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【7/29コミカライズ先行配信開始!】こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記  作者: 陰陽


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第127話 ピャウリー(ヤマメ)のちゃんちゃん焼き

 すっかり風邪から回復した俺は、朝から裏手の川でみんなと釣りを楽しんでいた。

 アシュリーさんとララさんとともにした釣りが余程楽しかったのか、川で釣れる魚が気に入ったのか──その両方だろうな──円璃花は釣りにハマッてしまったようだった。

 昔海に堤防釣りに連れて行った時は、そんなこともなかったんだがなあ。


 まあ、あの時はアカルサンばっかり連れたから、楽しくなかったのかも知れんが。

 釣った魚は食べる派なので、その場でそのまま焼いて食べたが、アッサリモッサリした食感で、正直そんなに食べたいものでもないからな。だから捨てる人も多い魚だ。

 ちなみにアカルサンは地方独特の呼び名らしく、正式にはネンブツダイと言うらしい。


 雄が卵を口にくわえて守り、孵化させるという独特の産卵の仕方をする魚で、卵をくわえている様が念仏を唱えているようであることと、水面を群泳しながら、ブツブツつぶやくような音をたてる様子が、仏教徒が集まって念仏講をしている姿に似ている、ということからその名がついたらしい。


 ネンブツダイは生身だと市場には出回らない魚だ。煮干しに加工されることが一般的には多い魚だが、あまり東京では見かけない。

 だからか、生身のままを味噌汁の出汁に使う食べ方が、漁師さんに人気らしい。出汁を取ったあとの身も食べるそうだ。

 だが和歌山県なんかじゃ、独特の料理方法で料理をして食べるそうだ。


 一応刺し身でも食べられる魚なんだが、人体に影響がないとされてはいるが、寄生虫がいるので、刺し身にする時はいちいち手で取り除いて食べなくてはならない。基本は加熱がオススメだな。ネンブツダイの天ぷらを食べられる店があるのを知った時は、ちょっと食べてみたいと思ったのだが、結局食べずじまいだったな。どんな味わいだっただろう。


 ちなみに家の裏手の川で釣れる魚は、ピャウリーという魚が中心だ。

 〈ピャウリー〉

 河川で過ごす河川残留型の個体。下流域に近い上流などの冷水域の川に生息している。

 味わいはヤマメに似ている。

 ──そう。我が家の裏手の川では、別名渓流の女王、ヤマメが釣れるのである。


 ヤマメの釣れるポイントは3つ。隠れ家がある、深さがある、流れがある。これだ。

 川向こうは森で、鳥が狙ってくるのだが、隠れられる岩場もあり、深くも浅くもない程度の川だからか、まさか家の裏手でヤマメが釣れるとは思わなかった。俺は海釣り派なんだが、渓流釣り派の人からしたら、よだれが出るほど羨ましい立地だろうな、我が家は。


 円璃花が楽しそうに、釣れたピャウリーを針から外して、クーラーボックスに入れる。

 ヤマメの餌は、水中か水面にいる昆虫だ。水生昆虫は水に流れて運ばれてくるから、それを捕えるためには、流れの中か近くにいないといけないということになる。また、ヤマメは水温が15度以下のとても冷たい水を好む魚だ。水は溜まると温度が上昇しやすく、流れている方が水温が低い。


 家の裏手の川に、岩がいくつも重なって、泡で白くなっている場所があるのだが、その手前の、白泡が消えかかって半透明になっている場所が、絶好の釣りポイントだ。

 ここの川は流れが強過ぎることもないので、ちょうどいい温度なんだろうな。低い水温を好み、かつ餌も流れてくるという理由から、ヤマメに似たピャウリーもここで暮らしているという訳だ。


 白泡は外敵から魚の身を守るカーテンの効果もあるんだぞ、と、カイアとアエラキとキラプシアに教えてやり、そこを狙って釣り竿を投げると、早朝なんかは面白い程に釣れることが分かった。

 カイアとキラプシアは、割り箸に釣り糸と餌を付けた物で釣っているが、アエラキはなんと、風魔法でロッドを持ち上げて、大人と同じ方法で釣っている。


 餌でも、ルアーや毛バリを使った疑似餌でも狙うことが出来るのがヤマメの特徴だ。

 ヤマメの狙い方は3つ。魚を模したルアーで誘い出すルアーフィッシング、虫を模した毛バリを使うテンカラ釣りとフライフィッシング、普通に餌を使うミャク釣りの3つだ。


 色んな釣り方を楽しめるのが魅力の魚だと思う。釣り方によって選ぶ道具も投げ方も異なる為、スポーツフィッシングと言うとバス釣りを思い浮かべていたが、ヤマメのほうが今はイメージが強い。

 ただ友人からは、すべての釣りがスポーツフィッシングになるのだと教えられた。


 むしろ日本では、鮒に始まり鮒に終わるという言葉があるくらい、昔から鮒釣りが盛んなのだそうだ。単純な仕掛けを使い、昔は近くの野池で気軽に釣れる魚だった鮒。最近は河川改修や、池の埋め立てで鮒を釣れる場所が激減し、その代わりにヘラブナを放流する管理釣り場が増え、スポーツフィッシングとしてのヘラブナ釣りが盛んになり、今ではプロ大会なんてものもあるのだそうだ。


 ルアーフィッシングは、ルアーを追ってくるヤマメの姿が見られることから人気が高いが、子どもには難しいし、俺も普段やらないのでよく分からない。だが本当に魚そっくりのルアーや、それを動かすさまはテンションが上がる。見ている分には子どもでも楽しいんじゃないかな。俺が詳しければ教えてやれたんだが、さすがに分からんからな。


 昔俺が生まれる前に、アニメにもなった釣り好きの子どもの漫画があったんだが、魚や釣り方がリアルで引き込まれた。少年漫画で当時連載していたというし、やってみればハマる子が多いのが、釣りという遊びなんじゃないだろうか。今は室内でゲームで遊ぶ子どもも多いが、世の親御さんたちには、ぜひとも釣りの楽しさを教えてやって欲しい。


 テンカラ釣りというのは日本発祥の伝統的な釣法だ。川釣り専門の漁師が考えたものだそうで、それぞれの家系ごとに独自のテンカラの作り方があったとのこと。一族ごとに門外不出のテンカラ作成ノウハウがあったのだとか。ちょっと気になるよな。


 どこかにそれらを集めた本があったら、いつか読んでみたいと思っている。まあ、門外不出なら、出さない家も多いんだろうが、子孫が釣りをするとも限らないし、重要な文化世界遺産として残すべきだと思っている。

 こんなにも昔から、人々に親しまれてきた貴重な釣法かつ遊びなのだから。


 テンカラは毛鉤の種類があまり多くなく、基本的に川幅の狭い渓流がフィールドになる釣法だ。毛バリを投げ込んでから誘える距離が短いため、他のどの釣り方よりもキャスト──仕掛けを飛ばす意味の釣り用語だ──回数が多くなるやり方だ。一方フライフィッシングは、幼虫に見えるものや、成虫に見えるものなど、毛バリの種類が非常に豊富だ。


 テンカラのような川幅の狭いフィールドではなく、川幅が広く流れも緩やかなフィールドで狙うから、魚にじっくりと毛バリを観察されてしまうからだそう。色んな種類がないと魚も学習しちまうんだな。フライフィッシングの起源はイギリスの貴族で、格調高い紳士のスポーツとして楽しまれてきた釣法だ。


 その為テンカラよりも遠投性があるのが特徴で、フライ自体が非常に軽いため、ラインの重さを活用した、独特なキャスティング方法が特徴の釣法だ。リールの付いたロッドを使い、前後に振り子のように振り、投げるフライキャスティングをしているほうが、フライフィッシングをしている人、となる。


 それに対してテンカラの仕掛けはロッドに直接結びついているシンプルな物で、ロッドとラインというタックルだけの釣法で、リールがついていない。リールが付いている方がキャストの飛距離が伸びるので、広範囲を狙っていける釣り方となるものの、狭く木々に囲まれた場所では、手返しの良いテンカラのほうが向いている。


 一方でフライフィッシングはロッドとリールだけでなく、ラインも専用のもとが必要になる。ラインの重さで毛鉤を飛ばすので、専用のかなり太いラインを使い、その先はテンカラと同じようにハリスを結び、毛鉤を付ける。岩場向きのテンカラ、流れが緩やかな川に向きのフライフィッシング、といったところか。ちなみにアエラキはテンカラだ。まああの手でリールは回せないだろうからな。


 友人と一緒に行った時に教えて貰った、短めのロッドを出して使用している。渓流は海と違ってロングキャストの必要性が少なく、木が覆いかぶさるなどしてキャスト方法が限定されがちなので、取り回しが良い短めのロッドを使用するのがよいとすすめられた。

 ピッ!ピッ!と楽しそうに何度もキャストしている。釣れているから大したものだ。


 アエラキのかたわらでは、真似してキラプシアが、釣り糸と餌の付いた割り箸を振っているのが愛らしい。その釣り方は割り箸釣り竿には向いていないから、まったく釣れていないのだが、本人が楽しそうなのでまあいいか、と思って放っておいている。キラプシア的には釣れることより真似が楽しいようだ。


 それにしても、魚を釣るオムツウサギ……なかなかにファンタジーな光景だな。

 カイアがうっかり川に根っこを出していたら、隠れ場所だと思われて、ピャウリーが集まって来てしまったのには笑ってしまった。

 まあ、木の体だからなあ。魚も警戒しないよなあ。まさか隠れ場所に意思があって動けるだなんて、よもや思うまい。


 最初は怖がって泣いてしまい、俺を振り返ったのだが、そのまま根っこの間に釣り糸をたらしてごらん、と言ったら、ピャウリーが釣れて楽しくなったようだった。

 円璃花もテンカラ釣り、俺とカイアとアエラキは餌を付けたミャク釣りだ。カイアも割り箸に餌と釣り糸を付けた物を使っている。


「よし、こんなもんだろう。そろそろ朝ご飯にしようか。ご飯も炊けた頃だしな。」

「そうね!お腹すいちゃったわ!」

「ピョルル!」

「ピューイ!」

「チチィ!」

 みんなも同意してくれる。


 パーゴラの下に移動して、ホットプレートを運び込み、モヤシ、キャベツ、玉ねぎ、ニンジン、味噌、料理酒、砂糖、みりん、ニンニク、サラダ油を出し、野菜を円璃花と子どもたちに切っておいて貰うことにする。カイアもピーラーでニンジンをむいてくれ、アエラキは風魔法でバババッとキャベツを切断している。円璃花が玉ねぎの皮をむいていた。

 ちなみに野菜はなんだっていい。


 その間に、俺はキッキンに戻って、ヤマメの下処理を始めた。

 ヤマメがまだ元気なので、料理バサミで頭を叩いて軽く気絶して貰ってから、お尻の穴から料理バサミを入れてお腹を切り開き、指でしごきながら内蔵を取り出して流水で全体を洗い流す。これだけだ。骨を取らないからさばくって程じゃない。別に腹開きじゃなく3枚おろしでもいいけど、面倒だしな。


「ホットプレート、あったまったか?」

 裏庭に戻って円璃花に尋ねる。

「いい感じよ。」

「よし、始めるか。」

 サラダ油をいたホットプレートの上で、ヤマメの身側から焼いていき、焼けたらひっくり返して、ヤマメの周りに野菜を入れて蓋をしたら、野菜がしんなりするまで蒸焼きにしてやる。魚も野菜の量もお好みで適当だ。


 ボウルに、ニンニクをすりおろした物を2欠片分、味噌大さじ4、料理酒大さじ2、砂糖小さじ2、みりん大さじ2の割合で混ぜたら、味噌ダレの出来上がりだ。こいつをまんべんなくかけて混ぜたら、ヤマメのちゃんちゃん焼きの出来上がりだ。お好みで最後にバターを乗せても美味い。

 シンプルで美味いキャンプ料理だな。


 ちゃんちゃん焼きは鮭で作るもののイメージがあるけど、和食も洋食もなんでも合うのがヤマメなので、せっかくなら外でも食べられる料理にしてみた。まあ、ヤマメは元々サケ科の魚ではあるからな。

 ヤマメは塩焼きが1番オススメとされる料理方だが、どうしても川魚独特の匂いが気になる場合にも、味噌を使うのが良いと思う。


 ちなみにサケ科やマス科は本来白身の魚だから、ヤマメもピャウリーも白身の魚なんだが、甲殻類を餌として食べると鮭のように身が赤くなるという特徴を持っている。ヤマメに海老だけを与えて育てて、みごとなピンク色のヤマメの刺身をいただけるお店まであるとのこと。1度食べ比べてみたいよな。


 ヤマメの陸海型であるサクラマスも、海で甲殻類を多く捕食することで身がピンク色になり、卵までもが赤色になることから、鮭と勘違いされることも多いが、実はまったく別の魚だ。ヤマメとサクラマスは元々同じ種類だから、ヤマメでも30センチを超える個体になると、捕食したヨコエビや川虫などの影響でピンク色になると考えられている。


「うっわああ〜……!美味しそう!

 いい匂いね!アエラキちゃん、いっぱい釣ってくれてありがとう!あ、これはカイアちゃんの釣ってくれたやつね!」

「ピューイ!」

「ピョルル!」

 2人とも嬉しそうだ。釣りも楽しかったみたいだな。みんなで釣った魚とご飯と味噌汁で楽しく朝ご飯を食べたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「釣りキチ○平」! 当時、中坊の自分も影響受けてルアー釣りにハマりましたねぇ。 でも、残念ながら福岡ではブラックバスがいるポイントが無くて代わりに福岡城跡のお堀に雷魚目当てに日曜日通ってま…
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