第150話 食材使いまわし1日目の朝ごはん。 キュウリとツナマヨのサラダ、ジャガイモと納豆のチーズチヂミ、ひと手間加えた柔らか大根の葉っぱの味噌汁
今週はちょっと忙しいので、俺は食材使いまわしレシピに朝から悩んでいた。
アシュリーさんとララさんたちが別の家に住むことになって、円璃花もいなくなったことで、そんなに1度に量を作ることがなくなってしまったから、食材が余るんだ。
一週間の献立を決めて、それに合わせて食材を出す。こうすることで食材のロスをなくすことが出来るんだ。
カイアとアエラキのお昼ごはんは保育所で出るので、考えるのは朝ごはんと夜ごはんのレシピのみだ。
移動販売の拠点と、ハンバーグ工房、それにメッペンさんのクリーニング工房も近くに建てることになっている。
そして現地にちょくちょく行かなくてはならないから、瞬間移動可能な魔法陣を敷く必要があるんだ。
敷いてしまえば、あとは移動するだけなんだが、1度現地に行く必要があるんだよな。
日帰り出来る場所に拠点を作って魔法陣を敷いたら、1度そこから俺の家に魔法陣で戻る。そして次からは、1番近い拠点に転移して、そこから次の拠点まで馬車で移動をし、次の拠点に魔法陣を敷いたら、また魔法陣で自宅へと戻る。その繰り返しだ。
なんせ14拠点は最低作らなくてはならないからな。それを1度に移動して全部やるとなると、子どもたちを誰かに預けるか、マジックバッグに入れてついて来て貰わないとならない。この方法なら、昼間カイアとアエラキが保育所に行っている間に、用事を済ませて戻ってお迎えに行くことが可能だ。
「よし、今週はこんなもんか。」
俺は書き出したレシピに合わせて、人参、インゲン、大根、ピーマン、キュウリ、ジャガイモ、レンコン、ゴボウ、玉ねぎ、キャベツ、エノキ、しめじ、鶏ササミ、豚肉、卵、ツナ缶、ひき割り納豆、木綿豆腐、こんにゃく、とろけるチーズ、おかか、乾燥ワカメ、ベーコン、油揚げを出した。
他に追加するものもあると思うが、使いまわしとしてはこういう感じだ。
さっそく朝食の準備に取りかかる。
本当は昨日のうちにレシピを考えてておきたかったんだが、魔法陣の作成に、思いのほか時間を取られちまったんだよな。
キュウリ3本は薄い輪切りにし、塩をもみこみ、5分ほど置き、水分をよく絞る。
ツナ缶(70グラム)を1缶まるごと、油を切らずにぶち込んだら、3倍濃縮の麺つゆと、マヨネーズをそれぞれ小さじ2、ごま油と鶏ガラスープの素をそれぞれ小さじ1/2程度を入れてよく混ぜ合わせる。いつも目分量だから、割と適当なんだが。
ちなみに4倍濃縮の麺つゆなら小さじ1杯半、2倍濃縮の麺つゆなら大さじ1程度だ。
これで2人前だ。子どもたちと俺だけだから、まあこの程度でいいだろう。
冷蔵庫で冷やすと、また更に美味しく食べられる。時間がないので冷凍庫で一気に冷やしてやることにした。これでキュウリとツナ缶のサラダの完成だ。
次にじゃがいもの皮を剥いてすりおろし、ひき割り納豆1パック、とろけるチーズひとつかみ(30グラムくらい)を加え、納豆のたれ1パック分、片栗粉大さじ2、塩少々を入れてよく混ぜ合わせる。
納豆のたれが苦手な人は、醤油少々(小さじ1/3くらいか?)でもいい。
フライパンをよく熱し、胡麻油をひいて中火で熱したところに、形を整えたタネを入れて、全部をフライパンに入れ終えたら、 蓋をして2分間蒸し焼きにする。スプーンで適当にポトッと入れて形を整えても、それなりに形になるので、手早くやれる自信があるなら、そういうやり方もありだ。
俺も面倒な時はそうしている。
ひっくり返して、更に2分蒸し焼きにしたら、お好みの量のポン酢をかけて、ジャガイモと納豆のチーズチヂミの完成だ。お弁当に入れる時は、ポン酢を大さじ3程度絡めながら、蒸し焼きにしてやるとよい。あまり納豆の臭みがなくなるから、苦手な人でも食べてくれるし、うちの子どもたちも好きだな。
ジャガイモ大量消費レシピとして優秀だ。
次に味噌汁作りだ。まず事前に根本を付けておいて切って、洗って明け方外で干しておいた大根の葉を取り込んで、再度洗ってホコリを取ったら、3センチくらいの幅に刻む。
このひと手間が大事なんだよな。
冬場なら1日干す感じかな。日差しによっては半日でもいいが。干し過ぎるとよくないので、ご自宅の日当たりと相談して欲しい。
ちょっとしんなりしたなー、ギリギリまで安売りしない、近所のスーパーで売っている大根くらいだなー、という程度でOKだ。
フライパンにサラダ油を、普段炒め物に使う量としては少し多めかな?という程度にしいて、弱火または中火程度で、ゆっくりと水分を飛ばしながら大根の葉を炒める。
水分が飛んで縮んだら、食べやすい大きさに切った油揚げと、だしの素を加えて3分程度煮たら、火を止めて味噌を溶いて完成だ。
ひと手間加えることで、大根の葉がかなり柔らかくなり、子どもでも食べやすくなる。
まあ、ほんの少し苦いけどな。
これは父親の得意料理で、根本を残して切り落として、葉っぱも切った大根を、水栽培で更に葉っぱを育てて、繰り返し使っていた貧乏レシピだ。それで立派な葉が育つんだから、植物ってのはじょうぶなもんだよなあ。
こいつはひと手間加えた柔らか大根の葉っぱの味噌汁とでも呼ぼうか。
食材使いまわし1日目の朝ごはん。
キュウリとツナマヨのサラダ、ジャガイモと納豆のチーズチヂミ、ひと手間加えた柔らか大根の葉っぱの味噌汁、それとだし巻き卵と常備菜だ。うん、簡単な割に、我ながら豪華な朝ごはんに出来たんじゃないだろうか。
「さあ、積み木を片付けて、いただきますをしよう。2人ともお手てを洗いなさい。」
既に起きていて、積み木で遊んでいた、カイアとアエラキに声をかける。キラプシアはペットなので、お手ては洗わない。
「ピョルルッ!」
「ピューイ!」
2人がどんどんと積み木をおもちゃ箱にしまってゆき、壁際のカラーボックスにそれを片付けると、交代で手を洗う。手を洗いやすくする道具を取り付けてからというもの、俺が蛇口をひねってやりさえすれば、あとは自分たちでやるようになった。
お皿をテーブルに乗せるのは難しいので、それは俺が1人で全部やる。カイアはキラプシアをテーブルの上に乗せてやっていた。
「いただきます。」
「ピョルルッ。」
「ピューイ!」
「チチイ!」
みんなで一緒にいただきますをするわけなんだが、生きた木の幹と、オムツを履いたウサギと、頭にイチゴのヘタのようなものをつけたハムスターが、一緒にいただきますをしているのは、なんとも愛らしい光景だよな。
最終日は子どもたちのリクエストで、3食カレーの予定だ。俺も実家暮らしの時から、カレーは3食食べると決めている。
かなり1度に大量に作るのと、物足りなくて絶対にお代わりをするのと、後でまた食べたいという気持ちになるからだ。
カイアもアエラキも、普段ならそんなにご飯のお代わりをしないんだが、カレーの時だけは必ずお代わりをするんだよな。ついつい食べてしまう。それが家のカレーだと思う。
「それじゃあ、お父さんはお出かけをするから、みんなと楽しく遊んでいるんだぞ。」
「ピョル……。」
カイアはいっつも、ちょっぴり寂しそうに俺を見送るんだが、アエラキは返事もせずにさっさとお友だちのところに遊びに行っていた。まあカイアも、お迎えに来る頃には、お友だちと楽しそうに遊んでいるんだけどな。
カイアとアエラキの為にも、保育所を作って良かったなと思う。今までだったら、家に置いておけないから、基本連れ歩くことになって、しかも大半の時間をマジックバッグの中で過ごすことになっていたからな。なるべくならお友だちと過ごさせてやりたい。
マジックバッグは時間がゆっくり流れているらしいから、2人からすればほんの一瞬の出来事なんだが、バッグに子どもを入れるっていうのは、現代人からすると微妙な気持ちになる。見た目だけなら、虐待でもしてるみたいだ。アシュリーさんは楽しんでいたが。
馬車に乗って最初に向かったのはキシンの街だ。アラベラさんとジャスミンさんの住んでいる街でもある。レモンのハーブソルトのこともあるし、ついでに様子を見に行こうと思っているんだ。だが、俺はキシンの街についてしこたま驚いた。
“ようこそ、レモンのハーブソルトの里、キシンへ”と書かれた街の入り口の巨大な看板。左右にはレモンと小瓶をかたどった、立体的なイラストのような物まである。平民の識字率は低いというから、これは商人や貴族の為のものなんだろうな。実際以前よりもかなり街が栄えていて、仕立てのよい服を着た人たちがたくさん歩いていた。
カランカラン。
「──ジョージさん!お久しぶりです!」
「あらあら!まあまあまあ!」
笑顔で俺を出迎えてくれた、ジャスミンさんとアラベラさん。この宿の従業員は猫の獣人1人だけだったのが、3人に増えていた。
随分とはやっているみたいだな。
そして、ジャスミンさんの背中には、スヤスヤと眠る赤子の姿が。
「無事生まれたんですね、おめでとうございます。男の子ですか?女の子ですか?」
「女の子です。
……彼は跡取りを欲しがってましたから、知ったらガッカリするでしょうね。男の子の名前ばかり、考えてましたから。」
そう言って、さみしげに目線を落とすジャスミンさんを、心配そうに見つめる、母親のアラベラさん。俺は以前、この2人に、レモンのハーブソルトの作り方と、販売の権利をあげたんだが、その時乗り込んで来た父親のロバート・ウッド元男爵は、今はどこで何をしているのか分からない。
爵位を取り上げられたから、今更跡継ぎでもないと思うのだが、男の子を楽しみにしていた夫の為に、男の子を産んであげたかったのだろうな。本当に、どこでなにしてんだ。
子どもが生まれたことも知らずに、あのままま逃げ回っているのだろうか。
「名前はなんにされたんですか?」
「フローラです。」
「よい名前ですね。」
「ええ。ありがとうございます。」
「お祝いを考えなくちゃですね。」
「そんな!いいんですよ!ジョージさんには、たくさんお世話になっていますし。」
とジャスミンさんが慌てて遠慮する。
「いえ、贈らせてください。お祝いごとを祝うのが、大好きなもので。」
「……そうですか?でしたら喜んで。」
とジャスミンさんは笑顔になった。
「はい。……それにしてもなんだか、宿も凄いことになっていますね。忙しいですか?」
俺はお客さんで満杯になった、宿屋の食堂を眺めながらそう言った。
「ええ、それはもう。レモンのハーブソルトを作れるのは、うちとジョージさんだけですから、大量の注文が一気に殺到して大変で。
今は街の郊外に新たに工房を作成して、人を雇って作って貰っているんです。」
と、嬉しそうに話すアラベラさん。
そんなことになっていたのか。確かにルピラス商会から、大量にレモンを頼まれたが。
「レモンのハーブソルトを仕入れた店からお客さまが入るので、レモンのハーブソルトを扱っていない飲食店は、今やキシンの街には殆ど見ないくらいですね。土産物店にもハーブソルトが置かれていますし、買われる方も多くて。今じゃレモンのハーブソルトが観光に欠かせない存在になっているんですよ?」
と、人差し指を立てて、笑顔で教えてくれるジャスミンさん。
「ただ……。」
「何か?」
俺は表情を曇らせて、顎に手を当てて首をかしげるアラベラさんにたずねた。
「取り扱えるのがうちだけじゃないですか?ありがたいことなんですけど、そのせいで宿や工房に嫌がらせをされたり、狙われることなんかも起きていて……。
だから護衛を雇うことにしたんですよ。
この子のこともあるので。」
「ああ……。」
急にお金を持ったんだものな。そこまで手が回らないと思ったんだろう。実際襲撃されるまで、何もしてこなかったんだろうし。
「そのことなんですが、これをお渡ししたくて来ました。こちらを店と工房に、よければ貼って下さい。防御の魔法陣です。」
俺はマジックバッグから取り出した2枚の折り畳んだ紙で出来た魔法陣と、魔法陣が刻まれたペンダントを3つ、2人に手渡した。
だいぶ間があきまして申し訳ありません。
久々の料理回です。
一応明日も更新があります。




