↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/50

第50話 新しい場所

夜。王都郊外。


クロウの鷹の目が、火薬を積んだ三台の荷車を捉えていた。


黒い翼は南側の排水路へ。


ダミアン、リーシャ、レイは市場へ。


ゲンジは、戦闘を住宅地へ通さないため西側へ向かった。


王国軍施設への襲撃が始まり、王都の警備が分散する。


市場裏では、荷車から伸びた導火線に火が走った。


レイが踏みつけるが、油を染み込ませた火は消えない。


「止めて!」


リーシャの蔓が石畳の隙間を走り、燃える導火線を引き千切る。


「最初から切ればよかっただろ」


「あなたが踏んだから近づけなかったのよ」


荷台には火薬が積まれていた。


「こんなもん、町の外に出せばいいんだろ!」


レイが肩を入れ、荷車を城門へ押し始める。


西側では、ゲンジが革命軍の剣を折り、王国兵の槍先だけを斬り落とした。


「町で戦うな」


「貴様、どちらの味方だ!」


「邪魔をする者は、どちらも斬る」


住宅地へ戦いを入れず、街道の中央に立ち続ける。


排水路では、黒い翼が三本の導火線へ分かれた。


クロウは中央の線を追い、古い地下貯蔵庫で元革命軍兵と対峙する。


男の手には松明があった。


「必要な犠牲だ」


「革命軍は、そのような組織ではありませんでした」


松明が投げられる。


クロウは外套で受け止め、床へ叩きつけた。


元革命軍兵の剣が腕を掠める。


「王国は変わらない!」


「だからといって、我々まで変わってよい理由にはなりません!」


床から伸びた蔓が男を拘束した。


リーシャとダミアンが追いついたのだ。


クロウは鷹の目を発動する。


市場裏の火薬はレイが運び、


東の導火線は黒い翼が止め、


西の戦闘はゲンジが抑えている。


そして。


南西の街道に赤い炎を見つけた。


その炎を見た瞬間、クロウの胸に複雑な感情が走る。


憎しみではない。


恐れでもない。


かつて憧れた英雄への敬意だった。


「アッシュです」


◇ ◇ ◇


アッシュは最後の火薬を積んだ荷車の前に立っていた。


「退け、ダミアン」


「断る」


「王国を守るのか」


「暮らしてる奴を守る」


アッシュが踏み込む。


炎を纏った拳の連撃を、ダミアンは風で受け流す。


完全には殺し切れず、腕に痺れが残る。


ダミアンが圧縮した風を放つ。


アッシュは正面から炎の拳を振り抜いた。


炎と風が激突する。


轟音。


石畳がめくれ、火の粉と砂埃が渦を巻く。


遅れて到着したレイが顔を庇う。


「どっちが押してるんだ」


クロウは戦況を見つめた。


「互角です」


砂塵が晴れる。


二人とも退いていない。


「何で邪魔をする! 王国は何もしてくれなかった!」


「王国を救ってるんじゃない!」


「なら何を守ってる!」


「そこで生きてる奴だ!」


炎と風が再び弾ける。


「王国が嫌いでも、王都で暮らしてる奴まで嫌う理由にはならない!」


ダミアンの叫びが夜空へ響いた。


クロウはその言葉を聞きながら思う。


もし昔のアッシュなら。


きっと同じことを言っただろう。


だからこそ、ここまで来てしまった現実が悲しかった。


遠くで角笛が鳴った。


黒い翼の一人が駆け込む。


「王国軍の騎馬隊が接近しています!」


襲撃は失敗した。


アッシュは炎を消し、撤収を命じる。


「次は邪魔するな」


「保証はしない」


背を向けたアッシュを、クロウが呼び止めた。


「私は今でもあなたを尊敬しています」


その場にいた者たちが息を呑む。


アッシュがゆっくり振り返った。


「だからこそ」


クロウは続ける。


「だからこそ今のやり方を認められません」


静かな声だった。


だが揺るがなかった。


「戻る気はないんだな」


「ございません」


長い沈黙。


やがてアッシュは目を伏せた。


「失ったものが多すぎる」


かすかに笑う。


その笑みは疲れていた。


「お前は正しかったのかもしれない」


クロウの瞳が揺れる。


「だが、俺は戻れない」


そして小さく呟く。


「いつからだろうな」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


「救うことより、壊すことを考えるようになったのは」


風が吹く。


誰も答えない。


アッシュ自身も答えを求めてはいなかった。


残った兵士が尋ねる。


「これからどうします」


アッシュは空を見上げた。


「ああ」


そして静かに答える。


「助けを求める声がある場所へ行く」


クロウが目を見開く。


「俺たちは、俺たちのやり方でやる」


革命軍は黒い旗とともに森へ消えた。


クロウは去っていく背中を見送った。


最後まで。


尊敬だけは消えなかった。


王都で爆発は起きなかった。


◇ ◇ ◇


数日後。


セドリック、娘として紹介されているエレノア、護衛のエルザがホワイトファルコンを訪れた。


畑で肩を並べる者たち。


診療所に並ぶ人々。


子供から荷物を受け取る黒い翼。


遠い山を飛ぶ白竜親子。


エレノアはその光景を見渡した。


「あなたたちは、受け入れる相手を選ばないのね」


「困ってるなら同じだろ」


ダミアンは首を傾げた。


「革命軍は、敵を減らそうとしているのかもしれません」


エレノアは風に揺れる白い隼の旗を見る。


「でも、あなたたちは違う」


黒い翼へ視線を向ける。


「共に生きる人を増やしている」


クロウはその言葉を静かに聞いていた。


革命軍が届かなかった場所へ。


今、自分たちは向かっているのかもしれない。


「俺たちは俺たちだ。それ以外の何でもねえ」


エレノアは小さく笑った。


壊すことで変えようとする者。


居場所を増やすことで変えようとする者。


始まりの願いは同じだった。


追われる者の居場所を作りたい。


それぞれの道は分かれた。


それでも。


どの道もまだ終わってはいなかった。


クロウは白い隼の旗を見上げた。


革命軍は終わった。


だが理想は終わらない。


自分が受け継ぐ。


黒い翼が受け継ぐ。


ホワイトファルコンが受け継ぐ。


そう静かに誓いながら。


革命軍と袂を分かった者たちは、新たな居場所で歩み始めた。


クロウと黒い翼は人々を救うために目を使い続ける。


失われた理想は終わらない。形を変え、受け継がれていく。


白い隼の旗は、今日も風の中でたなびいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。