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ルシアの祈り【8】☆










 イデオンと別れたスティナは、シーラと共に待機部屋に入れられた。そこで身体検査を受ける。一般人であるイデオンは武装していたが、スティナは初めから武器等持ち込んでいない。あっさりと解放され、集会場に足を踏み入れたのだが――。


「やあ、よく来たね、スティナ・オークランス!」


 大声で名前を呼ばれ、スティナは無表情でその男を見上げた。芝居がかった仕草と口調だ。眼鏡をかけた、二十代半ばから後半くらいの男性だ。茶髪で、リーヌス並みに顔立ちが整っている。


「何故私が君の名を知っているか知りたいか?」


 両手を大きく広げ、やはり芝居気たっぷりに男が問いかけてくる。スティナはあっさりと言った。


「いや? 別に」


 そんなことに興味はない。だが、男はしゃべりたいようで勝手に話を続けた。

「まあ聞きたまえ。私もかつては討伐師になるべく訓練を受けていた。そう。十五年ほど前までな」

「……」

 十五年前なら、わずかにスティナと訓練時期がかぶっている。スティナが討伐師として訓練を受け始めたのは三歳の時。すでに誕生日を過ぎて二十歳になっている彼女は、十七年前に討伐師としての才能を見いだされたことになる。二年ほど、この男と訓練期間がかぶっているはずだ。


「君は覚えていないだろうな。何しろ、まだ小さかった。君が来たとき、私は討伐師になれるかどうかの瀬戸際だった……」


 全国土から、エクエスの力を持った子供が連れてこられる。わずかでも兆しがあれば、その子は討伐師としての訓練を受けることになる。訓練を受けた仲で、正式に討伐師になれるのは五人いれば一人いるかいないか、と言ったところだ。

 現在、全国に散らばっている討伐師をすべて集めても二百人もいないはずだ。訓練を終えて討伐師になれる人数が少ないのもあるが、実戦に出て戦死する討伐師も多いからだ。

 つまり、討伐師になるべく訓練を受けながら、討伐師になれなかった人間は討伐師自身より数多く存在する。リーヌスのように監査官になるものがほとんどだが、ヴィルギーニアのように全く関係ない道を進むものもいる。


 今、彼女の目の前にいるこの男はその中の一人、と言うことだ。


「そして、お前は討伐師になれなかった。それが結果だろう。だからなんだ」

「見た目に反して口の悪い女だな」

「お前の芝居がかった言動よりはましだ」

 要するに、どっちもどっちである。

「……スティナ、何の話……?」

 シーラが慄いた表情でスティナを見ていた。思わずスティナは目を細める。

「今は説明している場合じゃない。怪我したくなかったら、とっととここから――」

「ごめんね、シーラ」

 シーラの背後に現れたエイナルが、彼女に銃口を突きつけた。シーラがひきつれた悲鳴を上げる。人質になった人間としては正常な反応である。冷静に対処できたスティナは自分がおかしい自覚はある。何度も言うが。


 この集会場はかなり広い。その広い空間に、スティナを含めた四人しか人がいない。集会がある、と言うのはただの罠だったようだ。まあ、ある程度予想はしていたが。

「そう簡単に撃ちはしないよ。君に対する人質だ。さて。ついてきてもらおうか」

 スティナはシーラとエイナルを一瞥して顔をしかめると、男の方に顔を戻した。

「いいだろう。つーかお前、そろそろ名乗れよ」

 男に続いて集会場の奥にあった階段を下りながら、スティナは問う。男は相変わらず芝居がかった口調で言った。

「ああ、すまない。まだ名乗っていなかったな。私はルシアの祈りの最高責任者ボリス・ニルソンだ」

「つまり教祖か」

「そうとも言うね」

 敵対しているとは思えない軽い会話である。背後からの視線が痛い。スティナの後ろからは、エイナルと人質にされたシーラがついてきていた。


 階段を下り、地下に入ると、そこは儀式場になっていた。監査室でもオルヴァーのような研究者がエクエスの力について研究している。スティナの主観では、エクエスの力とは魔法だ。と言うか、その認識が現在の主流であろう。

 エクエスの力を補助する道具も作られているし、エクエスの力はある程度理論的に解明できていると言っていい。魔法であるのならば、解明された理論を組み立てることでエクエスの力に似た効力を発揮することもできるだろう。実際、エクエスの力を組み立てて魔法陣を作り、それをスティナたちが着るコート……戦闘服に織り込んでいる。


 儀式は、その魔法陣と同じ仕組みだ。最も古典的な『魔法』である。


「……」


 スティナは儀式に使われるのであろう祭壇を睥睨した。供物は、スティナ、だろうか。

「私が知る限り、君は最も強い討伐師だ」

「討伐師としての力なら、ミカルやエイラの方が強ぇと思うけど」

 エイラは怪我のために全盛期の力はないが、今も体調が万全なら、確実にスティナより強いだろう。ミカルは言わずもがな。

「あんたもミカル教官の指導を受けたのか。つーか、よく見たら似てるなぁ」

「……」

 よく言われるのでスルーした。

「ま、それはどうでもいい。問題は、あんたが強力なエクエスの力を持っていることだ」

「私はそれもどうでもいい」

「そう言わずに、聞けよ。十数年前、才能あふれたあんたを見て私は嫉妬した」

「三つ四つのガキ相手に? 馬鹿じゃねーの」

「あんたの力が、私にあったなら、自分は討伐師になれたかもしれない……」

「そんなに討伐師になりたかったのか? 酔狂な奴だな」

 ボリスのセリフにスティナがツッコミを入れるが、二人とも互いの話を聞いていない。


「討伐師! 圧倒的な力! たとえ事件を起こしたとしても、無罪放免になる可能性が高い! そして、合法的に殺人ができる!」

「……」


 あ、こいつ、やばいやつだ。スティナは自分も『やばいやつ』だと思っているが、ボリスはそれを越える。


「私に力さえあれば……! その力をよこせ!」

「断る」


 望んで討伐師になったわけではないスティナだが、役目を放り出す気はない。この役目は、スティナに合っていると思っている。思いたいだけかもしれないけど。

「ヴァルプルギスと討伐師の違いは何だと思う? 私は、根本は同じだと思うんだ。エクエスの力とヴァルプルギスの力は同系統のものだろう。と言うことは、それらの本質も似ているんじゃないか?」

「……だから?」

 スティナは目を細めてボリスを睥睨した。

「あんたも、私も、その本質は人殺しだと言うことだ!」

「!」

 ボリスがスティナに向かって手を伸ばした。スティナはその手を振り払って身構える。対人格闘の訓練も受けているが、人間相手は苦手だ。


「手を出してくるなら容赦はしない」


 一応牽制の声を上げるが、ボリスは止まらなかった。鋭い蹴りをかましてくる。スティナはふらっと身を後ろに引いて避けた。

「おとなしく言うことを聞いてくれそうにないからな。弱らせて、その力を奪ってやる」

「参考までに、私から力を奪ってどうする気だ」

「神だよ」

「……は?」

 胡乱な声をあげたスティナは悪くないと思う。それくらい、意味が分からなかった。

「聖女ルシアの残した力を使って、私は神になる!」

 スティナは無言でボリスを見た。左足を軽く後ろに引き、姿勢を低くする。

「どうやら、これ以上話していても不毛なようだな」

 何しろ、ボリスの狙いがわからない。彼も同じようで「そのようだ」とスティナに同意した。

「だが、忘れるなよ。君には人質がいる……冷徹な討伐師も、民間人の命をないがしろにはできないだろう?」

 討伐師としてそう言う訓練を受けているのだ。やはり、討伐師候補だっただけあり、相手がめんどくさい。

 スティナは背後をちらりと見る。エイナルがシーラに銃を突きつけたままだ。だが。


「それを撃つ勇気が、果たしてお前にあるかな?」


 スティナは身をひるがえし、エイナルとシーラの方に向かった。シーラが「ひっ」と悲鳴を上げる。

「くっ、来るなっ」

 エイナルが叫ぶが、銃を持つ手が震えている。いくら銃で脅していても、その引き金を実際に引くことができるかは別問題なのだ。

 スティナはエイナルの銃を持つ手をつかみ、銃口を上に向けた。そこで発砲音がなる。エイナルが引き金を引いたのだろう。そのまま彼のわき腹に膝蹴りを入れ、シーラから引き離す。

「さがれ!」

「……っ」

 シーラは、スティナの指示に従ったのかはわからないが、そばを離れて儀式場の壁際に寄った。スティナはそのままエイナルの腕をひねりあげると、そのまま肘を折った。


「ぎゃああああっ」


 その痛みにエイナルが悲鳴を上げて頽れる。それを見下ろしたスティナだが、近づく気配に目をあげた。反応が遅れ、左頬を強かに殴られた。歯で口の中が切れ、血の味がした。

「エイナルは一般人だよ。骨を折るなんて、捕まっちゃうよ」

「もともと、過剰防衛を食らうくらいの覚悟はあるからな」

 殴られた頬に手を当てながら、スティナは殴ってきたボリスに言った。そのまま格闘戦に突入する。ふりあげられた拳を払いのけ、回し蹴りを繰り出す。よろめいたボリスの肩をつかみ、その鳩尾に思いっきり膝蹴りを入れた。

 スティナが手を放すと、ボリスは蹴られたところを押さえてよろめき、膝をついた。それを見たスティナはやりすぎたか? と少し焦る。対人戦は苦手だ。力加減がわからないから、やりすぎてしまう。


「この、ふざけるなぁぁああっ!」


 ボリスが叫んで殴り掛かってくる。型も何もないその攻撃を身を沈めることで回避したスティナは、そのまま掌底をボリスの胸に押し付けた。スティナが掌底を突き出した勢いと、自分が飛びかかった勢いて彼の肋骨が嫌な音を立てる。これは確実に折れた。

 ぎゃあああっ、とみもふたもなく悲鳴を上げて転げまわるボリスの首をつかみ、頸動脈を圧迫して気絶させる。そこに、聞き覚えのある声が聞こえたのだ。


「なんじゃこりゃ」


 振り返ったスティナは、そこにいる男性二人を見てさらっと言った。


「片付いたぞ」


 マジか、と言う表情を、イデオンどころか発言者であるリーヌスまで浮かべた。スティナがいるのだ。ある程度は予想しておいてほしかった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


討伐師の裏の部分を書こうと思ったはずなのに、どうしてこうなった(笑)



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