表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/40

第19話

アリアナが退室した後、書斎は冷たい静寂に包まれていた。

エリアス・リースは、机の上に置かれた古びた書物に指をそっと乗せたまま、深い息をつく。


かつて、彼の先祖はこの国の貴族で最も権勢を誇った公爵家だった。

だが――王家は腐敗し、奢りは果てしなく増殖し、民は泣いていた。


「王家は自らの傲慢で国を滅ぼすつもりだ」

そう神蛇が告げた夢は、あまりに鮮明だった。

一瞬で胸をつかれ、燃えるような“使命”に駆り立てられた。



隣国の王と私、二人が同時期に同じ“神蛇の夢”を見るという偶然。

それはもう偶然ではなく、“当然”だった。


この王国は腐り切っている。

富と権力を握る者は民を踏みにじり、

正しさは忘れられ、国は壊れかけている。


神蛇は告げた。

「王家の核を取り戻せ。神の声を運ぶ巫女を覚醒せよ」と。


それは、単なる民族間の戦いではない。

“国を救える正義の覚醒”だった。




“王家の核”――それは王への証、魔力の中心。

継承者として、正統な権威として、国を治める器として。

だがそれと同時に、王家の暴政の根源でもあった。


核を奪えば――

国の理すら変える、「真の正義の王」が現れる。


私たちリース家は、忘れられた影ではない。

神蛇の血を継ぎ、いつか“この国の秤”となるべき存在だった。




王子に近づき、肉体を重ね、精を受け、呪いを引き受けさせた。

それは卑劣な策略ではない――神蛇信仰の儀式だった。

精を受け入れることで、力の回路を接続し、

王子から娘へ呪いを移行させることで、王家の核も移行させた。


そして娘は巫女として目覚めた。神の意志が肉体を通じて現れたのだ。


アリアナの気高い美貌と、記憶を失った結果、従順に見せた魂は、

まさに“神に選ばれし器”の証だった。



「国を救うために、私は娘さえも――

いや、娘だからこそ、血と運命を託したのだ」


――アリアナの父、エリアスの声はとても低く、野太かった。

それは、確信に根ざした強さだった。


アリアナは今、“国を導く鍵”となった。

だがそれは“私の道具”ではなく、“彼女自身の器”である。


だが、この計画で手にしたのは、単なる策略ではない。

愛・裏切り・犠牲を超えた、神の与えた試練と力だ。




書斎の窓に月が反射する。

エリアスは、心の中で誓った。


「アリアナよ――

お前は神蛇の声を体現する者。

民の嘆きと、神の怒りを纏いし者となれ」


静かに夜明けが近づく。


そして間もなく、

――神の巫女は“王家の核”を取り戻し、

新しい世界への扉を開こうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ