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6話「サダハルとは」

あぁ、難しい。


取り敢えずエタることないです。更新遅くてすいません



 この世界は王によって支配され、王によって保たれている。


 王があって、国があり、王があって民がある。


 王即ち力であり、王があって人々が暮らせていける。


 王は国を造る力があり、王がこの世界を統一する権利がある。だからこそ、王と王は戦い、同じ権利を持つモノを潰す。誰しもが世界を統一させて自分のものにしたいと思う。


 では、王とは何か。


 そもそもの始まりは一人の王からであった。

 

 竜王と呼ばれる王がこの世界のすべてを支配し、統一していた。すべて自分の思い通りに動き、すべて自分の手足のように動かせる。


 それが果てしなくつまらなく感じた竜王は自分の12人の騎士達を呼び寄せて力と領地を分け与えた。


 そして、竜王は言う。

 

「お前たちは今から王である。この中で争い、勝者となったものに私のすべてをやろう」


 それは世界を自分の思いどおりに動かせる力だった。誰しもが憧れる絶対的な力だった。


 そして12人は争う。王が王を殺し、民が民を殺す。


 戦乱の世の幕開けだった。


 それから幾百年経って、なお王は減りども未だ戦は続いている。


 知らぬ力と世界を求めて。


 












「……以上が報告になります」


 騎士が集められた会議の中で、偵察任務から帰還したエルベールの報告が行われた。多数の負傷者を出したものの、持ち帰った情報は貴重なものでまた、騎士達にため息を吐かせて肩の荷を重くするものであった。


 蛇国は大国である。その力も強大であるども騎士での総力戦であるならば慧国にまだ軍配があった。


 一騎当千のアレンを始めとする7名の騎士に比べて蛇国の騎士は総勢11名であるがその練度は慧国の方が勝る。その理由として王の力の差であった。


 シキ・エルヴァーンは慧眼の持ち主である。慧眼により人の才、潜在能力を見極める事ができるシキにとっては騎士にすべき人間がどのような人であるか選び抜くことは安易であった。


 この世界においては氣が全ての勝敗を分ける。全ての体の動き、技を大きく向上させる氣はその練度の差1つで戦闘に大きく差がつく。

 

 その中ではアレンはずば抜けているが、王が従える騎士に1人才が豊かな者がいるのは普通である。実際に蛇王のお抱えの騎士の中でクリス・ノワールという騎士が居る。斧槍使い手で絶大な武力を誇るが戦闘狂で有名である。勿論の事、聖王、燐王、覇王、華王の中にも世界に名高い騎士は居る。


 だが、慧王の騎士はそんな有名騎士達と並ぶ優秀な騎士が多かった。それぞれが戦闘に特化したものではなかったが、エルベールを始めとする様々な騎士は誰しもが才高く、氣の練度と量も並大抵なものではない。


 慧国は領地としては小さく、兵力もさほどない。だがこの戦乱の世で生き残り続けているのは伊達ではなかった。


 とは言っても戦争は物量の強さが大きい。


 蛇国は騎士の戦力はなくとも兵力の多さと物量が驚異的な面がある。そして、エルベールが持ち帰った情報はその兵力が強力になっている事だった。


「ボウガン兵の増大と、重騎兵か……」


 ボウガンは弓に比べて取り扱いが安易であり、またその連射力も高い。ここ最近ではボウガンが普及しており、勿論の事慧国も導入しているがあちらは国が大きい。

 

 国が大きれば民も増えて、その生産力も違う。ボウガンの制圧力が広がれば遠距離からの攻撃が激しくなり厳しい戦いになる。


 ボウガン兵は近距離ではその制圧力は下がるが、それを補うようにして重騎兵が待機しているとの事だ。


 遠距離からの攻撃を加えて乱戦になれば重騎兵で押し上げる作戦なのだろう。


 短期間の潜入ながらも確実な情報を持ち帰ってくれたエルベールには感謝しなければならないと、シキは思った。


「やはり、慧王様の言うとおり、確実に戦力を整えています」


 それが意味するのは即ち、大戦が近いということ。


 悠長に構えている時間はない。


「慧王様。ここは一度、全ての騎士を集結させて戦力を練り直す必要があるかと」


「……」


 エルベールはその目で敵の戦力を見ている。そして、この先で行われるであろう大戦がこれまでよりも過酷になるのがわかっている。


 だからこそ、騎士全てを集結させての深い会議が必要となる。


「サクス。キミの鳥たちを使いたい。一番早いのを頼む。フィル達の招集を頼むよ」


「了解しました」


「全員が整い次第軍の調整など行う。激しい戦になると思うから、皆、気を引き締めてくれよ」


 騎士がその胸に手を当てて1つ、頭を下げた。この世界における敬礼のようなものである。シキはその姿を見届けて1つ頷くと、深く座りなおして息を吐いた。


「……慧王様」


 さて、これからどうしようかと考えていると、エルベールがどこか不安そうに声を上げた。彼女にしては珍しかった。


「ん?なんだいエルベール」


「サダハルについてですが……」


『――』


 誰しもが、息の飲んだ。唯一シキだけは、平常な表情を見えているのは昨夜の出来事があったからだ。


 ここに居る騎士全ては任務途中に起きた戦闘を知っている。


 任務に参加したアレンは勿論の事であるが、全てはエルベールからの報告書と共に明かされているからだ。男である彼の話題がこうして会議に出てくるのは珍しいことではない。未だ騎士の中では彼を認めない者も居おり、騎士見習いの雇用に反対する者もいる。


 だからこそ、報告書にサダハルの事について書かれていることにある者は首を傾げて、ある者は鼻で笑った。


 特に普段交流が少ないサクスはふざけているのかと怒りの表情を露わにしたくらいだ。


 しかし、あのアレンが同行し、その全てを見ている。その報告書通りであると口にすればこれが本当であるのは間違いなかった。


 騎士の中で古くからシキに付き添い、騎士の誇りと王に対する忠誠心は絶大である。なにより、覇王に「いつか俺の騎士にしてやる」と言わしめた程の武力を持つ実力者。


 そんな彼女が妄言など吐くわけがなかった。


 エルベールは元諜報員であり、また新参の部類であったが、アレンとなれば話は別。口を閉じざるおえない。


 だからこそ詳しく知りたい内容であったが、シキ自身からは口にはしなかった。これは王のための会議だ。王が興味がない、必要のない、と判断した内容については語ることは許されない。彼女が質問し、それに答えるのが騎士と王の会議である。


 会議は終わりつつあった。エルベールに敵戦力について細かく聞き出し、全騎士を招集させる。その内容だけであった。


 だが、エルベールは自ら口にした。サダハル・サガラという男について。


「彼は……彼は何者なのでしょうか。あれは……あの力は一体」


「魔法、という力についてだね」


 普段気持ちをその顔に出すことが少ないエルベールが何か苦悩するような顔を浮かべてシキに尋ねた。彼を雇うと決めたのはシキである。だからこそ、エルベールは尋ねたのだ。


 彼は一体何者であろうか。


 彼女自身の目の前で行われた出来事。戦闘に参加していることに驚いたエルベールをさらに驚愕させたモノ。


 あの輝く光である。


 叫びと共に突き出された手から輝き、護るように光がまるで盾のように彼を、エルベールを守った。そして剣が弾かれて敵はサダハルによって討たれる。


 それだけではない。2人目の動きを止めた光の輪っか。異なる力を見せた魔法とは一体何か。


 確かに、体内の氣を放出させてる“燐”という技はあるが、あれは何もない空間から光を放つことなど、ましてや盾のような形にして自身を護るなどできることではない。


 恐らく、燐王であるならば可能であるがどこか燐とは根本的に間違ったものだろう。それは多少なりとも燐を扱える者なら分かることだった。


 燐とは自然を操る術だ。吹き荒れる風、流れる水、燃え盛る火。それを意のままに操るのが燐である。


 吹かなければ風は操れない。水がなければ操れない。発火しなければ操れない。何もないところから火を出すのは不可能である。


 そもそも、燐であるならば、それはそれでおかしいのだ。


 彼は、男なのだから。


 男は氣を持たない。それはこの世界の常識であり、故に女が強く生きている。


 だからこその疑問であった。


 彼は、一体何者であろうか。


「ボクもね、正直驚いているよ。というよりも君たちと同じく疑問の念を持っている。彼が持つ力がどのようなものであるか、というのもとても気になる点の1つだ」


 一度はアレンが見た、光が見せた超回復。二度目は自身を守った盾と輪。あれが魔法という力だというのか。


「そもそも、『まほう』という力ではないのは?男がそんな力を持つなど聞いたことがありませんし」


 何処か、馬鹿にするような声を上げたのはサクスであった。彼女はサダハルに対して何処か否定的である。男が騎士になるという事に関して快く思っていないのだ。シキ自身の決定のために表だって文句は言わないが、こうして時折何処かサダハルに対して否定的に言葉にすることがある。


 男は黙って女の後ろにいればいい。女尊男卑という世界の住人の典型的な考えを持つ騎士であった。


「では、あの力をどう説明するというのだ」


「……何かの勘違いで、そういう風に見えたのではないでしょうか?戦闘が行われた森は暗く、乱戦気味であったと、聞きますし、敵との氣が入り混じってそう見えたとか」


「私達の勘違いだと?」


 アレンが少し不服そうに声を上げた。


「あぁ、いえ。別にアレン殿やエルベール殿を信じていないわけではないですよ。ただ、そういう可能性も否定できないと言っているだけで」


「アレが敵との氣による乱氣現象によるものだとしたら、私達は眼を入れ直す必要があるわね」


 一発触発の空気が漂いはじめた。元々サクスとエルベールは互いを苦手としていて、仲はお世辞にも良いとはいえなかった。だから、こうして何処か喧嘩腰のような言葉が漏れてしまう。


(……はぁ、まったく)


 騎士であるために、王の前であることを弁えているのか、言葉自体は丁寧に言い回しであるが、シキからして見ればただの子供の喧嘩である。


 なおも論議というなの喧嘩を見据えながら心の中でため息を吐いたのは、シキが彼についてまったくの疑念を持ちあわせていないからだ。魔法という力にしても、彼自身に対しても。まったくの疑いを持っていない。だから、彼の魔法が虚無であるかの有無の論議はどうでもよいものだった。


 勿論、エルベールからあの報告を聞いた時はさすがに驚きはしたが、そのままを受け入れた。むしろ、魔法という力がどのように使えるか発覚したことに嬉しさを覚えたくらいである。


(でも……不思議だよね。彼)


 しかしながら。彼が一体何者であるか、というエルベールの質問にはシキ自身も首を傾げてしまうものがあった。


 彼は男である。

 

 だというのに、アレンには手加減があるとはいえ、1回だけだとはいえ、地に伏せて見せた。アレンの訓練についていける。それどころか、日々成長しついには敵を倒すまでになった。


 男が戦場に出ることは珍しくない。


 だがやはり女性相手には力負けしてしまうし、時には剣すらまともに振れない者もいる。この世界は筋力という概念はどうしても下に見る傾向がある。筋力を増やすくらいなら氣の練度を上げた方が遥かに効率も強さも違うからだ。


 だから、一般的にいえば男は後方支援が適任であった。


 負傷した兵士の治療や物資輸送。武器の手入れなどだ。また、武器の開発も行っており商人が多く存在する。


 そういう職は大切なものである。それらを蔑ろにする人はいないが、自分たちの仕事に男が出しゃばり出てくればあまり良い気はしない女が多い。


 それがこの世界の常識である。


 故に尚更サダハルという男に対して特別な眼が向けられる。それは物珍しさであったり、嫌悪感であったり、様々な感情が彼には向けられている。


 男であるが、力を持つ異世界人。


(……まぁ、怪しさ満点だよね)


 慧眼によって才が見れないという点も不思議である。理由付けするならば、この世界の人間ではないからで済んでしまうが、それだけで説明しきれない部分もある。


(……それはもう少し先の話かな)


 彼を騎士とするならばそこの部分の説明も行わければならない。実際、騎士としての能力はこのまま訓練と実戦を積めば十分に育てあげることができるだろう。


 頭も悪くない、魔法という力がどう作用するかわからないが、報告を聞く限り氣に変わる新たな力として活躍してくれるだろう。


 ボクも運が良い。


 戦場で拾った男が8人目の騎士としての頭角を露わにし始めている。


 何かあると、まるで当てずっぽうのような勘であったけど、自分を信じてよかった。


(……彼が騎士になるなら、この世界で始めての男の騎士じゃないのか?)


(ふふ……覇王が知ったらどんな反応をするだろうか?馬鹿にされるかな?)


 赤髪の顔を思い出す。かつては学友でもあった覇王が呆れたような顔をしているのを想像した。


(そんでもって、サダハルの魔法に驚く、と)


 自分の中でコロコロと変わった顔をする覇王に少し笑いが漏れる。


「慧王様!」


 ――っと、会議中だったか。


 先程から熱を帯び始めた論議という名の喧嘩はやがてシキへと矛先が伸びた。頭の片隅では会話の大体の内容はつかめているので、改めて会議に加わる。


「慧王様は、どう思われますか!」


 彼女らがこうして熱を帯びた会議をするのは結構あったりする。


 王にも様々なタイプがあって、基本的には王が独裁する形であるけれども、シキは騎士の考えを無下にせず尊重するタイプだった。だから騎士同士で好きに議論させる。勿論、度が過ぎれば止める。


 彼の魔法の話はサクスがどうにも納得出来ないものであった。アレを敵との氣が混じり乱れる乱氣現象というものではないか、という主張を繰り返している。


 乱氣現象は戦で主に見られる現象で偶に目に見える形で現れることがある。現象には様々あり一概にこれ、というものはないが一番に見られるのは氣が発色して光るというものだ。


 氣が濃いと目に見えることがあるがそれは極一部だけだ。それこそ王クラスか最上位騎士クラスでしか見ることはない。しかし兵士同士の戦いでも乱氣現象が起こり発色することがある。


 サダハルの魔法をこれと見間違いたのでは?というのがサクスの主張だ。


 だが、アレンとエルベールは否定する。乱氣現象はひどいもので人体に影響を及ぼすものがあるがそこまでの規模の大きいものは一般兵士同士の氣ではまず起こりえない。単純に氣の量が違うからだ。


 エルベールとアレンという騎士がいるが、そこまでの氣を出していないし、何より乱氣は互いの氣が釣り合って起こるものだ。格下の相手には起きない筈。


(……ふむ)


 この目で魔法がどういうものか、まだハッキリと見えていない分なんとも言えないが、この議論についてはまったく意味のないものだった。


 彼に魔法を見せて貰えればいいじゃないかい?


 これに尽きた。


 早い話ここで議論を交わすより実際に見た方が良いだろう。シキ自身も魔法という力が一体どれほどのものなのかを見ておきたいというのもある。


 サクスもシキが言えば納得する筈だ。


 しかしながら、エルベールがこれをすでに言っている。対するサクスの反論がこうであったか。


「あ、あいつが女かもしれないでしょ!つまり、燐よ!」


 無茶苦茶だった。


 いくらなんでも破綻しているものがある。エルベールも呆れるくらいであった。


(……こういう所がサクスの悪い所だよ)


 サクスは子供っぽい所がある。そして頑固だ。彼女自身も無茶苦茶な事を言っているかと思うが後に引けない性格をしているため、こうした論議では自分でよく破綻したり喧嘩したりするのが多い。


 こうした場合はよくシキがなだめるようにして論議を終わらせるのがいつもの常であった。もはや一種のルーチンワークだったりする。


(そして、そこがサクスの可愛いところだね!)


 しょんぼりするサクスを撫でてやると機嫌が治る。ある意味犬みたいな娘だった。


「――」


 そして、今日もサクスをなだめようとして、ふと何かよぎった。


 それはある意味悪いノリというか、天啓というか。


 ある意味彼女らしくない、遅れてきた思春期かもしれない。


「そうだね――確かめてみようかサダハルが男かどうか」


『はい?』


 

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