第30話
王都の夜は、静かに、しかしどこか異様な気配を孕んでいた。
その日は昼過ぎから曇り空が広がり、星ひとつ見えない夜となっていた。
にもかかわらず、王都のあちこちに――まるで、魔法のように現れた“告発の羊皮紙”。
最初に気づいたのは、雑貨屋の娘だった。
「ねえ、これ……なにかしら?」
建物の壁や柱に無造作に貼り付けられた、無数の紙。それは王家の名を堂々と名指しした、糾弾だった。
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ーー《王家告発書》抜粋ーー
王家は腐敗している。
民の飢えを無視し、疫病を隠し、贅沢に酔い痴れた。
そして第一王子は神蛇の呪いを受けた。
その呪いは、王家の“罪”が形となったものだ。
新たな“巫女”が目覚めた今、王の血脈は試される。
真の正義は、誰の手にあるのか。
民よ、目を覚ませ。
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張られた紙は、まるで一夜で咲いた毒花のように街中を彩っていた。
その異様さに、誰もが足を止める。
「……嘘だろ。第一王子が呪いに……?」
「“巫女”? まさか、あの……桃色の髪の娘の噂?」
「でも、疫病の件は……確かに、何か隠してたって話もあったよな……」
町の隅、暗い路地裏。
盗賊あがりの情報屋が、煙草をふかしながら呟く。
「とうとう始まったな。“神蛇の巫女”の動きがよ……」
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アリアナはそれを、塔の窓辺から静かに見下ろしていた。
闇にまぎれて王都に散った彼女の使者たち――
そして、“真実”の種が今、ようやく地に撒かれたのだ。
左腕の包帯の下、神蛇の契印がじわりと熱を持つ。
(目を覚まして、民たち……この国は、腐りきっている)
(あなたたちが苦しみ、虐げられてきたすべては――王家が“自分たちのために”作った秩序だった)
月も星も隠れた夜。
それでも、人々の胸には確かに灯りがともる。
それは、“変革”という名の小さな希望。




