第160話 食材使いまわし6日目の朝ごはん。鶏ササミの紅白サンド、大根と人参のおかかあえ、ミネストローネ。
朝起きると、カイアに新しく新芽が3つもはえていた。教えてやると嬉しそうに鏡に新芽を映して確認している。
大きくなっているんだなあ、うんうん。アエラキもアレシスも、おめでとうと言って、似合っていると褒め称えて──アエラキはピューイ!と言っているだけだが──いる。
「新芽がはえる時期じゃないが、ドライアドの体の仕組みはわからないからな。
その向きなら芽かきしなくてもだいじょうぶだが……。一度カイアの兄弟株か親株に、問題がないか聞きにいったほうがいいな。」
俺がそう言うと、カイアはこっくりとうなずいた。
使いまわし食材も6日目を迎えた。俺は鶏ササミ(鶏ささみフレークでも可)、食パン(サンドイッチ用でも、普通の食パンでも)、レタス、キュウリ、玉ねぎ、トマト、大根、人参、ジャガイモ、キャベツ、生姜、ニンニク、薄切りベーコン、ホールトマト缶、マヨネーズ、ケチャップ、バター(マーガリンでも可)、醤油、塩、砂糖、コショウ、鰹節、ローリエの葉、固形コンソメスープの素、オリーブオイルを用意した。
鶏ササミをほぐして(鶏ササミフレークであれば水気を切って)水気をざっくり取り、タマネギはみじん切りにして5分程度水にさらして、水気を絞っておく。キュウリ1/2本は千切り、レタスは適当にちぎって洗って水気を切り、トマトはスライスする。
マヨネーズ大さじ2と、コショウ少々を、鶏ササミとあえる(大人はお好みで粒マスタードを入れてもいい)。
ケチャップ大さじ2と、コショウ少々を、鶏ササミと、タマネギのみじん切り少々とあえる。
食パンにバター(またはマーガリン)を塗り、レタスを敷いて、ケチャップとコショウであえた鶏ササミとタマネギを乗せる。
食パンにバター(またはマーガリン)を塗り、キュウリとトマトを敷いて、マヨネーズとコショウ少々であえた鶏ササミを乗せる。
上からバター(またはマーガリン)を塗った食パンを重ねて、包丁で半分に切ったら、鶏ササミの紅白サンドの出来上がりだ。
続いて大根200グラムと、人参1/2本を千切りにしたら、醤油大さじ2、鰹節8グラム、生姜のすりおろしたもの小さじ1(生姜チューブ可)を加えて混ぜ合わせたら、大根と人参のおかかあえの出来上がりだ。
ジャガイモ1個、人参1本、タマネギ1/2個、キャベツ3枚、薄切りベーコン4枚を1センチ程度の大きさに切る。鍋にみじん切りにしたニンニクひと欠片、オリーブオイル少々を入れて熱し、香りが出たら薄切りベーコンを加えて炒める。薄切りベーコンの色が変わったら、ジャガイモ、人参、タマネギ、キャベツを加えてしんなりするまで炒める。
ホールトマト缶1缶をつぶしながら加え、水800ミリリットルと、固形コンソメスープの素と、ローリエの葉と、砂糖大さじ1と塩コショウ少々を加えて煮る。
火が通ったら器に盛り付けて、ミネストローネの完成だ。使いまわし食材も6日目の朝ごはんは、鶏ササミの紅白サンド、大根と人参のおかかあえ、ミネストローネだ。ベーコンの代わりにソーセージでもいいな。
野菜がたくさん取れるし、ミネストローネは簡単で素晴らしい料理だよな。ローリエは日頃使っていなければ入れなくてもいい。
余ったら煮詰めて、オムレツの上にかけるソースにしても美味い。
今日はジャガイモの代わりにゴロロラを使用してみたんだが、うん、これも美味いな。
ニゴヒの町では、フライドポテトとポテトチップスの他に、じゃがバターも販売を開始した。美味いんだよなあ、じゃがバター。
レンジで温めただけでも美味い。有塩バターをたっぷりつけて丸かぶりする。
野菜好きの俺は、じゃがバターだけで腹いっぱいにしてしまうことも少なくなかった。
朝ご飯を食べ終えて、出かける支度をしていると、ドアがノックされる。
「エイト卿、ミリガンです。」
「ミリガンさん!お久しぶりです!」
俺は笑顔でドアを開けた。ミリガンさんは円璃花が家で暮らしていた頃、王宮との伝令役を担当していた尚書補佐官だ。
「こんなに朝早くに、どうなさったのですか?またずいぶんと慌てた様子で……。」
「実は連日お邪魔していたのですが、どなたもいらっしゃらなくて、王宮からの伝令をなかなかお伝え出来なかったものですから。」
「ああ、ここのところ出かける用事がありまして。すみません、手紙を送ってくださればよかったのに。」
「王宮の伝令は、秘匿事項が多いものですから、そういうわけにも参りません。ミーティアやリーティアは、他者の干渉を受ける可能性のある魔法です。他者の干渉を受けにくくする伝書魔法となりますと、ガーティアという方法もありますが、私のような人間がおいそれと発行出来る代物ではありませんで。」
そういうものか。まあ、ミーティアやリーティアは、魔法の音声付きのハガキみたいなものだからな。人が手を加えようと思えば、出来てしまうんだな。
「こちらを御覧ください。」
丸められた書面に、赤いリボンがかかったものを手渡されたので、広げて読んでみる。
「ダンスの練習……?
円璃花のパートナーとして……ですか?」
「はい。聖女さまは聖獣を得るために、ノインセシア王国、ロット山のミミパパ湖に向かわれる必要があるのですが、その際ノインセシア王国の王宮で、ダンスを披露する必要があるのです。そこでエイト卿をパートナーとしてお迎えしたいとのことでした。」
「俺、踊れませんよ?」
「はい、聖女さまもそうおっしゃっておりました。ですのでダンスの練習の為に、エイト卿に王宮にいらしていただきたいという、お願いになります。」
「いや、ダンスって、男性がリードするものですよね?そんな付け焼き刃でうまく踊れるものではないと思うのですが……。」
ダンスってあれだろ?社交ダンスだろ?
踊ったことなんて一度もないぞ?というか他のダンスだって、俺はまともに踊れないんだが?円璃花はなんだって、それを俺に?
「聖女さまはノインセシア王国が怖いのだそうです。それでエイト卿について来ていただきたいとおっしゃられて。王宮関係者でもない者が早々他国の王宮には入れませんので。パートナーとして入っていただく他なく。」
「ああ……、連日虫料理を食べさせられて、他に食べるものがなくて、衰弱してしまったんですよね。それがトラウマになったと。」
「ノインセシア王国は高山に囲まれた土地ですので、虫は通常食であるのと、魔力を増やす食べ物とされていますので、聖女さまに与えるのは必須とお考えだったのでしょうね。
食べ慣れていない人間のことを、考える気持ちがなかったようですが。」
「最悪また虫料理が出てきた時のことを考えて、俺を連れて行きたいんでしょうね。」
「そうかも知れません。エイト卿の料理はとても美味しいですから。」
俺が、恐らく勇者の体を貰っていながらその役目を無視している以上、聖女である円璃花の負担は大きい。何よりトラウマのある場所に近付かなくてはならずに怖がっている円璃花に、それくらいはしてやるべきか……。
「わかりました。ただ、聖女さまに恥をかかせない程度に踊れるようになるとは思えませんが、それでもよろしければ。」
「護衛として貴族出身の者も同行させますので、最悪その者と踊ることになると思いますので、最低限踊れれば問題ないかと。」
「わかりました。練習予定はまた改めて知らえて下さい。」
「ありがとうございます。助かります。」
具体的な日取りは未定だが、最低でも数ヶ月後、それが2ヶ月後なのか3ヶ月後なのかわからないが、それまでにさまになる程度は踊れるようになっておく必要があるらしい。
この世界じゃそのうちそういう機会がまたあるかも知れないし、専門家が教えてくれるぶんには、乗っかっておいて損はないか。
今日はニゴヒの町から、馬車でピリッサという町まで向かい、そこでハンバーグ工房とクリーニング工房と、元冒険者たちによる移動販売の拠点を建てる予定だ。
ピリッサの町は高い山のふもとにあり、豊富な山菜を使った料理が有名らしい。
山菜好きとしては見逃せないので、昼飯は山菜料理に舌鼓をうった。美味かったので帰りも軽く食べてから帰ろうと思っている。
山菜だけで主食を食べなければ、そこまで腹にもたまらないから、普通に夕食は食べられるしな。ルピラス商会が現地で先に求人を出してくれているので、今日も1日面接の予定がびっしりだ。面接を終えて、ある程度の手応えを感じつつ、ピリッサの町へと向かった時だった。冒険者ギルドの前で、何やら誰かが騒がしくしている。
「熊が!熊が出たんだ!まだ山に仲間が残っているんだ!助けてくれ!」
と叫んでいる若い男性。山菜採りを仕事にしているらしく、仕事仲間と山にこもって山菜を取っていて熊に遭遇したらしい。
はあ、熊か。いるんだな、熊。
男性の勢いに反比例して、では緊急クエストの受付ということでよろしいですね?と丁寧に説明している受付嬢。
「最初は調理器具を鳴らしたら逃げて行ったのに、またやって来て荷物を奪って行って食べ物を漁られたんだ。一度取り返したんだけど、もう何も食べるものはないのに襲って来て……。死んだふりをしたけど逆に近寄って来たから、みんな散り散りに逃げて、どこに行ったのかわからないんだ。なんとか顔に石を投げつけて俺だけでも逃げて来たんだ!」
……この人、頭大丈夫か?
俺は聞いているうちに、だんだんとポカンとしてしまった。
熊にやったら駄目なことを、見事にぜんぶ網羅している。生きて帰れたのが奇跡だな。
わざわざ熊を興奮させて、襲われたんだって、そりゃあそうだろうな。熊は襲うつもりなんてなかっただろうにな。
1.熊が触った荷物は取り返そうとしてはいけない。
2.逃げる際は背を向けずに、ゆっくりと後ずさる。
3.仲間がいた場合、バラバラに離れて逃げてはいけない。
4.石を投げるなど、熊を刺激する行動をしない。
5.死んだふりをしない。
6.ゴミを残して人間の食料の味を覚えさせてはいけない。
7.熊に遭ったら即座に下山する。
これらがとても大切なのだ。
彼らはまず、熊に奪われた荷物を取り返してしまった。一度手に入れた荷物を、熊は自分の獲物だと判断する。それを取り返すということは、熊の獲物を奪ったと認識されてしまうのだ。熊はもともと興奮状態にあるか、子熊を守ろうとしているか、──獲物を守ろうとする時に攻撃的になるんだ。北海道で山に入る人間なら常識だがここでは違うのか?
また、彼らは走ってバラバラに逃げてしまったらしい。蜂もそうだが、急な動きは熊を刺激して興奮させてしまう。犬と同じで、背を向けて逃げると本能的に追いかけてくるんだ。バラバラになってはいけない理由は、弱そうな生き物から襲うという狩猟本能が働いてしまい、狙いを定められてしまうから。
体の正面を向けながら、ゆっくりと後ずさる必要があるんだ。
そして襲われた時点で、もう熊から敵と見なされている。すぐに荷物を捨てて下山するという選択肢しかないわけだ。
それに熊は雑食性だ。死んだ魚とかを普通に食べるから、むしろ興味を持って近寄ってきてしまう。死んだふりなんて最悪だ。
そういう迷信が未だに日本にもあるが、この世界にもあったんだな。
久々の更新です。
間あきまして申し訳ありません。
一応明日も更新があります。




