表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/35

第27話 加害者と被害者の狭間

 脳を刺激したから仕方ないのだろうか。やけに医療職員が小さくても違和感があれば呼び出しボタンを押すように念を押してくる。そして点滴までつけられた。何が入っているかなんてわからないけど、まあ少なくとも三時間くらいは外せないらしい。

 点滴が終わったら呼ぶように、と言って医療職員が出ていったのを確認して、職員さんは俺の検査結果の続きを話してくれた。

「ヒトにとって美味しい臭いがする人、ということで、貴方は検問所では人間と確定しました。例の指名手配犯との関係性は、親子というよりは加害者と被害者と定めています」

 検問所が俺を人間と見做したことは意外だった。てっきりヒトと言われると思っていた。

「なので貴方自身としては何も変わりはありません。ヒトが寄るのもこれまで通りに契約で封じれますし、契約更新の時期をご自身で管理してもらえば問題ありません」

「それは……すみませんでした」

 今回の泥棒事件が起きるまで自覚が無くて契約更新を失念していたのは、俺の過失だ。職員さんはそれで例の事件の解決策に役立ったから注意だけだと言うが、俺はそれで良かったとは思えなかった。

「検問所でのトラブルは日常的ですからお気になさらず。それよりも例の指名手配犯の習性についてですが、他人の子供を譲渡してもらい、自分の子として育てるようです。ですが検問所での記録だとここ近年では成体を確認していません」

「俺は違うんですか?」

「貴方は途中で育児放棄された扱いです。検問所の見解では、貴方が彼女を助けるために突き飛ばした行為が、拒絶の意味と受け取られたのではないかと。あのまま貴方が彼女の手を取っていたら、おそらくいま此処にはいませんよ」

「育児放棄……」

 職員さんの言葉が重く胸に沈んだ。そうか、あれはそういう意味に捉えられたのか。ただ助けたかっただけなのに。今ならヒトとの認識の違いだと理解できるけど、あの時はおいて行かれた悲しみしかなかったな。

「ええ、と──続けます。それで今一度、他国で起きた殺人と放火の事件を確認したんです。貴方の記憶と共通点はないかと」

 俺の記憶だと実家が燃えたのは父の寝タバコが出火原因だった。他のことも、あらゆる事が偶然重なったようなものだ。指名手配されるほどの殺人と放火との共通点なんてあるのだろうか。

 そう思っていたら、職員さんはしばらく黙り込んでしまった。しばし悩むように眉間に皺をよせてうんうんと唸った後に、決心したように口を開いた。

「他の事件と共通点どころか、全く同じだったんです。全部、本当に同じだったんです」

 職員さんの言葉が一瞬理解できなかった。

「同じって──だってアレは俺が、俺が母を刺したんですよ? 家事だって父の寝タバコが布団に飛んだからで」

 俺の言い分を遮るように、職員さんは続けた。

「他のヒトにも確認を取りました。半ば強引に子を自分の子にし、しばらく育ててから返しに行き、子供に実の母親を殺させてから、子供諸共、放火で焼き殺してます。彼女の犯行はこれで統一されていました。貴方の記憶にあった通りのことを、再現しているかのように」

「それじゃあ……俺が母を刺さなければ、少なくとも殺人は……」

 一気に血の気が引いた。なんておぞましい事件だと、無関係な立場なら思うだろう。

 でも違う。俺がそうしたから、他の子供が同じことをさせられた。

 俺が殺したのは母だけではないのではないか。

「貴方のせいではないです! だから──ああもう、どう言ったらいいんだ」

 職員さんは頭を掻きながら俺を励ます言葉をかける。だけど右から左に抜けていく。

「とにかく、貴方がしたから起きた事ではないんです! 実行したのはヒトであって、貴方は被害者で、加害者じゃないんです」

 身振り手振りで俺に言い聞かせる職員さんと目が合わせられず、布団を頭まで被った。

 今はわかりきっている耳触りの良い言葉が耳障りだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ