9話 第一回勇者攻略作戦会議
【モモリス視点】
「ではこれより、第一回勇者攻略作戦会議を開催します!」
仁王立ちで宣言するが、目の前に正座したエイラがおざなりに手を打つ。
私達が今いるのは千亀さんの通う神木高校にほど近いアパート。
築35年とかなり年季が入ったアパートの一室。
畳敷きの四畳半には押し入れと簡単な流し台しかなく、風呂・トイレは無し。
そのため家賃は月8000円と破格の安さ。
排泄行為を必要としない私達だからこそできる節約術だ。
「さて、本日の議題は2つ! エイラはわかりますか!?」
ビシッと目の前のエイラに一指し指を向ける。
「……鶴万千亀への対応?」
「そう! その通り!」
エイラの答えに大げさに拍手をしてやる。
別に最初の拍手が小さかったことを怒ってたりするわけじゃないよ?
いやホントに。
「今日のお昼に他の人を巻き込んじゃダメって言われたけど、それ以外なら何してもいいみたいです! 何かいい案はあります?」
「殴る」
「はーい、脳筋的な答えをありがとうございまーす! あと床が抜けちゃうかもしれないからそのオリハルコン製のハンマーは早くしまって!」
このアパート、壁も床も薄いんだから気を付けてほしい。
「殴るって言っても、それで殺せる? 最初に負けてたよね」
「勝てます」
「何か作戦でもあるの?」
「いえ、ですが次やれば勝てると信じてます」
「そういう根拠のない自信とか嫌いじゃないけど、まったく信用できない!」
昨日は手も足も出なかったじゃない?
悪いけど、エイラのスペックを知ってる私からしたら正面からやりあうのは無謀としか思えない。
「でしたら、また因果操作をすればどうでしょう?」
「……因果操作は無理だよ~」
エイラの提案はもっともだ。
最初はそれで攻めてたわけだし。
ただ――
「あれは私達が別世界にいたからできたことなんだよね。異世界間の次元壁がいい感じにジャミングしてくれて、誰がちょっかい掛けてたかわからないようにしてたの。もしもこっちであんな大掛かりな因果操作したら、この世界の神々にもろバレだって。良くて強制送還、悪くてその場で滅殺されちゃう」
「なるほど」
「こっちで出来ることって言ったらちょっとした催眠と神威で違和感消すことくらいかな。それもやりすぎればバレちゃうし」
神威で違和感消してなかったら、この黒髪黒目が一般的な世界でこんな派手な色の髪で生活なんかできないもの。
「はぁ、まさかあんなに強いとか思わなかったよ。どうやって倒せばいいのか全く分かんない」
闘いの神でもない私じゃお手上げだ。
エイラさえいれば瞬殺できると思ってたけど、その見通しも甘かったみたい。
でもこっちでの滞在が延びればこの世界の神々にバレる可能性が高まるだけじゃなく、私の世界の存続自体が危うい。
「……それならば逆に考えてみては?」
「逆?」
「えぇ、あの男はハーレムには靡かないようですが、かなり恋愛というものに憧れを持っているようでした。人並み程度には女性に興味を持っているでしょう」
確かに、言われてみれば。
彼が語った理想はどこの映画か小説かといった程に甘いものであった。
「であれば、ハーレムで釣るのではなく誰か1人に惚れさせることで、自発的に協力させる事が出来るのでは? 恋人のために身を捧げるなど、それこそあのロマンチストは好きそうな展開ではないでしょうか」
聞けば聞くほどいいのではないだろうか。
単純に殺害を目指すよりは現実的だ。
「……エイラ、私は貴方のことを誤解していたようです。まさかちゃんと考える頭を持っていたとは」
「モモリス様が私のことをどう思っていたのか非常に気になりますが、それは別にいいです。モモリス様にはこれから頑張っていただかなければならないので」
「ん? 何のことかわかりませんが、エイラ。頑張って篭絡してくださいね?」
「はい?」
「え?」
4畳半に沈黙が下りる。
「モモリス様があの男を篭絡するのですよね?」
「何を言ってるんです、なんで神である私が人間なんかの気を引くために心を砕かなきゃならないんですか! それこそ従者であるエイラの役目でしょ!」
「いえ、ここは万全を期すためにも私よりも美しく淫乱であらせられるモモリス様の方が適任かと」
「そ、そう? ……って淫乱!?」
「あの男もモモリス様のことをそう評しておりましたし、少なからず性的な目で見ていると思います」
「違うよ!? あれは全然そういう意味じゃないと思うよ! エイラこそ私が考える最高の美女って感じでチューニングしたんだから、気を引けるはずだって!」
「私は戦うしかできないので……」
その後数十分にわたって言い争いは続いた。
ちなみに、かなり大声を出したのに近くの部屋から注意が来ることはない。
このアパートの入居者は私達だけだから……。
◇□◇
結局、結論は先延ばしになる。
2人ともチャンスがあればアプローチをかけ、それ以外は殺すための行動をとるというところに落ち着いた。
狙いは吊り橋効果!
吊り橋とヒロインが同じっていう問題点はあるけど、些細な問題だろう。
「はぁはぁ、それじゃ次は2つ目の議題よ」
「……」
長時間の言い争いで疲れ、ぐったりしつつも私は口を開く。
なぜなら今までの話は前座であり、ここからが本題だからだ。
「……お金が、ない!!」
私達は、この世界のお金といったものを一切持っていなかったのだ。
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これから年末で忙しくなり、更新頻度おちるかもしれません。すみません。
※すみません、どうにも1月の上旬まで忙しく更新できないと思われます。1月の中旬からは必ず更新再開しますのでしばしお待ちください。(20161225追記)