」


 いやランドルフ様、結構粘りましたよ?

 そう思ったけれど口には出さなかった。バルトロメオ様は優雅に椅子に腰掛けて足を組んだ。おお、その姿も絵になる。


「それで、朝食についての相談とは?」

「そう、それ。いくら聖女様でも食事は聖騎士団と同じ物を用意するわ」

「はい、問題ありません。毎食楽しみにしています」


 牽制するように言い出した言葉に私は二つ返事をした。いや普通に別メニューって、そんな贅沢しませんよ。状況的に。ここ地下迷宮(ダンジョン)ですからね。


「まあ! ……げふん、アタシたちと同じ物を食べるのよ?」

「はい? 大人数の料理を用意するのに、私だけ別にしてほしいとかそんなことは言いませんよ? 幸い私、アレルギーとかないですし」

「あれるぎい?」

「その特定の食材を食べると、体が拒否反応を示してしまうようなものです。体質的に食べられないと言えば分かりますか?」

「ああ、それならわかるわ。え、でも……ええ……」


 そんなに聖女がみんなと同じ物を食べるのは、可笑しいのだろうか。激マズならちょっと考えるけれど、美味しいのなら全然問題なし。


「あ。私も一つ相談があります」

「なに?」


 キラリと目が煌めいた。「ふふん、言ってみなさい」と言った態度だったので、携帯端末を取り出す。


「神様の眷族──精霊がバルトロメオ様の料理に興味関心を持ったので、契約をしてくれないかとDMが届きました。あとランドルフ様には食事風景などの写真を撮っていますが、どれも美味しそうだと神様からコメントも頂いていますが、なんて返信をしますか?」

「……………………神? 精霊…………けいやく?」

「はい」


 その日、朝にもかかわらずバルトロメオ様の雄叫びもとい「はあああああああああああああああああああ!?」という野太い声が90階層に響き渡ったのだった。

 私は何も悪くない──はず。え、悪くないよね?



 **バルトロメオ視点**



 ワタシは元々、最果ての村の冒険者兼料理人だった。

 小さな食堂の息子として生まれた。幸いにも母親が元聖騎士だったからか、身体能力に恵まれたおかげで12の頃には冒険者家業をしつつ、料理見習いとして働いていた。料理の腕よりも冒険者としてのほうが性に合ったのか、18になった時にはBランクになっていた。その頃になると洞窟内から魔物が増えてきて、仕事がどんどん増えていった。

 20歳に幼馴染と結婚して、幼馴染が妻になって食堂を継いでくれた。その二年後に娘が生まれて、幸せだった。25になったら、冒険者を辞めて店の手伝いに専念する、そう決めていたのに──アタシの誕生日の前に、魔物大進軍モンスター・スタンピードが起こった。


 あの洞窟は、地下迷宮(ダンジョン)の入り口だったのだ。適度に間引かなければ、魔物が溢れ出てくる。そのことを教会は知っていたのに、王都周辺に出現した地下迷宮(ダンジョン)を優先したのだ。


 アタシの故郷はあっという間に、最前線となった。そこでランドルフたちと出会って、無理やり聖騎士団に入り込んだ。魔物を一匹でも野放しにしないように、戦い続ける道を選んだ。


 料理は聖騎士団の中に、できる人材がいなかったから。だから消去法でアタシがやっていた。料理を作ることは、息を吸うのと変わらない。いつものルーティンだった。

 でも──あの小さな聖女様は、本当に美味しそうに食べる。

 そして「ありがとう」と言うのだ。


「──っ」


 たったそれだけなのに、自分が捨ててしまった何かが舞い戻ってきたかのようだった。妻との記憶。娘との日々。

 色褪せて、消えてしまったと思った大事な思い出。食べても味のしなかった味覚が戻った。失って、奪われて、止まっていた時間が動き出す。娘にも、妻にも似てないのに、それでも真っ直ぐにアタシを見る目は、憧れや尊敬、そして心からの言葉だった。

 これは……陥落しないほうが難しいわね。


「ところで精霊の契約とは別に、バルトロメオ様は化粧品や美容に関して詳しいですか?」


 瞬時にお金の匂いがした。


「詳しく聞かせて」


 この子とは長い付き合いになりそうだ、と思った。でもそれは、なかなかに刺激的で悪くないと思うのだ。

 料理を褒めてくれたこと、感想や感謝。この子は当たり前を、当たり前だけに留めない。

 それがこの世界でどれだけ凄いのか、きっとこの子は、知らないのだろう。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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