表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/82

家族の肖像【5】☆












 当代五指には入る実力を持つと言われる討伐師スティナ・オークランスは三歳の時にその才能を見いだされ、首都フェルダーレンの討伐師エクエス養成学校アカデミーに連れてこられたが、生まれはこの国の北部最大の都市フリュデンだ。彼女の家族は、今もそこで暮らしている。

 その家族が、首都に出てきた。スティナが現在暮らしているところにやってきた。


 三歳で見いだされてから約十七年。スティナはその生き方しか知らない。そんな人間を普通に暮らしている人々の中に放り込んでどうするのだ。戸惑うしかできない。

 もともと人づきあいが得意ではないスティナだ。社会不適合者の自覚もある。そもそも、家族と言っても十七年の間で数えるほどしか会ったことがない。フリュデンの実家に帰ったことがあるのは二度か三度。そんなレベル。なのに、一緒に食事とか、ホント無理。家族とより付き合いが半年ほどのイデオンとの方が気安いと言う良くわからない状況だ。


 そして、思わずオークランス家の集まりにイデオンを引っ張り出してきてしまった。だが、監査室の変人どもの中ではイデオンは普通な方で、雰囲気が柔らかいので同行者としては最適だ。

「スティナちゃんはお父さん似だね」

「……」

 監査室本部の近くにあるレストランで隣に座るイデオンに囁かれたスティナは、彼を剣呑に睨んだ。ついでに彼の足を踏む。いつもなら蹴るのだが、今は家族が一緒なので控えた。

 だから、なんで家族に遠慮すると言う微妙な状況になっているのだ。

 自他ともに認める大食漢であるスティナだが、今日はそこまで食欲がなかった。


「スティナがお世話になっているようで」


 父のエドガーが言った。イデオンが言った通り、スティナはエドガーに似ているだろう。逆説的に言うと、スティナはミカルと似ているので、エドガーもミカルと似ていると言うことになる。性別が同じなので、ミカルとエドガーの方が似て見えるだろう。

 イデオンは愛想よく微笑む。

「いえ、僕の方がお世話になっているくらいで」

 あははは、とイデオンとエドガーが笑いあう。どうしよう。二人とも食えない。イデオンの方は天然の可能性もあるけど。


「でもよかったわ。スティナもちゃんとお友達がいて」


 さりげなくひどいことを言ってのけたのは母のリナだ。顔立ちは父親似のスティナだが、髪と目の色は母譲りだ。北部に銀髪の人は結構多いが、リナは最北部と言われるところに住む少数民族の血を引くらしい。


「姉さん、根暗で口悪いし、友達いなさそうだもんね」


 冷静にスティナが否定できない事実をついてくるのは、みんながミニチュア・スティナと呼ぶ妹のマーユだ。スティナより八つ年下であり、今年初等教育を終え、中等教育に移る。髪の色こそプラチナブロンドの彼女だが、濃い青の瞳と顔立ちはスティナとよく似ている。

 ついでに、同じように毒舌だった。

「マーユ。何でそんなにつんつんしてるの」

「別にぃ」

 苦笑して指摘したのは弟のロビンだ。スティナより二歳年下で、今年首都の大学に進学希望なのだそうだ。見た目としては、母に似ているだろうか。娘は父親に、息子は母親に似ると言うが、それを体現したような家族の外見である。

 ちなみに、スティナは三歳の時に家族の元から引き離されたので、二歳の年の差のロビンとは、すごく小さなころに一緒に暮らしていたはずだ。しかし、さすがに小さすぎてさすがに双方ともに記憶はない。

 スティナは水を飲んでから口を開いた。


「それで、ロビンの進学希望の大学の下見に来たのはわかったけど、なんで家族ほぼ総出でくるんだよ」


 ほぼ、がついているのは、フリュデンでスティナの家族は父方の祖父母とも一緒に暮らしているはずだからだ。さすがに、その二人の姿は見えない。なので、『ほぼ』なのだ。


「家族旅行も兼ねてるからに決まってるでしょ」


 マーユがつんとして言った。馬鹿なの? と言わんばかりのその口調は、スティナのものによく似ている。つまり、マーユとスティナの敵対関係にも似た関係は、たぶん同族嫌悪なのだと思う。

「ああ、いいじゃねぇか。存分に旅行を楽しめよ。単純に私に会いに来る理由がわかんねぇって言ってんだよ」

「スティナちゃん。大人げないし口悪すぎだよ」

 イデオンがスティナを小突いて注意してきた。十二歳の少女に大人げないのはわかっている。だが、スティナの口が悪いのは今更だ。まあ、多少丁寧にすることもできたはずだが、しなかった。照れくさいからだ。


「娘に会いに来るのがおかしいか?」


 スティナは食えない父親を見て言った。

「ほとんど一緒に暮らしたこともねぇのに、家族と思えと言う方が無理だ」

「確かにな。俺もリナも、幼いお前を手放してしまったことを後ろめたく思っているだけかもしれないな」

「ちょ、ちょっと、あなた」

 イデオンとは反対側のスティナの隣に座ったリナが、斜め向かい、対角線上にいるエドガーを見て焦った顔をした。その行動が、エドガーの言葉を肯定してしまっている。

 スティナのエクエスの力は強い。それ故に彼女の周囲では奇妙なことがよく怒ったと言う。物が良く棚から落ちるとか、硬いガラスにひびが入るとか。一つ一つなら大したことがなくても、何度も続けば不審になる。なので、エドガーとリナの夫婦は、さすがに何の葛藤もなく、とはいかなかっただろうが、スティナを引き取りたいと言った討伐師に彼女を預けたのだそうだ。

 ちなみに、スティナを連れてきたのは、当時北部に出張に来ていたミカルの母だ。ミカルの母も討伐師であり、先代の討伐師総括責任者である。まあ、十年近く前に亡くなっているのだが。討伐師の平均寿命は短いのである。

「別に後ろめたく思う必要はねぇだろ。物心つく前に引き離されたんだから、さみしいと思う間も無かった」

「それはそれでさみしいよね、周りが」

 イデオンがツッコミを入れてきたが、スティナは反応を返さなかった。周囲がスティナを残念な女扱いをするのにはもう慣れている。


「それでも親は後悔するものだ。あの時、お前を手放さなかったら、とな」


 エドガーはさらにそう言ったが、スティナは冷静に「ヴァルプルギスの襲撃を受けただけだな」と言い返した。リナが複雑そうな顔をし、マーユが鼻白む。男性陣はイデオンを含め三人とも笑っている。強い。


「たぶん、スティナちゃんは自分はさみしい思いをしたりしなかったから、後ろめたく思う必要はないって言いたいんだと思いますよ」


 イデオンがにこにこと言った。スティナはテーブルの下でイデオンの足を蹴った。さらに文句を言う。

「さっきから何なんだよ、お前は」

「いや、スティナちゃん、素直じゃないなと思って」

 スティナはテーブルの下でもう一度イデオンを足を蹴った。いつもやっているのでさすがに慣れが生じてきたか、彼は笑っているだけだ。

「姉さん。あんまり態度が悪いと、彼氏さんに振られちゃうよ」

 ロビンが笑いながら言った。こういう食えないところ、エドガーにそっくりだ。

ちげぇよ」

「フェルダーレン大学に受かったら首都に住むからよろしくね。時々会おう」

「どうせ寮暮らしだろ。あと、大学関連はこいつに頼め」

 と、スティナはグイッとイデオンを示す。彼はフェルダーレン大学の出身だったはずだ。

「えー、一口にフェルダーレン大学って言っても、広いんだよ。学部が違えばまったく違うんだよ」

「イデオンさん、フェルダーレン大学の出身なんですか」

 ロビンが驚いたように尋ねた。のんびりしたイデオンは、秀才が集まるフェルダーレン大学の出身だと言うと驚かれることが多いのだそうだ。まあ、スティナも正直驚いたし。


「へえ。頭いいのね」


 そう言ったのはリナだ。彼女の中で、イデオン=頭のいい人、とインプットされたことだろう。

「普通くらいですよ。よくて中の上です。僕は法学部出身だけど、ロビン君はどの学部を志望してるの?」

 前半のセリフはリナに話しかけていた物なので敬語だ。後半はロビンに向かって尋ねている。

「医学部です」

「……お前、頭いいな……」

 図らずも母と同じ反応をしてしまうスティナだった。ロビンは「別によくはないよ」と笑っている。

「討伐師やヴァルプルギスの生態について調べたいなと思って。だから、医者になるっていうより研究員になりたいんだよね」

「それ、どっちかっつーと生命科学じゃねーの?」

 スティナは思わずツッコミを入れた。討伐師の中には『俺は討伐の生態研究をしたい!』とか言って医学部に入って医者になったやつがいるが、彼がやっていることはどちらかと言うと生命科学に分類されるはずだ。


「そうだけど、医師免許を持ってたらいざと言う時姉さんたちを助けられるでしょ」


 にこっと笑うイデオンから、スティナは思わず視線を逸らした。姉と言うだけで何故ロビンはここまでスティナを慕ってくれるのか。むしろ、マーユのように敵意を向けられた方が理解できる。

「いい弟をもって幸せだな、スティナ」

 エドガーがにんまりして言った。何故このうちの男どもはこんなにもスティナに親しげなのか。いや、家族ではあるのだが、ほとんど一緒に暮らしたこともないのに。

「医者になれる頭があるんなら普通に医者になればいいだろ。わざわざ危ない橋を渡る必要はねぇ」

「少しは普通に喜べば?」

 顔をしかめてそう言ったのはマーユだ。彼女のような反応がむしろ普通だと思う。

「その『普通』っていう感覚が良くわからねぇんだよ」

「だからスティナちゃん。大人げないって……」

 イデオンがスティナを小突いた。だから、大人げない自覚はあるのだ。

 だが、思ったより普通にしゃべれている。少なくとも一人、自分を理解してくれている人間がそばにいると言うだけで、こんなに自然体でいられるとは、心の中でイデオンに感謝しておく。絶対に口にはしないけど。


 間が持ったかはともかく、何とか乗り切った感のあるスティナが交通事故に遭遇したのはその翌日のことだった。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


スティナとマーユは似たような性格をしています。素直じゃない(笑)


そして、スティナの異様なまでの引きの強さ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ