第22話
鶏肉と茸の煮込みから、湯気がゆっくり立ちのぼっていた。
オーヴェンの工房の奥には、小さな食卓があった。三人で囲むには狭く、二人と一匹で囲むと、なぜかちょうどよかった。ルルは椅子に座れないので、エルシアの隣に置かれた平たい木箱の上にいる。
オーヴェンが木の器に煮込みをよそった。鶏肉と茸のほかに、ニンジンとカブが入っている。暖炉の火にかけて長く煮込んだらしく、木のさじを入れただけで肉がほぐれた。
「食え。山で腹を空かせたまま寝ると、朝まで寒い」
「いただきます」
エルシアが答える横で、ルルは器の縁まで体を伸ばした。
「ルル、空じゃない。少し入ってる」
「さっきの木の実?」
「うん。リスが落とした」
山から戻る途中、割れた殻のそばにヘーゼルナッツが二つだけ残っていた。傷んでいないことを確かめ、エルシアとルルで一つずつ食べたのだ。
オーヴェンが眉を上げた。
「リスの食べ残しを拾ったのか」
「落とし物です」
「持ち主は探したのか」
ルルは少し考え、丸い体を横に振った。
「リス、もういなかった。明日、茸を返す?」
「やめとけ。あいつらは貸し借りとなると細かい」
「オーヴェン、リスに借りがある?」
「わしの屋根裏の話はするな」
エルシアは笑いをこらえながら、煮込みを口に運んだ。塩は控えめで、茸の香りが濃い。冷えた指先が、器の熱でようやくほどけていく。
ルルにも熱すぎない分を小皿に取り分けると、半透明の体がゆっくり覆いかぶさった。鶏肉が一切れずつ小さくなっていく。
「これは、リスに返さない」
「気に入ったなら食え」
「オーヴェン、いい人」
「判断が早すぎる」
そう言いながら、老人はルルの皿に茸を一つ足した。
食事が半ばまで進んだところで、エルシアは壁際の像を見た。鳥、狐、ウサギ、眠る子ども。火の明かりが揺れるたび、どれも今にも身じろぎしそうに見える。それでも、顔には目だけがない。
「あなたの作った像が、夜中に歩いたという噂を聞きました」
オーヴェンは煮込みをすくう手を止めなかった。
「棚から落ちただけだ」
「風で?」
「窓を閉め忘れた。夜中に音がして、朝には狐が床にいた。それだけだ」
ルルが壁の狐に体を向けた。
「狐、歩いてない?」
「歩いとらん」
「風が歩かせた?」
「落とした」
「風、乱暴」
「戸締まりを忘れたわしも悪い」
噂よりずっと簡単な答えだった。けれど、エルシアが像の顔に視線を戻すと、オーヴェンのさじが器の縁で止まった。
「どうして、どの像にも目がないんですか」
暖炉で薪が崩れた。乾いた音のあと、赤い火の粉が一つだけ上がる。
オーヴェンは答えず、食卓に落ちていた小さなパンくずを指で集めた。働き続けた手は厚く、指の節に古い傷がいくつもある。
「目を彫るのが苦手なわけではなさそうですね」
「苦手なら、もっと気楽だった」
老人は壁の像を見なかった。
「作り物が本物に近づきすぎると、怖くなる。だから、最後のところで止める」
「本物に、ですか」
返事はなかった。オーヴェンは器を持ち上げ、冷めかけた煮込みを一口食べた。隠したいことに触れた時、この人は手を止め、必要な分しか話さないらしい。
エルシアも、それ以上は聞かなかった。
食後、オーヴェンは工房の上にある小部屋へ案内した。低い天井の下に簡素な寝台が一つあり、その隣には毛布を重ねた籠が置かれていた。
「籠はルル用だ。嫌なら好きなところで寝ろ」
ルルは籠に入り、一度沈み、すぐに出てきた。
「柔らかい。でも、深い」
「落ちても床まで行かん」
「ルル、落ちない」
「昼に板から落ちかけてたぞ」
「あれは、板が逃げた」
オーヴェンは何も言わず、扉を閉めた。階段を下りる足音が遠ざかってから、エルシアはマントを外し、革の鞄と一緒に寝台のそばに置いた。
窓の外は暗い。風が屋根をなでるたび、工房のどこかで木が小さく鳴った。
ルルが籠から顔のない丸い体をのぞかせた。
「オーヴェン、どうしてルルを見てたの?」
「明日、形を彫りたいからじゃないかな」
「丸は、むずかしい?」
「きれいな丸なら難しいね。でも、ルルはじっとしていても揺れるから、もっと難しそう」
ルルの表面が、試すようにぷるぷると震えた。
「これも彫る?」
「たぶん」
「木、たいへん」
ルルは納得したように籠の底に沈んだ。少しして、柔らかな寝息の代わりに、毛布がかすかにこすれる音が聞こえ始めた。
翌朝、階下から規則正しい音が響いた。
ごつ、ごつ。少し間を置いて、しゃっ、しゃっ。
エルシアとルルが工房へ下りると、オーヴェンはもう作業台の前に立っていた。昨夜、明かりの下に置いた淡い色のブナ材は、両端がのこぎりで切りそろえられていた。曲がりの少ない部分だけが残り、まだ大きな木の塊にしか見えなかった。
「そこにいろ。動くなとは言わん。いつもどおりにしろ」
ルルは昨日の平たい板に乗った。
「いつもどおり、動く」
「だから難しいんだ」
オーヴェンは木槌でのみを打ち、角を落としていった。大きな木片が作業台の上に転がり、床に削り屑が積もっていく。輪郭が丸くなるにつれて、老人は打つ力を弱めた。今度は小刀を使い、表面を薄く削る。
ルルは最初こそ身を固くしていたが、じっとしていることに飽きたらしい。右へ傾き、戻り、今度は左へ傾いた。オーヴェンは止めなかった。むしろ、そのたびに刃を入れる場所を変えた。
「丸くない」
ルルが木の塊を見て言った。
「まだ途中だ」
「ルルは、もっと丸い」
「知ってる」
「下、少し平たい」
「それも知ってる」
「オーヴェン、ルルをよく見てる」
「見ないで彫れるか」
朝の光が窓から差し込む頃、木の塊は抱えられるほどの丸い姿になっていた。ただ丸いだけではない。片側には、わずかに遅れてついてくるような曲面が削り出され、木なのに、体をぷるぷる揺らした直後のように見える。
けれど、オーヴェンはそこで終わらなかった。
細いのみに持ち替え、正面になる側の下部を浅く削る。人の顔でも、獣の口元でもない。形になろうとして、まだ一つの形に定まりきっていない柔らかなふくらみだった。右と左で輪郭が少し違い、見る角度によって、何かを尋ねようとしているようにも、今にも弾もうとしているようにも見える。
エルシアは、昨日オーヴェンが口にした「中で探している形」の意味を、ようやく少しだけ理解した。
それは未来の姿を決めることではない。
ルルが見て、触れて、分からないものに近づこうとする、その動きそのものを木に残すことだった。
オーヴェンは最後に、目にあたる場所に細いのみを二度当てた。浅い窪みが二つできる。だが、そこから先へは刃を進めなかった。
「終わり?」
「今日はな」
ルルは板から下り、作業台の脚を伝って天板まで伸びた。木像の隣に並ぶと、どちらも丸い。それでも、ただ似ているだけではなかった。
ルルは右へ揺れた。木像も、次に右へ揺れそうな形をしている。ルルは正面へ戻り、二つの未完成な窪みを長く見つめた。
「ルルより、少し上手」
「何がだ」
「止まってるのに、動いてる」
オーヴェンの厚い指が、小刀の柄から離れた。
ルルは木像に、そっと体を寄せた。木の内側の振動を確かめるように、半透明の表面がかすかに揺れる。
「どうして、ここにルルがいるって分かったの?」
老人は答えなかった。
けれど今度の沈黙は、何かを隠すためだけのものではなかった。作業台の上で、二つの窪みを残した木像が、朝の光を受けている。
あの二つの窪みに目を刻めば、木の中のルルは何を見るのだろう。




