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家族の肖像【4】










 とりあえず元に戻ったことを報告しようと、イデオンとスティナは一度監査室本部に行くことにした。スティナはともかく、イデオンはトレーナーの状態で本部に行くのははばかられたため、一度帰宅してスーツに着替えた。付き添いでオルヴァーも一緒である。

 休日なのだが、珍しくイーリスが家にいた。いつもなら研究所に引きこもっているところだが。イデオンが着替えている間、スティナとオルヴァーにはリビングで待っていてもらったのだが……。


「ねえ、スティナちゃん。どういう状況?」


 何故か、戻ってくるとイーリスとオルヴァーで盛り上がっていた。その様子を眺めながらコーヒーをすすっているスティナに尋ねた。

「なんでこんなに仲良くなってるの?」

「変人同士、通じ合うものがあったんだろ」

 そう言うスティナもやや遠い目をしていた。というか、オルヴァーは医者で基本的に生物学が専門、イーリスは宇宙工学が専門なはずだが、何をどうしたら通じ合うものがあるのだろうか。


「ねえスティナ! 討伐師は体が丈夫だっていう話だから、一度宇宙に行ってみない!?」


 いろいろ試したいことがあるの! とイーリスは興奮気味だ。赤い縁の眼鏡が落ちかけている。


「無重力下でのエクエスの力への影響も気になる! 半年後に打ちあがってみないか!?」


 ああ、そういうふうに通じ合ったんだ、とイデオンは納得した。興奮気味のオルヴァーの足を、スティナは座ったまま蹴る。理不尽な暴力が多いスティナだが、これは正当である気がする。

「うるせぇよ。お前を打ち上げるぞコラ。イーリス、コーヒーをごちそう様」

 スティナが立ちあがり、オルヴァーの襟首をつかんで立ち上がらせた。それを見てイーリスが「もう行くの?」と首をかしげる。

「宇宙には行かない?」

「行かねぇよ……」

 若干呆れ調子でスティナが言った。相変わらず、口は悪いが何気に常識的な女性である。

 名残惜しげなイーリスに見送られ、イデオンたち三人は監査室本部に向かう。オルヴァーはスティナがほぼ連行していた。


「お疲れ様です」


 ニコニコしながらイデオンが執務室に入ると、一斉に視線が向けられた。昨日の入れ替わり騒動をみんな知っているからだ。笑顔のイデオンを見て、口々に言う。

「え、戻った?」

「イデオン、笑ってるしね」

「スティナの笑顔はもう拝めないわけか」

「つーか、やっぱり入れ替わってた方がよかったんじゃね?」

 そんな阿呆なセリフはまるっと無視し、とりあえずエイラの元に向かう。

「あら。戻ったのね。残ね……よかったわね」

 エイラがニコリと笑って言った。何か失礼なセリフが聞こえた気がしたが、彼女の場合は確信犯なので誰もつっこまない。

「二人とも、変調はない?」

「自覚できる範囲ではないな」

「健診も受けましたが、特に問題はありませんでした」

 スティナもイデオンも『問題なし』と答えたが、一応エイラはオルヴァーにも視線を向けて意見を求めた。


「一応、スティナもイデオンも一通りの体の動きとか、エクエスの力とか、記憶とかを確認したけど、元通りに見えるな。少なくとも、以前とったデータとそれほど差異はない」


 でもなぁ、とオルヴァーはへらりと笑う。

「俺、精神学は専門じゃないぞ? 入れ替わった原因は不明だ。本人たちは大丈夫だと言っているが、いつ変調が訪れるかもわからん」

「……うーん。しばらく様子見かしら。オルヴァー、よろしくね」

「任せろ!」

 勢いよくうなずいたオルヴァーに対し、スティナは死んだ顔になった。その表情がスティナがスティナであることを物語っていると言っていい。

 スティナが怖いのはミカルのようだが、苦手なのはオルヴァーのようだ。まあ、彼にかかると本気で生きたまま解剖されそうなので、気持ちはわかる。

「リーヌスも、ちゃんと見ててね!」

「了解だ」

 リーヌスがそう言って手をあげた瞬間、彼のデスクの電話が鳴った。内線だ。電話対応に出たリーヌスから視線を戻したエイラが言う。

「まあ、元に戻ったのならいいけど、あまり無茶はしないこと。特にスティナ」

「……善処しよう」

「おーい、スティナ」

 暗い声でエイラに返答したスティナに、リーヌスから声がかかった。

「なんだ」

「お前のご両親がエントランスに来てるみたいなんだが」

「……はあ?」

 スティナが思い切り怪訝な声をあげた。

「何それ意味わかんねぇ」

「だから、ご両親が」

「いや、それはもう聞いた。何で両親が来るんだ」

「俺が知るわけないだろ」

 まあそりゃそうだ。それにしてもスティナの両親。この男気のある女性の生みの親。まあ、人の性格は育った環境に左右されることが多いので、おそらく、スティナのこの性格はリーヌスやミカル、エイラなどの影響を過大に含んでいるのだろうが。


「家にもアカデミーの方にも行ったけど、お前がいなかったからこっちに来たんだと。お前がいるようなら出してくれって言ってるんだが」

「……」


 スティナは口をつぐんでいた。顔が青ざめている。親が苦手なのだろうか。顔色の悪いスティナを見て、オルヴァーが笑った。

「お前、本当に人付き合いとか苦手だよな」

「うるせぇ!」

 あ、オルヴァーが蹴られた。理不尽。
















 結局、スティナは居留守をつかわなかった。春の連休であるこの時期に大学に行っているとも思えない。家にもアカデミーにもいない。ショッピングを楽しむような性格でもない。となれば、本部ここにいる確率が高いと思ってスティナの両親はやってきたらしい。ちなみに、携帯端末に電話をかけたのだが、つながらなかったのだそうだ。まあ、入れ替わり騒動でバタバタしていたので、仕方がないだろう。

 両親、と言ったが、正確には家族で来ていた。おそらく、スティナの弟妹であろう少年少女の姿もある。国全体を見ても大陸の北に位置するこの国だが、スティナはこの国の中でも北方の出身だ。北に行くほど、髪や肌の色素が薄い傾向があるが、スティナの家族もそうだった。父親はプラチナブロンドだし、母親はシルバーブロンドだ。遠目だが、スティナの色彩は母親、顔立ちは父親に似ている気がする。


「あれ、大丈夫か?」

「久しぶりに会った家族の雰囲気ではないですねぇ」


 本部の中にあるカフェでスティナが家族と対面しているのを、イデオンとオルヴァー、そして口を開いていないがリーヌスは見ていた。リーヌスはコーヒーをすすり、言った。

「まあ、俺、あいつの面倒見てたことあるけど、そもそも家族に数えるほどしか会ったことないんじゃないか? 実家に帰ったのだって一、二回だろ。ほぼ他人だ」

「……まあ、遠い親戚より近くの他人って言いますもんね」

 イデオンは何となく納得してうなずいた。家族よりも半年ほどの付き合いのイデオンの方がスティナと会話が成立している気がするし。

「にしても、スティナの妹ちゃん。まんまミニスティナだな」

「小さいと可愛いな」

「スティナちゃんも可愛いでしょ」

 オルヴァーとリーヌス、イデオンの会話である。男どものくだらない会話だ。いつもならここでスティナがツッコミ(物理)を入れてくれるのだが、あいにく、今の彼女は顔をひきつらせながら家族と話している。どうやら、近況を効かれて困っている様子。


「まあ、腕の骨が折れたとか、おなかに穴が空いたとか、言えませんもんね」


 イデオンが笑いながら言った。スティナの日常は、基本的にそんな感じ。治ったから笑い話ですんでいるレベルである。


「足に裂傷を負ったとか、肋骨が折れて肺に刺さったとかな。討伐師って基本的に丈夫だから、骨が折れたくらいではどうにもならないんだけどな」

「へえ」


 オルヴァーの言葉に、イデオンは少し感心してうなずいた。医師であり討伐師である彼の言葉なら本当なのだろう。

 何を言われたのかわからないが、スティナが少しびくっとした。サディストなきらいがあるスティナだが、苦手なものにはとことん弱い。そう言うところが可愛いのだが。

 にやついていると、何故かスティナが立ちあがってこちらにやってきた。勝手に覗き見(と言うには堂々としているが)していたのだが、スティナはちゃんと見ていることに気が付いていたらしい。

「どうした」

 一番スティナとの付き合いが長いリーヌスが尋ねると、スティナは死にそうな顔で言った。

「一緒に昼食に行かないかと言われた……」

「いいじゃん。行って来いよ。お前、暇だろ。家族水入らずだ」

 リーヌスが軽い調子で答えると、スティナの整った顔が凶悪になった。美人なので、こうなると迫力が半端ない。一人二人殺してきたような顔になっている。


「間が持たねぇんだよ……!」


 低い小さな声だったが、だからこそ切実だった。


「この私に何を話せと!? 世間一般からずれまくってんだぞ? 一般人がどん引きするような話題しかねぇよ!」

「……ずれてる自覚はあるんだな……」


 リーヌスが妙なところに感心した。と言うか、イデオンはその『一般人がどん引きするような話題』を何の予備知識もない状態でふられているわけだが、別にどん引きはしなかった。戸惑いはしたけど。

「とりあえず、お前が家族が苦手だと言うことはよくわかった」

 オルヴァーが適当に締めた。スティナが顔をゆがめる。先ほどの人を殺してきたような顔もどうかと思うが、今の泣きそうな顔も反応に困る。リーヌスが立ち上がってスティナの頭をがしがしとなでる。

「あんまり待たせられないだろ。イデオン、ついていけ」

「僕!?」

 そこはリーヌスではないだろうか。スティナと一番付き合いが長い、彼女の兄にも等しい存在。しかし、リーヌスはさらっと言ってのけた。

「お前がこの中で一番『普通』っぽいからな」

「……あー」

 否定できないな、と思った。リーヌスもオルヴァーも、悪い人ではないの名が、普通かと言われると首をかしげざるを得ない。苦笑いを浮かべたイデオンの腕を、スティナがつかんだ。

「悪いが、頼む」

「……あはは。スティナちゃんに頼まれたら断れないねぇ」

 そう答えたが、心情としては、スティナにそれなりに頼りにされているのだと知れてうれしかった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


スティナは3歳で親元から引き離されているので、家族との付き合い方がわからないという設定です。


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