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第1話 新しい仕事と生活は異世界!?

「離婚届、不受理申請もぜーんぶ役所に提出したし、これで離婚成立! スッキリと新しい生活ができるわ!」

「きゃう」

「ふふっ、ハクも嬉しいのね」

「きゃぅう!」


 新しく借りたマンション一室は、ペット可の2LDKでオートロック付きセキュリティが高い物件だ。粘着質かつ非常識な(サイマー)義実家から脱出した私は、真っ白な犬──ではなく保護した子狐のハクとの新生活にワクワクして部屋の扉を開けた。


「私たちの新居!」

「きゃうう」


 次の瞬間、真っ白な空間が果てしなくどこまでも続く場所に繋がっていた。瞬きを何度かしたが、意味不明な空間は消えない。私は愛くるしい真っ白でモフモフな狐のハクを抱っこしたまま、扉を閉めた。


「……」


 なんか異世界転移みたいな展開があったけれど、何も見なかったことにする。こうやって大人は、面倒ごとから回避する術を得るのだ。


鈴原桃花(すずはらももか)よ、勝手に自己完結されても困るのだが」

「ひゃ!?」


 後ろから声がして振り返ると、着物姿の女性が佇んでいた。コスプレ──にしては気合いが入りすぎているし、鹿のねじ曲がった角や頭の耳はどう見ても本物だ。目鼻立ちが整っていて、どう考えても人ならざる美を集約した感じがする。

 しかも扉を閉めたはずなのに、いつの間にか扉が消えて、先ほどの真っ白な空間に立っていた。いや私、まだ中に入るとか覚悟とか決まっていないのですが。


「そなたの覚悟を待っていたら数日考えた末、『やっぱり夢だった』とか言って結論を出すであろう。それでは困るのじゃ」

「(バレてる)……それなら、ここはどこで私に何の用でしょうか?」

「切り替えが早い。さすがじゃのう」


 私が抱っこしているハクは警戒心が強く、人の感情に敏感だ。そのハクが大人しいということは私に危害を加えるつもりはないのだろう。

 何もない空間に丸いテーブルと、高そうな椅子が全部で三つ。そしてテーブルの上には、高級菓子と紅茶セットが現れる。

 なんというかこうパッと現れた感じが魔法っぽい。


 どちらにしてもこの空間からの出口が分からない以上、付き合うしかない。まったく。ようやく義実家がサイマーで、経済DV、モラハラ、不倫という最悪な夫との離婚が成立したというのに、本当に神様は容赦が無い。


「そんなことはない。それに今回のことは、色々と手違いがあってな。そなたオンライン旅行ツアー会社、株式会社ベルティンの正社員であろう」

「はい。そうですが?」

「実は妾が、その会社の社長なのじゃ」

「は?」

「そなたには本来、国内のグルメ観光を任す予定だったじゃが、事情(運命)が変わってな。異世界のグルメ観光旅行のブログ、SNS配信をお願いしたい」

「は?」


 旅行会社に再就職したけれど、そんな話は聞いていない。大手旅行会社の100%子会社で、国内のグルメ旅行に力を入れていて、雑誌も出ているのは知っているが、そもそも異世界グルメとはなんぞや?


「うむ。妾はこの国の神々の一柱なのだが、他国はもちろん異世界の神々にも、この国が人気な観光スポットなのじゃ! それもあり、今までは国内観光に力を入れて、日帰り旅行やら長期的な旅行などの特集や、オススメスポットをwedブログやSNSで紹介してきた。しかしあまりにも、『日本に行きたい!』という神々が多くてな。高エネルギーの均衡を保つのが、難しいのじゃ。そこで出雲の神々会議で、『グルメや観光を楽しめる異世界を用意しなければ、異世界の神々は来訪を拒否する』という結論が出た。日本に高エネルギーばかり集まっても、良いことばかりではないからな」

「例えばどんなことが起こるんです?」

「……季節の気温が大きく揺らぐ」

「ここ数年、夏になると気温が異常に高くなる理由はそれか!? 何してくれているの!? 毎年エアコン代がすごいのよ!」

「……うぐ」


 神様は罰が悪そうに、「規制していなかったのでな」と目を合わせようとしない。

 もしかしたら最初は他の神々が日本を訪れることを純粋に喜んで、結果調子に乗ったのかもしれない。そっちのほうがあり得そう。

 他国や異世界の神々の来訪のせいで気温が上昇とかマジでふざけるなと言いたい。夏とか電気代だけではなく、熱中症にもなりやすいのに!


「まあ良いことは、目的に向かって己を磨いているものは、成功を掴みやすい。運が味方すると言うべきなのう。とにかく! 日本に異世界の神々が来るのなら、この国の神々も他の世界に行って恩恵を与えなければバランスが狂ってしまうのじゃ!!」

「……まあ、その理屈はなんとなく分かるわ。たぶん」

「じゃろう! しかし国内の神々は皆『日本のおもてなし』の接客と料理が最高! 異世界とかマジ無理と……我が国の水準が高すぎるようじゃ」


 なんでちょっと嬉しそうなのよ。自国民なので、分からなくはないが。


「(日本の食文化は海外でも、好評だったものね。それが神々まで同じ事情なのは知らなかったけれど)……それで拒否された異世界の神々は、納得しない。でも高エネルギーが偏るのは困るから、せめて日本の神々を異世界旅行に連れて行きたい──と?」

「その通りじゃ!」


「正解!」みたいなテンションで言われても困る。当たると何か貰えるのかしら。


「一番の問題は異世界の食事が高確率で、不味い。衛生関係やトイレ事情などもな。まあ異世界だと魔王とか魔神とか魔物とかワンサカいて世界の覇権を争っている国が多いので、食文化の成長が遅いのじゃ」

「はあ……。まあ、生活水準や環境、食文化の歴史にもよるでしょうし」

「そうなのじゃ! なので異世界の神々ので平和かつ割りかし安全で、食文化の水準を上げる計画が持ち上がったのじゃ」

「はあ……」

「まず争いを終わらせ、火種も消し炭にし、秩序を創り……」

「うん」

「文化水準を上げ──異世界には料理人を雇って、異世界食文化革命を依頼に出しておる。すでに向こうでは三百年ぐらいかのう」


 すでに色々とやっているのね……。まあ、日本人の食に対するこだわりは凄いし。よく蒟蒻とか毒のあるフグを食べようと思ったな。

 日本食の歴史を思い返して、苦笑してしまった。しかし食文化の発展は、平安時代、江戸時代と平和な時代にこそ飛躍的発展をしてきたのだ。その辺りも整っている異世界に、同郷の料理人たちが飛ばされたことを祈る。


「ある程度世界的に穏やかで料理も美味く、観光名所も豊富な異世界が出てきたのじゃ。じゃが……」

「じゃが?」

「あれを見よ」

「トォロウサァーモンイゥクラオオモリ、ネギトロロウィミノサチモリアワセ、アマエビィイゥクラウニィマグロドン、チュウトォロオオモリゼイタゥクドン、ノドグロオオモリドン……」


 え、なに呪文? 怖っ!?

 ふと気づくとテーブルの上に、突っ伏している美少女がいた。しかも呪文のように口走っている。それはどう考えても海鮮丼のメニューだ。途中で島根名物の(ノドグロ)が出るところ、魚好きなんだろう。


「アヤツの世界は割と安定しておってな。好評ではあるのじゃが……。こう観光ガイドやら穴場や、一押しというような店が分からず、非常に難儀している」

「あー、食ブログサイトとかガイドブックがそもそもないのね」

「そうじゃ。そこで現地でグルメ観光ブログ、SNS配信を一年ぐらいやって欲しいのじゃ!」


 そう言って渡されたのは、ノートパソコンと携帯端末だった。どちらも最新機種だ。会社で支給されている物にしては、かなりお金がかかっている。


「トラックに跳ねられても、ドラゴンに潰されても、問題ないぐらいに頑丈じゃ。他の神々の加護も入っておるからのう」

「その場合、私が死ぬんじゃ?」

「安心せい。御使いを付けておく故、そなたを守るであろう。何よりそなた自身もまた今回の一件で加護を授けておる」


 なんか異世界転移っぽい。加護ってステータスとか見られるようになるかな? ちょっぴり未知なものへの興味が出てきた。異世界のご飯って美味しいのかしら?


「毎月給金も発生するし、衣食住、向こうに案内人も用意するし、ブログやSNSがバズったら特別手当も出すので、よろしく頼む! ほれ、お前もちゃんと送り届けんか」

「はーい」

「ん?」


 一方的に説明が終わった瞬間、お茶を味わう時間も、快諾した覚えもないのに、足場が消えて落下する。あの高級菓子食べたかったのに……。


「ひゅっ………………!!」


 声にならない悲鳴を上げる私に神様は、手を振っている。


「案ずるな。異世界の女神(あやつ)にも、しっかりと準備させてから転移を行なっておる」


 そういう問題じゃない!! せめて自分のタイミングで行きたかったぁーーーーー!!



 ***



 スポン、と桃花が時空の穴に落ちたあと、新居となるはずだった桃花の家に景色が戻った。それと同時に、チャイムを鳴らす音が響く。非常識なほど何度も鳴らし、ドアをガンガン叩いている。

 このマンションはオートロックかつ、セキュリティがそこそこ高い──にも関わらず狂気に近い感覚に、女神は苦笑した。


「桃花! 中のいるんだろう!! 俺が愛しているのは、お前だけだったんだ! 母さんだって今回は自分が悪かったって謝っているんだ!! 早く出てきて一緒に帰ろう! 離婚しても俺たちの縁は切れたわけじゃないだろう! そうだ、子供を作ろう! 家族なのだから、ここを開けろ、桃花!」


 ドンドンと怒号が凄まじい。あの時、部屋に入った瞬間だったため女神が空間を歪めたことで回避したが、施錠していなければ危うかっただろう。


「間一髪じゃったな。……さて、こちらの世界の面倒ごとは、アフターサービスとして片付けてやるとしよう」


 そう呟いた女神は、口角を釣り上げ残忍な笑みを浮かべていた。それは鬼女と言っても差し支えないほど恐ろしく、何より激怒していた。



 ***



 異世界グルメ旅行ブログ、SNS配信。最初は面白そうな企画だと、そう思ったのだけれど、説明を端折られた感しかない。

 なぜなら──。


「幼い子供がどうして、地下迷宮(ダンジョン)の深層にいる? まさか魔物が変化しているのか?」

「んんん~~~、でも見た感じ魔物って感じはしないッスけど?」

「いやいやアルバート氏、ここは戦うしかないのでは?」

「敵なら、殺すのみ」


 衣食住、しっかりした身分に、状況を把握している案内人は何処!??

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶

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