初戦闘
角からゴブリンのいる分岐路までおよそ30メートル、全力疾走すれば5~6秒で到達できる距離。
しかしこの時ばかりは果てしなく長い距離に感じられた。
全力で駆けるもゴブリン共との距離を半分と詰める前に奴らはこちらを振り返った。
足音を立てて近づいているのだ、当然のことだといえる。
「ギギッ!?」
ゴブリン共はこちらに気づくと驚いたように声を上げ、慌てて剣を構えた。
できれば不意打ちで先制攻撃を仕掛けたかったが流石にそこまでうまくはいかないか。
だが既に賽は投げられた。
もうなるようにしかならない。
「おおおおおおおおおおっ!!」
俺は叫び声を上げると更にスピードを上げた。
バールを大きく振り上げ、前に居たゴブリンが間合いに入った瞬間、勢い良く振り下ろした。
ゴブリンも剣を振るうがこちらの方がリーチが長い。
ゴブリンの剣が届く前に俺のバールが振り下ろされ、ゴブリンの頭に叩き込まれた。
ボゴッ!! グチュ……と音を立ててバールはゴブリンの頭蓋骨を砕き東部を大きく陥没させた。
ゴブリンは剣を振るった勢いのままクルリと半回転した後、地面に崩れ落ちた。
俺はそれを見届けることなく2体目のゴブリンの元へと走る。
走る勢いのまま振り下ろしたバールを横薙ぎに振るう………が剣を盾代わりにされ防がれた。
しかし体格の小さなゴブリンではその一撃を受けきる事ができずに大きく体勢を崩した。
その隙を俺は見逃さず、がら空きになった胴に蹴りを入れた。
「グギャ!?」
ポコリと膨れた腹に足先が食い込みゴブリンは悲鳴を上げて地面を転がった。
俺は苦しげに這い蹲っているゴブリンの元に寄るとこちらを憎々しげに睨むゴブリンと目が合った。
「ギィィィィィィィィ」
「うおらああああああ!!」
ゴブリンが慌てて体を起こした瞬間、俺はバールをフルスイングした。
バールが体を起こしたゴブリンの首元へ吸い込まれ、ボキボキと頚椎を砕いていく。
バールの一撃をくらい首がおかしな方向へ曲がったゴブリンが壁に勢いよく激突し、壁に紅い花を咲かせた。
バールを振り切った姿勢で荒く息を乱したまま俺は周囲を見回した。
周囲に立っているのは俺だけでゴブリン共は死んで地面に転がってる。
敵はもういない、戦いは終わった。
そう理解した瞬間、腰から力が抜けた。
そのままゴブリンの死体に挟まれるようにへたりこんでしまった。
「はは、俺だってやれば出来るんだコンチクショーめ」
こうして俺の初戦闘は幕を閉じたのであった。
「あれ?」
戦闘後、ゴブリンの死体を見ていたらおかしな事が起きた。
ゴブリンの死体が白化し灰のような物へと変化していったのだ。
全身が白化すると死体だったものは完全に崩壊し、もはや元はなんだったのか分からない灰の山へと変わっていく。
普通の生物にはあり得ない死に様………如何にもファンタジーって感じだな。
俺は灰を掬うとマジマジと見つめてみるがどう見ても元魔物だったようには見えない。
灰の山に手を突っ込みグルグルとかき回していると手に硬い物が触れた。
「なんだこりゃ?」
灰の山から出てきたのは薄い乳白色の結晶だった。
硬貨のような大きさで形も円形で似ている。
だがそれ以外のことは何も分からなかった。
もう一つの灰の中も調べてみると同じ結晶が見つかった。
これが一体なんなのかは知らないがそのまま捨て置く気にもならなかったのでポケットの中に仕舞いこんだ。
チャリーン
「うおっ!?」
ポケットに結晶を入れるといきなりスマホからお金の音が鳴った。
当然のことに驚きつつ、ポケットの中に手を入れスマホを取り出した。
「ん?」
おかしいな、同じポケットに仕舞った筈の結晶が1枚しか見当たらない。
疑問に思うも先にスマホのチェックをすることにした。
スマホを起動すると、ウェジットとアプリのアイコンが表示される。
『Lv1』
『42DP』
なんかDPが増えてる。
ん~、心当たりがあるとすれば一つしか思いつかない。
でもまさか、ね~。
俺はポケットに1枚残ってた結晶を手に取るとスマホに当ててみた。
チャリーン
さっきと同じ音が鳴って結晶が透過するようにスマホの中に消えた。
『Lv1』
『44DP』
予想通りDPが増えた。
一体どういう仕様になってるんだろうかこのスマホ?
どうやら俺の知ってるスマホとは完全に別物っぽい。
……………もしや異世界仕様?
まあ、俺の知ってるスマホと似て非なる物ってところか。
そういうアイテムだと思っておこう。
とりあえずスマホのことは今は置いとくとして、次は戦利品の回収といこう。
今回の戦いで倒したゴブリン共は死んだ後に灰化してしまったがゴブリン共が使っていた剣は無事に残っていたのだ。
その剣は両刃の片手短剣……になるのか。
ゴブリンにとってはノーマルな剣なのだろうが大きさがゴブリンサイズなので人が使うには刀身が短かった。
おまけに刃も刃こぼれが多くボロイ。
だけどそんな物でも武器は武器、ちゃんと回収しておく。
どうせなら鞘も用意しといてくれればいいのに……。
心の中で文句を言いつつも回収した短剣は腰のベルトに挟みこむように差し込んだ。
折角手に入れた武器だがバールの方が使い勝手がよさそうなのでこのままバールをメインに、短剣をサブで使う事にする。
今回のように敵が落とした武器を鹵獲できるならその内もっと性能のいい武器を手に入れることもできる筈。
その時までバールには頑張ってもらうとしよう。
武器の確認を終えると新たな武器を求め俺は再び探索に戻った。