第4話〜ずっと一緒〜
「・・・あれ?お父さんは?」
「拓哉おっちゃん、いないよぉ?」
そんな事件の翌日・・・というか当日。何も知らない幼い2人は、目を覚ませた。
だが・・・辺りの大人は、美輝の母・・・麗沙だけ。
「お母さん、拓哉おっちゃんは?」
「た、拓哉おっちゃんは・・・」
麗沙は、目を泳がせている。
そんな麗沙の横から、翔一郎が姿を現せた。
「あ、お父さんだっ!いつ帰ってきたの??」
久しぶりに見る父親の姿に、美輝は目を輝かせて聞くが・・・
「昨日だ。大輝君・・・」
愛娘の問いかけさえ無視して、翔一郎は大輝の目線に合わせてしゃがみ、肩を掴んでその目をじっと見つめる。
「―――お父さんは、死んだんだよ。」
「・・・え?」
「それと、美輝。」
大輝から、今度は美輝へと視線を合わす。
「・・・これからは、小学校を卒業するまでベビーシッターを雇う。大輝君と暮らすんだ。ちゃんと言うこと聞けよ?」
「・・・え?ベビーシッター?」
美輝と大輝。両方が途方に暮れている目をしている・・・
そんな目を見て、麗沙はただただ・・・涙を流していた。
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「ヒロッ!学校行こ・・・」
「行かない!美輝ちゃん1人で行って!」
それから数週間後・・・大輝の両親の通夜が執り行われた数日後。
大輝は、部屋に閉じ篭った状態に陥った。
「大輝君・・・いい加減部屋から出てきなさい。」
「出たくないっ!向こういけよ!」
一流ベビーシッターの島崎妃鶴の声にさえ、大輝は反論し続けた。
妃鶴の言う通り、大輝はここ数日の間、部屋から出て来ない。食事もろくに喉を通らせていなかった。
・・・僅か7歳にして、襲来した・・・途轍もない不幸。
それは、ただ“不幸”という言葉では表せれないことだ。
一夜にして、大輝は・・・大切なものを、失った。
両親という、掛け替えのない存在を。
それがなくなった空白感は・・・日を重ねるにつれ、ただ広まるだけだった。
大輝の部屋は、鍵がかかっている。合鍵なんて、どこにもない。
流石の一流の妃鶴も、どうしようもない。
ベビーシッターからも、徐々に見放された大輝は・・・どんどん衰弱するばかりで。
・・・
それから、更に数日が経った夜・・・
大輝は、自分の部屋についている風呂で入浴を済ませ、ソファの影に蹲っていた。
・・・まるで、あの被害に遭った美輝の状態のように。
一方、美輝は・・・
「・・・怖いよぉ・・・」
すぐ下の階の、大輝の部屋を見下ろしていた。
そこは、湿気を取り除く為に窓が開いている。
進入方法は・・・その窓を通るしかない。
美輝は、意を決して・・・窓枠に手をかけ、己の体を外へぶら下げた。
そしてそのまま、注意しながら手を、窓枠からレンガ造りの壁の隙間に入れながら下降する。
・・・下手したら、そのレンガが取れる。
そして。無事、窓の前に到着した。
窓枠に手をかけようとした、その時・・・
パラッ・・・
レンガが、少し欠けた。
そしてそのまま、レンガごと崩れ落ちようとしている・・・
「・・・いやぁっ!」
美輝は、咄嗟に叫び・・・届くかどうか分からない足を、開いている窓の中に入れた。
そして、その足を揺らして助走をつけ、勇気を振り絞って・・・レンガから、手を離した。
幸い、浴室は大輝のことを考えてタイル式ではなく、発泡スチロール式。しかも滑って転んでも痛みを吸収してくれる造りになっているのだ。
そんな床に、美輝は足ごと入り・・・新体操で鍛えた着地法で、無事衝撃も少なく着地。
「・・・怖かった・・・」
恐怖心のあまり、少量滲み出した涙を拭って・・・浴室から、出た。
「ヒロッ!」
美輝は、部屋のドアを勢いよく開けて、その名を叫ぶ。
「・・・美輝ちゃん?」
大輝は、弱弱しい声で・・・美輝の名を呟いた。
そして上げたその目は・・・隈ができていて、涙で膨れていた。
その目を見た瞬間、全てを悟った美輝は大輝の傍に駆け寄って・・・
自分よりも、少し大きいぐらいの大輝の体を抱き締めた。
でもその体は・・・途轍もなく、細くて。
「大丈夫だよ・・・美輝がいる・・・」
大輝を抱き締めながら、美輝は一言一言一生懸命呟いた。
「拓哉おっちゃんや美咲おばちゃんは・・・大輝から離れただけだよ?美輝のお父さんやお母さんみたいに・・・絶対どこかで笑っているから・・・美輝・・・拓哉おっちゃんや美咲おばちゃんみたいに、ヒロから離れない・・・ずっと一緒だよ・・・」
その声を聞いた瞬間・・・大輝の中の空白感が、埋まり始める。
数日間、味った孤独感。不幸。それらも埋まり始め・・・
徐々に徐々に、それは心地よいものと変わっていった。
美輝の背中を・・・安堵の涙が濡らした。
『ずっと一緒』
その約束は・・・幾年も経った今でも、守り続けられている。
その言葉は・・・2人が描く比例のグラフの・・・“原点”となった。




