第158話 食材使いまわし5日目の朝ごはん。鶏肉とゴボウと人参の炊き込みご飯、人参とピーマンの豚肉薄切り巻きケチャップソースあえ、ワカメと大根の味噌汁。
使いまわし食材も5日目を迎えた。
俺は鶏肉、豚肉薄切り、人参、ピーマン、ゴボウ、生姜、料理酒、醤油、砂糖、塩、コショウ、ケチャップ、みりん、サラダ油、胡麻油、顆粒だしの素を出した。
分量は4人前で考えて欲しい。
無洗米2合をといだあとザルにあけて、20分(普通の米なら30分)おいて水けをきる。炊飯器の内釜に入れ、目盛りに合わせて水を注ぎ、顆粒だしの素を1つまみ加えて混ぜたら、そのまま更に20分間浸しておく。
人参1/2本は皮をむいて細切りに、生姜1片は皮をむいて千切りにする。ゴボウ1/2本は皮をこそげ落としてささがきにし、水に5分ほどさらして水気を切っておく。
無洗米の水切りをしている間に、鶏もも肉150グラムを2センチ角に切って、料理酒大さじ1、醤油大さじ1で軽く揉む、または混ぜたら、胡麻油大さじ1を入れて中火で炒める。鶏もも肉の色が白く変わったら、ゴボウ、人参を加えて、軽く炒める。
全体に油が回ったら、料理酒大さじ2、砂糖大さじ1(みりんなら大さじ2)、醤油大さじ3を加えて混ぜて蓋をし、弱火よりの中火で5分ほど煮る。
煮た具材を煮汁と具にわけて容器に移しておき、粗熱がとれるまでおいておく。
炊飯器の内釜に入れておいた米に、煮汁を加えてさっくり混ぜ合わせたら、上に具材、生姜を加えて通常炊飯する。器に盛りつけたら、鶏肉とゴボウと人参の炊き込みご飯の完成だ。生姜はなくてもいい。うちの子は食べられるが、苦手な子どももいるからな。
分量は4人前と考えて欲しい。人参1/2本(小さめなら1本か2/3本)は5センチくらいの長さの千切りにし、切った人参を耐熱容器に入れ、大さじ1杯ほどの水を全体にかけてからふんわりとラップをしたら、700ワットの電子レンジで30秒加熱する。
人参よりもピーマンのほうが火が通りやすいからだが、面倒ならしなくてもいい。
ピーマン2個はヘタと種を取って細切りにし、人参とピーマンを豚肉薄切り200グラムの枚数分に、目分量で等分し、豚薄切り肉に人参とピーマンを巻く。豚肉は豚コマでもいいが、火の通りを考えて、その場合は必ず事前に人参に加熱が必要だ。
フライパンにサラダ油を熱して、巻き終わりを下にして豚巻きを並べ、初めはとじ目が定着するまで、そのまま動かさずに焼いたら転がしながら炒める。
豚肉に火が通ったら塩コショウをふり、ケチャップ、みりん、水をそれぞれ小さじ2、醤油少々を混ぜたものを回しかけ、豚巻きに絡めながら少し煮詰め、照りが出たら火を止める。皿に盛り付けたら、人参とピーマンの豚肉薄切り巻きケチャップソースあえの完成だ。お弁当のおかずにも入れられるし、子どもが人参を食べてくれる料理だな。うちのカイアもこれならモリモリ食べてくれるんだ。
使いまわし食材5日目の朝ご飯は、鶏肉とゴボウと人参の炊き込みご飯、人参とピーマンの豚肉薄切り巻きケチャップソースあえ、ワカメと大根の味噌汁、常備菜だ。
カイアがちゃんと人参を食べてくれるのを見つつ、人間の食器に慣れないアレシスの手助けをしながらご飯を食べて、子どもたちを保育所へと送って行った。
「アレシスちゃん、遊ぼう!」
年長さんクラスと思わしき女の子が、元気にアレシスを出迎えてくれる。アレシスにもお友だちが出来たんだな。良かった。
アレシスは嬉しそうにニコニコしながら、女の子と手を繋いで保育所の庭へと小走りに駆けて行った。
どうやらブランコで一緒に遊ぶらしい。
女の子がブランコに乗ったアレシスの背中を押してくれて、かわりばんこね!なんて言っている。まだ遊具に慣れないアレシスに先を譲ってくれるなんて、とっても優しい女の子だなあ。俺はそれを見て、安心して保育所をあとにした。
今日はニゴヒという町に工房を建てる予定なのだ。ツィーレの町のハンバーグ工房の俺の執務室まで、転送魔法陣で移動して、そこから馬車に揺られて行く。ニゴヒの町は海産物で有名な町だそうだ。ニニガというウニのような生き物が巨大になった、ゲルウニガという魔物が出るそうなのだが、これが巨大なのに大味にならず、かつ可食部が多くて美味しいらしい。俺はあまりウニが好きではないのだが、そこまで言うのなら食べてみたい。
お安いウニしか食べたことがないから、美味いと感じないだけで、いいやつなら美味いかも知れないからな。俺は子どもの頃はあまり牛肉が好きではなかったんだが、お安い肉と料理の下手な母のせいで、不味いと感じていただけだということが、祖母の家で初めて食べたしゃぶしゃぶにより気が付いたのだ。
それからというもの、唯一しゃぶしゃぶだと肉が食べられるようになった。今でも牛肉料理というと、しゃぶしゃぶが1番好きかも知れない。食わず嫌いという言葉があるが、食べてなお、いいものじゃないと美味しくないなんてことはよくある。うちの妹も野菜がとにかく嫌いなんだが、父が作った無農薬野菜だけはモリモリ食べていたしな。
まあ、木で熟す前にもがれたトマトが、流通過程で赤くなったものは、モソモソしていて酸っぱくて、俺もあまり好きじゃない。
キュウリだってそうだ。真緑で皮がかたくてトゲトゲがなくてモソモソしてる。
あんなものを食べさせたら、子どもが野菜嫌いになって当たり前だ。野菜好きの子どもだった俺ですら嫌いなのだから。
父の作る無農薬野菜は、木で赤く熟したのを朝採りして、冷やして食べるから、まあ甘くて美味いんだ。
キュウリは先端に黄色い花が萎れてついてる、細くてトゲトゲしたのが1番美味い。
夏休みの朝ご飯は、いっつも朝採りのトマトとキュウリを冷やしたものだったな。
水分をタップリと含んで、噛んだ時にシャクッシャクッと音が聞こえる程の歯ごたえ。
昔のアニメ映画に、母親の療養の為に田舎に引っ越した子どもたちが、近所の農家で採れた野菜を川で冷やして、美味そうに丸かぶりしていたシーンがあったが、あれは誇張じゃない。ほんとにそれだけで食って美味い。
あの美味さを知らずに死ぬと損をする。
よく酒の美味さがわからないと、人生を半分損したようなものと言うが、俺は野菜の美味さがわからないと、人生損してると思う。
ニゴヒの町でハンバーグ工房とクリーニング工房を建て、役場から測量担当が到着するのを待つ間に、ゲルウニガ料理店に入ってみることにした。今日の昼ご飯はゲルウニガ料理だ。入る店は店名で決めた。
その名もゲルウニガ中毒。中毒になるほど美味いという自信があるのだろう。ゲルウニガのコース料理を出してくれる店だそうだ。
前菜はゲルウニガとニニガの食べ比べ。海鮮とゲルウニガをふんだんに使った、レモンドレッシングのカルパッチョのようなもの。
この世界にレモンはないから、俺のレモンをルピラス商会から仕入れた物だろうな。
ゲルウニガのパスタ。ミノタウロス肉とゲルウニガのしゃぶしゃぶ。デザートまでゲルウニガのジュレ仕立てと、まさにゲルウニガ尽くしのコースだ。ゲルウニガ自体に甘みがあってクリーミーに感じる。それが舌の上でとろけていく。それでいて磯の香りがする。
コクってのはこのことか、という濃厚なゲルウニガが、サッパリと食べられてしつこく感じない。形がキレイなのに、ミョウバン処理してないからか、苦みを感じない。
採れたてを出してくれているんだろうな。
……うん。美味いじゃないか、ウニ。
やっぱり大勢の人に好かれているだけあって、いいものはちゃんと美味いんだな。
今日俺は嫌いな食べ物がひとつ減った。
測量を終えたら面接だ。クリーニング工房は俺の経営ではないので、メッペンさんが幹部候補として雇った人が、店長兼工房長として来てくれている。地元の人で、家族もニゴヒに住んでいる。研修だけメッペンさんの王都近くの工房で受けていた人の1人だ。
移動販売の面接もおこなうので、希望者は冒険者たちもいるし、ハンバーグ工房は一般の地元の人たちだ。どちらも給与が高く安定しているので、かなりの人数がやって来る。
工房長候補にかなり良い人が見つかった。
明日の面接次第だが、もうこの人に決めてもいい気がする。保育所だけは遊具を大工さんたちに作って貰わなくちゃならない。
俺の能力では出すだけになるので、地面にそのままデン、と置くだけになるから、それだと固定されなくて危ないからな。
ハンバーグ工房の内装や、保育所の脱出用滑り台なんかは、いつものように魔法建築家のエンデヴァーさんに頼んである。
ニゴヒのハンバーグ工房の俺の執務室内にも、移動用の転送魔法陣をしいて、王都近くのハンバーグ工房まで戻った。
保育所まで子どもたちのお迎えに行こうとした時、なにやら工房の敷地の外で、警備兵と女性が揉めていた。
ハンバーグ工房と、従業員の社宅と、保育所は同じ敷地内にあり、外部の人間が入って来られないようになっている。
それでも念の為警備兵を入口の詰め所に置いているのだが、大金を稼げるようになったうちの従業員の、親戚やら元配偶者やらが、たまに押しかけてくることがあるのだ。
まあ、ようは生活が苦しいから助けてくれってことだな。離婚した相手にどうして助けて貰えると思うのか不思議なんだが、金に困るとなりふり構っていられないのか、もともと図々しいかのどちらかなんだろう。
平民が稼ぐ手段が限られた世界で、なおかつ稼げても月に中金貨1枚、現代のお金にして10万稼げればいいほうなところに、月に20万以上稼げる職場はエリートコースだ。
冒険者ならCランク以上になれば、そのくらい稼いでても不思議じゃないそうだが、王宮や貴族の家に勤めてない限り稼げる金額じゃないそうだ。まあ、ルピラス商会なら、そのくらい給料を払ってるみたいだが。
「あの子は私の子どもなのよ!?どうして渡せないのよ!さっさとここを通しなさいよ!
コーリー!お母さんよ!
迎えに来たから一緒に帰るのよ!」
……コーリー?
コーリー君はうちの経理を担当して貰っている、ニールさんのお子さんだ。確か結婚相手の連れ子を、母親が虐待していたとかで、離婚と同時にコーリー君を引き取った筈だ。
そのせいで未だにコーリー君は、若い女性が苦手なんだ。最近少しだけ若い保育士さんたちにも懐いてきたと聞いているが……。
つまりこの人がニールさんの元奥さんで、コーリー君を虐待していた母親ということなのか。可愛らしいコーリー君に似て、見た目だけは少しキレイな人だったが、その顔をおっかなく歪めている。今更なんの用なんだ?
2人いた警備兵のうちの1人が呼びに行ったのだろう。ニールさんが慌てた様子でこちらにやって来るのが見えた。
「カリーナ……。なぜここが分かったんだ。
今更なにしに来た。」
カリーナさんは、ふん、と鼻を鳴らして、
「奪われた子どもを取り返しに来たのよ。
あの子はあたしの子どもだもの。
取り返しに来て当たり前でしょう。」
「コーリーは君に怯えてる。
君について行きたがるわけがないだろう。
君は自分がなにをしたのか忘れたのか?
コーリーに食事を与えず、お腹をすかせて泣いたら叩いて。魔物が出る時間に、あんな小さな子どもを家の外に放り出すなんて!!
僕がたまたま早く出稼ぎから戻らなかったら、あの子は死んでいたんだぞ!!」
ニールさんは肩で息をしながら叫んだ。
「うるさいわね!自分の子どもをどうしようと、あたしの勝手でしょう!?
法律でも子どもは親の持ち物と決まっているのよ!あんたが口を出す権利はないわ!」
残念ながらこの国の法律は、カリーナさんの言う通りなのだ。子どもは成人するまで、生殺与奪の権利を親が握っている。
だが子どもと5年以上ともに暮らしていれば、結婚相手の連れ子と血がつながっていなくとも、親権を主張することが出来るのだ。
ただし血がつながっていない場合は、養親が定職についている必要がある。ニールさんは出稼ぎに出ていた関係で、一緒に暮らしていた期間が短かった為、必要な5年を満たす為、ともに暮らして仕事をする必要があり、それをうちで達成しようとしていたのだ。
「あたしがちょっと捕まってる間に、コーリーを連れて逃げたあんたに、主張出来る権利なんてないのよ。
あたしから逃げ回って、その間に5年間の養育実績をつもうと思ったんでしょうけど、おあいにくさま。
さっさとコーリーを返しなさいよ。」
意地悪く笑うカリーナさん。
「なんでコーリーに執着するんだ!
そんなに大切に出来ない子どもなら、君にとっていないほうがいいだろう!
世話が面倒くさいんだろう?
コーリーが泣くと鬱陶しいんだろう?
君は僕にそう言ったよな。
だったらコーリーを、もう自由にしてやったらどうなんだ!」
一応明日も更新あります。
 




