1問目
平坦でない声で尋ねられると、適当な返事が返せなくなってしまうのは何故だろうか。
「違う、あの時はかなり混乱してて…」
焦って声が少し上擦る。
少女はじっと見つめたままだ。
「質問の意味がわかってなかったらしいよ。
別件でかなり焦ってたから。」
と、振り向きもしないながらもグレンが助け船を出した。
少女はちらとグレンを見、また僕に視線を移すと
「そう…分かった。」
と短く言って踵を返した。
横のみぃなと早紀がほうっと息をつく。
僕の方は茫然といった様相だったが、なんとか頭を動かし、お礼を言おうとグレンを振り返って驚いた。
「もうできたのっ?」
かなりのマスだったにもかかわらずグレンのプリントには綺麗に斜線と塗り潰しの入った真っ赤なナンプレが出来上がっていた。
黒のペンで書いたのに赤いという事は正解だ。
絵は地図で、ビルの名前やらも入っている。
文字は次の言葉の目星がつけばヒントになって進めやすくなるかもだが、
わざと一列に並べず、ずれた位置に配置されているのと、
大通りではなく裏路地の、大阪の入り組んだ街並みが顕著な辺りを問題としている事、
マスが一つでもずれるとまさかの全消しによって最初からやり直しという、
(間違った箇所だけ消えるのでは当てずっぽうでも完成出来てしまうからだろう。)
鬼のような内容なので、この早さは目を張るものだ。
「私の方も褒めてくれてもいいと思うんだけど?」
皆の讃美の声の中、不服そうに姉が口を尖らせた。
そういう姉のプリントにもクロスワードの完成図があった。
ついでに僕がさっき断念した穴埋めが埋められている。
「まぁ確かに、あのナンプレを10分かからずってのは神業だけどね。」
と微妙な褒め言葉も付け加える。
「そのクロスワードも、一部の問題はかなり高難易度だったみたいだから、神業だと思うよ。」
とグレンも称讃を返す。
確かに、一部はサッパリで、携帯は使えないし、
しかも僕らはあの子とのやり取りに気をとられていた為、実質姉が一人でやったようなものだ。
姉はグレンの褒め言葉で満足だったらしい。
二人のプリントをそれぞれで書き写す。
「うわ、縦11番の『松竹座の様式は』とか何で知ってんの。」
流石にこれには舌を巻く。
「美術関連の問題なら強いわよ?私。」
ナルホド。
姉が美大生だという事実を思い出す。
「『ていかんようしき』ってどんな字で書くんですか?」
とみぃなが尋ねたりして、少し和やかな空気が流れだしたが、
あと10問解かないといけない現実が頭を抱えさせる。
「携帯使えないとなると問題解く側と走る側で分かれるとかも出来ないしねー。」
姉もみぃなに『帝冠様式』と書いた紙を手渡しながら嘆息した。
「わかってるやつだけ、私先に行ってきましょうか。」
と早紀が提案した。
「私、他のも解けそうにないし、
どこか決まった所で解いてて貰って、見つけたらまた戻ってくるので。」
「わー…、それ早紀ちゃんの負担が断然大きいけど…妙案ね。」
姉がどんな表情を作ればいいのかわからないからか、逆に無表情になって感心した声を出した。
「なら僕も。」
「私も。」
と当然ながら僕とみぃなも続いて手を挙げた。
「ならそこのマクドの1階にいるわ。
せめてもの優しさで飲み物とか好きなだけ買ったげる。」
「ホントに関西の人はマックの事マクドって言うんですねー」
とみぃなが呟いた。
「じゃあ最初は敬介から行ってきなさいな。」
と千代が言って、敬介も当然のようにプリントを畳んで向かう風情だったが、
「私、最初でお願いします。」
と早紀は押し止どめた。
姉弟二人同時に訝しげな表情に変わるが、
敬介は早紀に何か考えがあるのだろうと察したらしく、
「なら僕は二番目に出る。早紀、気をつけて。」
と言って、向かうのを促した。
流石にこの空気で引き止める人はいない。
「うん、敬介もみぃなちゃんもね。」
と返事をして輪を抜ける。
「みぃなちゃんもね」と、忘れる事なく言った早紀にみぃなが感心している事などは知る由もなく、走り出していった。
ーーーー
駆け出した早紀が向かうのはナンプレの地図にある星印の位置だ。
そこに敵がいるかもしれない。
(いや、いて欲しい。)
私には彼らに質問したい事があるのだから。
さっき雅人が言っていた「正統継承者が新たに封印する」件
浅葱から聞いた雅人の嘘と人柱の話
もし、早紀の考えが当たっていたとしたら。
敬介にも、他の皆にも知られてはいけないと思う。




