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思っていた以上の醜態を犯していた事を知った私は、風を切りながら王宮の中を駆けていた。
お姉様の話では、会場は阿鼻叫喚。それを鎮めたのもアイヴァン様だったと……
そのアイヴァン様だが、吐瀉物まみれになっても別に慌てる様子もなく、私を気遣い声をかけながら会場を後にしてくれたらしい。
どこまでも紳士で優しい方……
──と、まあそんな訳で、今の現状を纏めると、社会的にもメンタル的にも終わってる。
不貞を働き、その上とんでもない大失態。婚約継続はもはや薄い。が、居てもたってもいられず部屋を飛び出し、目指すはアイヴァン様の執務室。
今更謝罪なんて無意味なのかもしれない。もしかしたら、私の顔を見るのさえ拒絶されるかもしれない。
(それでも…!)
コンコン!──バンッ!
「アイヴァン様!」
慌ただしく執務質のドアをノックし、返事が返ってくるのを待てずに打ち開いた。
「ミーリアム?」
中にはアイヴァン様とルディガーの姿があり、驚いたアイヴァン様の姿が目に飛び込んできた。気を抜いたら縋ってしまいそうになるのをグッと堪え、素早く床に頭を擦り付けた。
「大っっっっ変申し訳ありませんでした!!!!」
後にも先にもこんなに綺麗な土下座はないんじゃないかと思えるほどの土下座を披露した。
「お、おい…」
「待って待って。面白いからちょっと見てよう」
止めようとするアイヴァン様を止めるルディガー。
「貴方を不快にさせたばかりか、あまつさえヤケ酒を呷った私のゲ〇まで浴びせてしまうなんて……!」
床に穴が開きそうなほど額を押し付けて謝罪する。アイヴァン様がどんな顔をしているのか知りたいが、怖くて顔があげれない。
耳に聞こえるのは「ウケる」と嘲笑うルディガーの声だけ。
「ほらほら、一旦顔上げな」
ルディガーに腕を取られ、床から無理矢理に引き剥がされた。
「あ~…と……」
アイヴァン様の困惑する声が聴こえる。言葉に詰まり、苦い笑みを浮かべている。
憐れに思われてる?それとも、言葉を探ってる?……多分どちらも正解。
(最後の最後まで迷惑をかけて…本当、情けない)
せめて、自分のケツは自分で拭かせていただきます。
「アイヴァン様に対する多大なる迷惑行為。容易に許せるものではありません」
これは自分自身を戒める為の言葉。
優しいアイヴァン様は簡単に謝罪を受け入れてくれるだろうが、それでは私の気が済まない。
「──…つきましては、この身をもって罪を償わせていただきます!」
すぐ横にいたルディガーの腰から素早く剣を抜き、首元に剣先を突き立てた。
「あら」
「ミーリアム!」
剣を奪われたルディガーからは頓狂な声が聞こえ、アイヴァン様からは驚きと焦りの声が聞こえた。
未練が無いなんて言わない。むしろ未練だらけ。しかし、アイヴァン様との婚約が白紙に戻る今、生きている意味が無い。
(あぁ…来世では必ずや一緒の墓に……)
アイヴァン様を横目にしながら来世に向けてのプロポーズ。
自分なりに格好良く決まった!と思ったところで、覚悟を決めて剣を勢いよく振り下ろした。
──が
「はい。自害ごっこはそこまでね」
寸前のところで、またもやルディガーが邪魔してきた。普通に止めるならまだしも、羽交い締めにして動きを制してくる。
「ちょっと!いつもいつも邪魔して!今いい感じだったの分からない!?」
「ん~ちょっと分からない。そんな事より、俺の剣汚さないでくれる?殺るなら他の剣にして」
暴れる私から手際よく剣を奪うと、腰に付けた鞘に素早く納めていた。流石は騎士、剣の扱いにはよく慣れている。
「はぁぁ!?私の血が汚いっていうの!?」
「そんな事言ってないじゃない。知ってる?剣の手入れもラクじゃないんだよ。血なんて付着したら更に面倒なんだよ」
剣士に有るまじき発言に絶句。
「貴方の剣は何の為にあるの?」
「そりゃ、格好よく見せる為でしょ」
「……」
不純すぎる動機。
(こんなのが副団長だもんなぁ)
何が腹立つって、アイヴァン様に次ぐ剣の腕前ってこと。じゃなきゃ、こんな奴が副団長なんて国民が許しても私は許さない。
「二人共いい加減にしなさい。……それとルディガー、彼女から手を離せ」
制止するアイヴァン様に睨まれたルディガーは「はいはい」と軽い返事をしながら拘束していた手を離した。
「さて、ミーリアム」
低い声に体が硬直する。
「理由はどうあれ、自分の命を簡単に捨てようとする行為は赦せない」
「……はい……すみません……」
凍てつくほど鋭く険しい顔つきで言われた。怒鳴りつけることはしないが、空気に漂う威圧感……本気で怒っていることは肌を感じて実感する。
「まあ、剣を抜かせたルディガーにも非はある」
「え!俺!?」
「お前、わざと抜かせただろ」
「えぇ~?」
否定するでもなくヘラつく様子に「コイツ……」と殺意が湧く。
……ま、そりゃそうか。素人が簡単に騎士の剣なんて抜けるものじゃない。それが、副団長ともなれば尚更だ。
「なんかオレ邪魔みたいだから出てくね。あ、人払いはしとく?」
ニヤつきながら訊ねてくる。
「余計なお世話はいらんから、さっさと行け」
「はいはい。じゃあ、お嬢さんまたね」
軽口を吐きながら、部屋を出るルディガーの後ろ姿を見送り、そして──……




