第34話
まだ薄暗い時間、王都の中心にある旧市場広場に、不安と期待が混ざった気配が漂っていた。
リース家の使者たちがそっと配った嘆願書が、柱や石の間にしのばせられる。
――それは「税の緩和を」「核の喪失に向き合って」「民の苦しみに応えてほしい」と訴える文書。
誰かがそっと拾い、次の人の手に渡る。やがてその輪は、広場の灯りとともに明るさを帯び始めていた。
朝市へ向かう人々の足が止まる。
母親は幼子を抱きながら、唇をそっと動かす。
「ねえ、お父さん。これ、本当?」
年配の商人も、腕に巻きつけた泥の粒を見つめながら、言いにくそうに呟く。
「どうやら、王子の呪いも疫病も以前より深刻で……王宮が隠してたんだって」
そして一人が、ちいさく言った。
「こんな時にこそ、声を上げなきゃ──いけないんじゃないか?」
その瞬間、群衆の中に小さなうねりが生まれた。
リース家が送り込んだ“語り部”が、広場の隅から声を上げる。
「皆さん、この声を途切れさせてはいけません! 王家には聞かせるべきです! 私たちの声は、国を動かせるのです!」
最初は静かだった声が、次第に大きくなり、広場全体に“希望の合唱”を響かせた。
「税を下げろ!」
「命を守れ!」
「民の声を聞け!」
群衆の中に立つ商人の目には、涙が光っていた。
「これが……声を上げる強さか……」
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遠く王宮の高窓から第一王子妃・セレナがそれを見下ろしていた。
その顔は、血の気が引いている。
「まさか……こんなに早くだなんて——!」
誓いを込めた儀式さえも、嘆願の波の前では無力だった。
王家の崩壊は、もう止められないのかもしれない。
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旧邸宅の中、アリアナと弟のカイルは地図を前に立っていた。
「今こそ、“民の声”と“貴族の不安”が一つになるとき」
カイルの視線は揺るがない。
アリアナは淡く笑みを浮かべる。
「この波を逃さずに、“会合”を起こすわ。貴族にも呼びかけて、リース家の構想を正式に発表するの」
弟は小さく頷いた。
「これが本当の始まりだ――リース家による王都改革」
広場での喚起が、今後の大戦略への“第一号砲”となった。
やがて夜明けが訪れ、広場全体が光に包まれる。
嘆願書は冷たい朝露にしっとりと濡れ、群衆の声は今ややみ渡ることを知らない。
その中でアリアナは、弟の肩にそっと手を置いた。
「カイル、見て。私たちの声が、王都の中心で鳴ってる」
カイルは彼女を見て、静かに答える。
「これで……ようやく“本当の国づくり”が始められる」
夜の闇が晴れ、王都は新たな朝を迎えつつあった。




