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GAME -multiple-  作者: 転寝猫
4/5

26 Mar. -4-

「はあ………」

湯船に首まで浸かり、湯気に白く曇った天井を見上げて…ため息をつく。

「なんだかなぁ…」

目を閉じると、思い浮かぶのは。

『似非巨乳アイドルなんて、ちょろいもんね』

楽勝楽勝、と勝ち誇ったように笑う…不知火の姿。

「…あの馬鹿」

別に、あのタレントのファンだったわけじゃない…けど。

『傷心のあんたに、すかっとして欲しいと思ってさー』

あんな、女の醜い部分を見せつけられて…すかっとするわけないだろう。


『二人には内緒よ』と、釘を刺されていたものの。

人道的にそれは出来ない、と思った俺は、不知火と別れてすぐ、睦月に電話をした。

あいつは………

一瞬、絶句した後。

『女って…怖いな、仁』

ぽつり…と、呟いた。

『だって、あの…『女』なんて微塵も思えないすずが、そんなことするんだぜ?俺…つくづく、文で良かったって思った』

『先輩には…その』

『言えるわけないだろ』

きっぱり言い切る睦月に、でも…と、反論すると。

『自分の名を語ってそんなことされたって知ったら…文、気絶するぞ!?』

一生のお願いだから内緒にしておいてくれ、と泣きつかれてしまっては…俺は口を噤む他ない。


『だいたい、あんなプライベートな話、どこで仕入れてきたんだよ!?』

例えば?と澄まして聞き返す不知火に、思わず顔が熱くなる。

『だから…指輪の裏の文字とか』

『ああ、あれ?そんなん、前にお姉ちゃんに見せてもらったに決まってんじゃない』

『そりゃ…そうだろうけど………ほっ、ほら!他にもあったろ!?色々と…その』

『お姉ちゃんのブラのサイズくらい、洗濯手伝ったりするときに見れるわよ』

『だっ…だから………』

言い淀む俺に、不知火はにやりと意地悪な笑みを浮かべる。

『ああ…あれね』

『……………』

『あんなの、ネットで検索すりゃ、いっくらでも引っかかってくるでしょ?』

ネット…か。

ちょっとほっとする俺に、不知火は得意げに胸を反らした。

『それにさー、前に睦月に聞いたことあんの。『なんだかんだ言って、あんたあの巨乳に惑わされたんじゃないの?』って。そしたら』

『なんか…言ってたのか?あいつ』

『そうそう』

『そうそうって………言ってたのかよ!?』

『ちょーっとだけね。睦月の名誉の為に、どの部分とは言わないけど…まあ、それに尾鰭をくっつけたのがあの話、ってわけ』

『……………』

『お姉ちゃんに冷たくされて、睦月相当参ってたみたいでー。かなり酔っ払ってたみたいだから、本人覚えてないかもしれないけど』


「すげー…やな話、聞いちゃったな」

『なあに、想像しちゃった???』

水月のえっちー、と笑う不知火の顔が脳裏に浮かび…湯船のお湯でバシャバシャ顔を洗う。

「想像したくなんか…ねえよ」

決めた。

やっぱり…先輩にも話そう。

………にしても。

ちゃぽん、という音と共に、青く光る水の塊が、水面からふわりと浮かび上がった。

「一週間くらい前…か」

それじゃ…俺と同じじゃないか。

『変わったこと?』

睦月は、不思議そうに聞き返した。

『そうだなぁ…特にないけど』

何かあったの?と尋ねる睦月に、別に何も、と答えて電話を切ったのだが。

「あいつ…俺たちとは状況違うもんなぁ」


『GAME』。

それは、『賢者の石』と呼ばれる、不思議な石をめぐる戦いだった。

炎の精霊、サラマンドラ。

風の精霊、シルフィード。

土の精霊、ノーム。

そして。

水の精霊、シルフィード。

ゲームマスターが勝者を宣言することで、勝者の願いを一つだけ、叶えることが出来るという。

だが、その為には…ゲームマスターの命を捧げることが必要だったのだ。

『ゲームは引き分けです』

ゲームマスターである、不知火先輩の宣言により…勝者を決めぬままゲームは流れ、賢者の石は精霊使いの手によって無に帰され、精霊たちはそれぞれの場所へと戻って行ったのだった。

『いつか、また会いましょうね』

「…ウンディーネ」

水の精霊の優しい笑顔が…瞼の裏に広がった。

『あんた、ウンディーネはもういいわけ?』

あの子と付き合い始めた時、不知火は怪訝そうな顔でそう言った。

耳まで湯船に沈んで、心の中で呟く。

いいも何も…ねえだろ。

だって。

俺は、もう二度と…ウンディーネには………


その時。

『ジ…ン………』

微かな声が…脳裏に響いた。

………え?

『仁………』

ウンディーネ?

まさか………

胸の鼓動が速くなる。

そんな………

だって。


『仁!』


はっとして、見ると。

浴槽に…ウンディーネの顔が…ゆらゆらと浮かび上がっていた。

その瞳は、恐怖に大きく見開かれており。


『助けて!仁!!!』


「うわあああ!!!!!」


「どうしたの!?」

浴槽から飛び出したのと、母さんが風呂の戸を勢い良く開けたのは…ほぼ同時だった。

「何!?ゴキブリでも出た!?」

「い…や…その…」

かあっと顔が熱くなり、まじまじとこっちを見ている母さんを、慌てて風呂場から締め出す。

「きっ…気のせいだから…いいから、あっち行って!」

「気のせいって…何が」

「何でもいいだろ、出てけってば!!!」

はあ…とため息をつき、再び…浴槽に視線を移す。

が。

そこには、当然…ウンディーネの姿は…なく。

「気のせい………なの…か?」

『助けて』

「まさか…な」

『仁』

「けど…あいつの身に…何か」


「分かったぞ」

遅めの夕飯を食いながら、突如ぽん、と手を叩いた俺を…親父は不思議そうに眺めている。

「どうした?カズ」

「えっ………?」

「『分かった』って…どうかしたのか?」

「あ………いや」

何でもない、と呟いて、インスタントの味噌汁を啜る。


『ごはん、いつも和成くんが作ってるの?』

『まあ、作るってほどじゃ…出来合いのもの買ってきて、飯炊いて適当に』

『偉いのね、学校も忙しいのに』

『いや、別に…そんな忙しいこともないっすけど』

『部活とかもやってるんでしょ?』

『………まあ』

こういう時、『ゲーム部です』とは…何となく、言いづらい。

『ごはん、作ってあげられたらいいんだけど』

『本当ですか!?』

ええ、とにっこり頷いた彼女の笑顔、脳裏に焼き付いて離れない。

『機会があったら是非…とは言っても、そんなに難しいものは作れないんだけどね』


絶対に謙遜だ、と…思う。

見るからに、非の打ち所の無さそうなあの子のことだ、きっと料理だって完璧なのだろう。

例えそうでなくたって、あんな子が作ってくれたら、何だっておいしく感じるに違いない。

まったく………

その恩恵に与っているのが………あの、馬鹿兄貴だなんて。

「カズ?」

「あっ…うん。何?」

聞こうか聞くまいか…ものすごく迷った顔をして、更にもう一呼吸、晩酌のビールで口を潤した後…親父は、小声で俺に尋ねた。

「お前、その………」

「なっ…何だよ!?言いたいことあるなら、はっきり言やいいだろ!?」

お袋は…親父のこういう所に、愛想が尽きたのかもしれない。

最近…事あるごとに、そんな風に思うようになってきた。

全く、イライラするっていうか、なんていうか。

「親父、だから何だって聞いて」

「好きな女の子でも…出来たのか?」

「………は?」

「い…いやっその、何となく…な。違ってたら…その」

「かっ…関係ねーだろっ」

「そう…だな。そうだよな………悪かった」

冷食の餃子に箸を突き立てた俺を見て、親父は首を竦めて頭を掻いた。

「でも…」

「………何だよ」


パタン、と部屋のドアを閉めて、頭からベッドにダイブする。

『何か悩んでるんなら、父さんで良ければ相談に乗るからな』

「………はぁ」

『昨日はどうもありがとう』

彼女からのメールに、胸がぎゅっ…と、絞めつけられる。

親父に相談したって…どうなる話でもねーだろ。

けど。

「これは…間違いないな」

ゲームやマンガの中で、何度もお目にかかってる…あれだ。

俺は………

どうやら、彼女に恋をしているらしい。

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