第14話〜イルミネーションの今宵〜
「Welcome aboard・・・」
「もういい。これは旅客機じゃない。」
一方、大輝は英語大好きなジェット運転手の言葉にうんざりとしている。
頬杖をついて、ジェットの窓から外を見ると・・・キラキラしたイルミネーション。美輝がいる県だ。
「・・・自由行動、一緒に回りたかったな・・・」
聞こえるか聞こえないかの独り言を発し、彼は小さく溜息を吐いた。
それもそのはず・・・美輝と大輝が一緒に住んでいるという、疑われしき事実は誰1人として知らない。知っているのは、恵夢ぐらいだ。
だから・・・自由行動で、一緒に回るなんて、いかにも疑われる。他人にどう思われているのかを重視する美輝にとっちゃあ、不安の長物。
美輝を、不安にだけはさせたくなかったのだ、彼は。
現に、散々美輝を不安がらせているけれど、そんなことまだ子供で知識が少ない大輝には察知することができなくて。
「ご到着いたしました、大輝様。」
「ああ。運転ご苦労。やっと普通の日本語喋ってくれたな・・・」
運転手の初めて発した日本語に感動する大輝。
着陸した場所は・・・
「じゃあ、お気をつけてホテルに行ってくださいませ。」
「ああ。運転ご苦労。」
大輝は、輝かしい気持ちでジェットを見送った。
「さて、ホテルに行こうか。」
そう言い、踵を返した彼の目に映ったのは・・・
「ここどこだよ!」
そう。着陸した場所は・・・イルミネーションがギラギラ照り輝いている街の情景とは裏腹の、無人の草原が茂っている丘だったのだ。
とりあえず、カッコ悪いが美輝を呼ぼう・・・としてケータイを取り出したが、見事に圏外。
「マズいな、こりゃ・・・」
いっそのこと、初の野宿でもするか・・・
そう思いながら、寝床を探していた時・・・
「・・・あれぇ?大輝ぃ?」
背後から、高い女らしき声がした。
大輝が、ゆっくり振り返ると・・・その目に映ったものに、大輝は大げさに顔を歪ませ・・・
「・・・ゲッ。美久。」
目の前にいる、憎たらしい女の名前を呟く。
「こんなとこで何してるのぉ〜?」
そう言いながら、じりじり近づいてくる美久。
条件反射的に、後退りをする大輝。
「まぁ、丁度いいか☆ここ、誰も来ないし・・・ね??」
そう言い・・・美久は、大輝に飛びかかった。
大輝は倒れ、美久はその上に覆いかぶさる。
「いや、待てちょっと・・・落ち着け?な?俺らまだ高校生・・・」
「もう高校生でしょ?セックスぐらい、普通だよ〜♪」
にんまりする美久の顔に・・・大輝の脊髄に、リアルに何かが走る。
―――ああ、悪寒の真意を知ったようだ・・・
こんな時にも関わらず、彼はそんなくだらないことを考えていた。
「だからぁ、今宵はじっくり楽しもぉ〜♪」
美久は、徐々に大輝に唇を近づける・・・
触れ合うまで、1センチとなったところで、どこからか奇妙な機械音が聞こえてきた。
「ハンケイ 10キロメートル イナイ デ カグラヒロキ ハッケン タダチニ キュウジョ キュウジョ。」
飛んできたのは・・・ダミーだった。
ダミーは、美久の頭に思い切り頭突きをする。
美久は奇声を上げて、その場に倒れた。
「ミク ノ セイメイ ケンザイ スナワチ ミャク アル。 ジブン ヒトゴロシ ニ ナッテ ナイ。」
―――充分人殺しだろっ!
大輝は心の中でツッコみをいれて、ダミーの太股にあるスイッチを切った。(なぜ太股?)
「あ、大輝!大丈夫!?」
「・・・美輝。」
息を切らせて走ってきたのは・・・美輝だ。
「なんかいきなりダミー騒ぎ出してさ!させるがままにしてたら、この明日壁ノ丘に・・・って、この人が大輝の彼女?」
美輝は美久を指差してそう問う。
大輝は軽く溜息を吐いて
「そうだよ。」
そう答えた。
美輝はしゃがんで、美久の顔をじっと見つめる。
見た瞬間・・・美輝の中で、何かが切れた。
「可愛い人だね!大輝とお似合いかも〜!」
思ってない言葉が、喉を通って・・・口から出る。
「それにすっごいスタイルいいし!めっちゃカワエエ!」
―――スタイル悪いし、めっちゃブサイク。
「もう大輝とヤッちゃってるんじゃないの?」
―――まだどうせ未遂でしょ。
「もしかして、野外でヤるって計画だった!?だったら邪魔してゴメンね!」
―――ヤンナイデ。
気持ちと、相違する言葉が・・・口を開けば開くほど、出てきてしまう。
―――本当に彼女なの?
―――だったら別れてよ。
そんなの・・・ただの嫉妬にしか、なっていない。
―――もっと私を、見てよ。
―――なんで私じゃないの?
八つ当たりにしか・・・なってない。
―――なんで、八つ当たりするんだろう。
それが・・・本意に対しての、唯一の疑問。
―――どうして、弟みたいに想ってきた大輝に対して・・・こんな感情を抱くの?
『嫉妬』『訳の分からない八つ当たり』
それらは、『弟みたいに想ってきた大輝』という経緯を辿って・・・その先は・・・
―――ハナレタクナイ・・・ソバニイテホシイ。
そんな、叶え難い『独占欲』
―――ああ、私は・・・
自分でも気づかないうちに・・・
大輝を、弟として見ていなかった。
代わりに・・・“男”という代名詞に当てはめていた。
当てはめていたはずの場所からは、遂に抜け出せれなくなっていた・・・
―――それくらい、私は・・・
彼は、カラオケでの事件で、唯一助けてくれた人。
彼は、あの雨の日に・・・あのことで、約束を思い出させてくれた人。
彼は、誰よりも長く一緒にいてくれた人。
『ずっと、一緒だよ。』
そんな約束を交わした相手。
ただの、子供染みた約束だった。
でも今は・・・想いの糸の先に繋げる、大事な、大事な約束。
無口だけど、たまに子供っぽい大輝。
家電音痴で、洗濯機ぶっ壊した大輝。
幼少時代、部屋に閉じ篭ったまま、ベビーシッターにも手を焼かせてた大輝。
―――そんな・・・どんな大輝も・・・
愛しい。
気づかないうちに、変化してた。
『弟』みたいな『二従兄妹』から・・・『男』として『愛しい』存在になっていること。
気づかないうちに、変化してた。
年齢を重ねるごとに、線を延ばしていた比例のグラフ。
気づかないうちに、変化してた。
気持ちとは反比例して、どんどん想いが膨張していったこと。
それらに気づくと・・・込み上げてくるのは・・・
『嫉妬』『羞恥心』
その2つを隠すため・・・美輝は今も、壊れたように2人のことを喋る。息が続く限り。
「本当、あのまま2人ほっとけばよかっ―――・・・」
涙が、目から零れ落ちる瞬間・・・大輝は、美輝の手首が圧し折れるかと思うほど強く掴んで、
「―――ふざけんな、テメェ。」
低く、黒い渦を巻いたような声を出した。
と同時に、美輝の顎を指で上げて・・・
声を遮断させるかのように、そっと・・・でも強く、自分の唇と、美輝の唇を・・・重ねた。
丘のすぐ下では・・・色とりどりのイルミネーションが、電灯が途絶えるまで自分の存在をありったけに示している。
『比例×反比例』裏コント〜明日壁ノ丘〜
作者「・・・ちょっとKYな裏コント、今日もOPEN!」
拓海「で、この話に直接関係ない俺を起用したわけだ・・・」
作者「だって美輝、あんたのことひとかけらも思い出してないじゃん。」
拓海「・・・(無念)」
作者「まぁまぁ。これも現実っていうことで。さて、明日壁ノ丘って、どういう丘でしょうか?答えてください拓海君。」
拓海「・・・知らねーし、んなもん。」
作者「それじゃダーメ!テキトーでいいからひとつぐらい答えろ。」
拓海「・・・明日の壁?の丘?」
作者「・・・ヤベェ大正解・・・」
ついでに、明日壁ノ丘のジンクス・・・この丘に登ると、明日に壁ができる・・・ということ。
まぁ、所詮ジンクスはジンクスだし・・・問題ナッシング?(笑)




