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ヴァルプルギスの宴  作者: 雲居瑞香
番外編
63/82

ドキドキわくわく里帰り【5】

いつにもましてスティナの口が悪いです。











 機動隊に中に入れるように訴えたスティナであるが、もちろん、入れてもらえるわけがない。


 スティナは目の前にいた機動隊員の胸ぐらをつかみあげた。もちろん、スティナより彼の方が背が高い。スティナは機動隊員の襟を引っ張り、顔を近づけて小声で言った。


「いいから中に入れろ。わかってんだろ。今のは銃撃じゃねぇ。私は討伐師だ。わかったらさっさとしろ」

「ちょ、ちょい待ち! 落ち着けお前!」


 ヘルゲがスティナの肩に手を置いて言った。スティナは両手で機動隊員の襟をつかむ。機動隊員たちがあわてた。


「あ、あなたが討伐師であると言う確証はありません。なので、中に入れることは……」

「そもそも、人質事件は警察の管轄です」

「だから! ヴァルプルギスが出たって言ってんだろ!」


 小声で叫ぶスティナだが、ヘルゲとカイサに力ずくで引き離された。機動隊員は可愛そうに。震えていた。そんなにスティナが怖かったのだろうか。


「いいかスティナ。機動隊員にかまうな。そのまま飛び越えて行け」


 ヘルゲがこそっと囁いた。カイサもうなずく。スティナは二人の顔をちらっと見て、覚悟を決めた。あとは、彼らがよきにはからてくれるだろう。

 問題は、うまく飛び越えて行けるかだ。スティナが機動隊員にくってかかってしまったため、警戒されている。だが、ヴァルプルギスが出たのならもたもたしていられない。すぐにでも対処しなければ。

「了解。後は頼んだ」

「ああ。無茶すんなよ」


 ヘルゲの言葉に、スティナは軽く手をあげて応えた。スティナは強く地を蹴った。


「お、おまっ! 待て!」

「!」


 機動隊員が駆け寄ったスティナを見て制止の声をあげたが、スティナは聞かず、その機動隊員の肩を踏み台にバリケードを飛び越えた。そのままレストランに入る。



「だから、危ないってぇぇえええっ!」



 背後から声が飛んできたが、スティナは無視して剣を引き抜いた。レストランに踏み込む。その瞬間、半身変化したヴァルプルギスが若い夫婦を襲おうとしていた。とっさに間に割り込む。


「せやぁっ」


 スティナは横に剣を薙ぎ払った。ヴァルプルギスの右腕が切り離される。若い夫婦はそれを見て再び悲鳴をあげた。一般人として正常な反応である。

 ヴァルプルギスの目標がスティナにうつる。それでいい。ブーツの底でヴァルプルギスを蹴りつけ、袈裟切りに剣を振り下ろす。避けられた。

 さらにヴァルプルギスからの攻撃。皿やフォーク、ナイフが宙に浮いた。それらがまとめたスティナに襲い掛かってくる。討伐師の中にもいるが、念動力系の能力だ。スティナには身を守る能力はないので、近くにあったテーブルを蹴りあげて盾にした。皿やフォークが壁に当たり、砕ける。周囲から悲鳴が上がった。


「な……なんだお前は!」


 スティナは声の上がった方をちらっと見た。銃を持ち、完全武装している。彼らが立てこもり犯らしい。今頃正気に戻ったようだ。スティナは舌打ちする。彼女に向けて、銃口が向けられていた。


「撃ちたいなら撃てよコラ。私はテメェらが廃止を訴えてる討伐師だ」

「な、なぁ……っ」


 立てこもり犯は言葉が出ないようで口をパクパクさせている。ついでに人数を数えると、六人か。また中途半端な人数である。

 スティナが立てこもり犯に気をとられている間に、ヴァルプルギスが再度襲ってきた。今度はテーブルが持ち上がり、スティナに向かってきた。さすがによけきれずに、剣で真っ二つに切り裂いた。その後ろからヴァルプルギスが現れる。


「!」


 ヴァルプルギスの突進をくらい、スティナは床に背中を打ち付けた。ヴァルプルギスがスティナを踏みつけようと足を振り下ろしたので、とっさに横に転がって避けた。そのまま起き上がりざまにヴァルプルギスに蹴りを加えた。

 バランスを崩したヴァルプルギスののどを剣で貫く。それを引き抜き、心臓がある部分も貫いた。ヴァルプルギスが倒れる。スティナは剣を引き抜いた。


「お、お、お前! 動くな!」


 今やすべての銃口が、ヴァルプルギスを倒したスティナに向いていた。基本的に、討伐師の戦闘が認められているのは対ヴァルプルギス戦のみだ。そのため、スティナは素直に剣を手放し、両手をあげて降伏した。

「どうしますか。拘束しますか」

 一人がリーダーらしき男に向かって尋ねた。しかし、リーダーは首を左右に振る。

「いや。せっかく討伐師が手に入ったんだ。協力してもらおう」

 スティナは椅子に座らせられた。ちょうど目に入る方向に、固まっている自分の家族が見えた。今のところ無事らしい。ちょっとほっとした。


「なあお嬢さん。討伐師制度は不当だと思わないか? あんただって好きで命を懸けて化け物と戦ってるわけじゃないだろ」


 無駄に友好的な声音でリーダーは言った。そばにいる男が「その子も十分化け物ですが」などと言っている。


「……どちらかと言うと、私はあんたらがどうして討伐師を廃止しようと思うのかが気になる」


 討伐師は、確かに子供を集め、戦わせている。しかし、彼らがいるからこそヴァルプルギスが居てもある程度平和に暮らしていられるのだ。それがわからないわけではないだろうに。

「別に、討伐師自体が悪いと言っているわけじゃない。君たちが居なければ、人間はヴァルプルギスに滅ぼされてしまう」

 そのあたりは理解しているようだ。なら、何故こんな提案をするのだろうか。


「子供を、無理やりたたかわせるのはどうか、と言うことだ」


 なるほど。言っていることはまともだ。しかし。

「そう言うなら政府に直接訴えろよ。こんな手段に出てる時点で、あんたらもう犯罪者だ。力で言うこと聞かせようってのか」

「お前、状況がわかってるのか!」

 リーダーの側にいる男がスティナの側頭部に銃を突きつける。スティナはそちらを横目で見上げて言った。

「撃ちたいなら撃てよ。討伐師である私が撃たれれば、あんたらの主張は講堂と矛盾しているとして、政府も受け入れないだろう。機動隊も入ってくる」

「機動隊ごときに、俺達が負けるはずがない!」

 何となくわかっていたが、彼らはどうやら軍人上がりらしい。だとしたら、生身での戦闘はスティナに分が悪い。


「お嬢さんは不満に思わないのか。何も知らずに連れて行かれ、戦い方を叩き込まれるんだぞ?」

「確かに、生き方を自分で選べないな。だが、子供の能力を怖がって捨てる親だっているんだぞ。そう言った子を、私は何人も見てきた。そうなるよりは、初めから討伐師として引き取られた方がましだ」


 それが自分だったかもしれないのだ。そう思ったら、最初から保護されていた自分は幸せだったと思える。


「だがそれは結果論だ」

「だからなんだ。討伐師の力を持つ者が何も知らずにそのまま生きていれば、ヴァルプルギスに狙われる可能性が高い。戦い方を知っておくのは悪いことではない。一連の訓練を終えた後、普通の生活を選ぶことだってできる」

「だが、戦闘訓練を受けたものが一般の生活に溶け込むのは難しいだろう」

「確かにな。だが、どちらも自分が選んだことだ」


 スティナが討伐師になったのはスティナの意志だ。今、討伐師として活躍している者はみんなそう。

「……交渉は、決裂か」

「最初から成り立ってねぇんだよ。人道を訴えるには、あんたらのやり方は間違っている。人質とってんだからな。死人はいないみたいだけど、銃を持って脅している時点であんたらに私らのやり方をどうこういう資格はない」

 銃を持って脅している時点で、彼らは人道を説く資格などないのだ。リーダーは声をあげて笑った。


「ははははは! 確かにな!」

「少佐?」


 男たちが驚いた顔になる。リーダー改め少佐はニヤッと笑って言った。


「だが、この事件は人々の記憶に残る。それを忘れてはいけない。討伐師のお嬢さん」

「!」


 スティナはとっさに立ち上がり、座っていた椅子を少佐に向けて投げつけた。木の椅子がじゅっと音を立てて溶けた。少佐は姿を変え、ヴァルプルギスと化していた。なんと言えばいいのだろうか。人型のスライムみたいな。しかも、酸を発しているのか湯気が上がっている。


「少佐!? お前! 何をした!」


 スティナが疑われた。スティナは銃身をつかんで自分からそらしながら言った。

「あんたらの少佐がヴァルプルギスだったんだよ! てめぇら、死にたくなけりゃ黙ってろ! おいそこ! 人質撃つんじゃねぇ! 斬りつけるぞコラ!」

 スティナに乱暴な口調で脅された男は、混乱のあまり人質を撃とうとしていた。そのためにスティナが釘を刺したのだが。

「うるさい! 何とかしろ!」

 討伐師を廃止しようなどと言っているのに、スティナに頼ろうとする元軍人の彼ら。スティナは最初から何とかするつもりなので、余計なセリフである。


 ためしに元少佐であるヴァルプルギスを斬ってみた。しかし、ゼリーを斬っているかのように手ごたえがない。本当にスライムのようだ。

 こういう相手はスティナと相性が悪い。白兵戦を得意とするスティナは、剣で斬ることができないものと戦うのは苦手だ。

 だが、ヴァルプルギスの生体組織が人間と近いのであれば、必ずどこかに心臓、核となる部分が存在するはずだ。そこなら、斬ることができるはず。


「うわぁぁぁああっ」


 もともとのリーダーだと言うのに、立てこもり犯たちはスライム状のヴァルプルギスを銃撃した。ゼリーのようなものがはじけた。正直、気持ち悪い。

 近くにいたスティナは、銃弾こそ喰らわなかったが、そのゼリー状のものが体に付着した。その部分の服が溶けた。わかっていたが、やはり酸のようだ。


 と、今度はヴァルプルギスが自分からはじけた。はたから見れば間抜けな姿かたちだが、攻撃力は地味に高い。立てこもり犯はもちろん、人質たちにも酸が降りかかり、悲鳴が上がった。そちらに気をとられたスティナは、ヴァルプルギスが大きく咢を開いたのに気付かなかった。


「!」


 とっさに後ろに下がるが、右腕がばくりと食われた。食いちぎられるのではなく、ゆっくりと溶かされている感じがした。痛い。


「……っ! この!」


 スティナは毒づくと、無理やり腕を回転させて剣を頭の方に向かって突き立てた。そのまま無理やり腕を引くと、皮膚が剥がれるような感じがしたが、うまい具合に腕がヴァルプルギスから抜けた。

「さすがは魔法剣」

 剣は溶けていなかった。その代り、スティナの右腕は皮膚が溶けて所々肉が見えていた。考えると痛いので無視することにする。

 ちなみに、スティナのこの行動にも悲鳴が上がっているが、彼女はまるっと無視していた。とりあえず、目の前のヴァルプルギスを倒さなければならない。

 だが、今ので分かった。口の奥に、核がある。そこを貫けばいい。そうと決まればスティナの行動は早かった。


 酸が降りかかるが、それをあえて無視し、ヴァルプルギスの口からその奥を貫いた。さすがに核の部分は少し硬い。皮膚のない腕が痛むが、それを押し殺して核を無理やり貫いた。ヴァルプルギスが一瞬硬直し、支えを失ったように倒れた。剣を引き抜けなかったので、スティナは自分の腕だけ引き抜いた。


「犯人を確保! 人質を救出しろ!」


 スティナがヴァルプルギスを倒すのを見ていたのか、タイミングよく機動隊がなだれ込んできた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今日のスティナは荒ぶっています(笑)

かと思えば冷静に会話もしているんですよね。


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