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【第2章まもなく完結!】2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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天使のような欺瞞者




「――残るはあなた一人ですぞ」




 ダステンは息を吐き、最後の一人へ向き直る。


 ノワーレは、重さに縛られ、泥沼にはまったように地面へ沈みかけていた。



「小生も、そろそろ命力が尽きそうです。

 ですので、あまり長引かせず、ここらで終わらせていただきますぞ」



 ダステンはノワーレから一度視線を外し、空を見上げた。


 そして、自分自身の身体を浮かせる。

 自らにかかる重力を操り、空へ上がっていく。


 一定の高さまで来ると、姿勢を変えた。



 頭部を下へ。

 身体を斜めに。


 まるで、空から突き落とされる槍のように。



 そして、




「激・墜天撃――――!」




 ダステンが満を持したように叫んだ。


 重力に引かれた身体が、一直線に落下を始める。



 ノワーレは動けない。

 重さに縛りつけられ、避けることができない。


 それでも、顔を上げた。




「申し訳ございません、ダステン様……」




 その声は、届かない。




「自分たちでは、力不足でした」


「――ゼグラヴィトン、フォーース!!!」




 ダステンが標的めがけて、猛烈な勢いで突っ込んでいく。



 着弾。


 地面が爆ぜた。



 石路は深く抉れ、衝撃が周囲へ広がる。



 決定的な一撃だった。



 ダステンは抉れた地面から飛び出し、少し離れた場所へ着地する。


 そしてようやく、戦いの後の静けさが訪れた。



 背を向けたまま、息を整える。




 ――勝った。




 そう思った。

 確かな満足感を覚えてしまっていた。


 ダステンは、戦場を振り返る。

 その瞬間。


 世界が、薄皮を剥がすように変わった。


 敵の姿は、ダステンの視界から消えていた。

 代わりに、そこにあったのは――。




「――は」




 クラフトだった。

 高所から叩き落とされ、砕けた石路の中に沈んでいる大きな身体。


 メリッサだった。

 自らの大盾の下で、守る者としての形を奪われた女。


 ノワーレだった。

 ダステン自身の突撃が抉った地面の底で、最後まで主へ手を伸ばすように倒れている忠実な臣下。




「……なっ…ぁ」




 声にならない息が漏れた。



 ダステンの視界が揺れる。


 今、自分が見ているものと。

 直前まで自分が見ていたものが。


 嫌でも、繋がっていく。


 空へ持ち上げ、落とした相手は。

 盾で押し潰した相手は。

 最後に、自ら突撃した相手は。



 全部。


 全部。




「小生、が……?」




 そこでとうとう、ダステンの膝も折れた。

 抉れた石路に手をつく。


 その大半を抉ったのが、自分自身であることに気づいてしまう。




「小生が……やったの、ですか?」




 問いかけても、誰も答えない。


 答えなど、必要なかった。




「ノワーレ氏……メリッサ氏……クラフト氏……」




 返事はない。

 他でもない、自分自身が、その返事を奪ったのだから。


 あるいは、そもそも返事を求めていたわけでもなかったのかもしれないが。




「違う。違いますぞ。小生は、あなた方を……小生は、っ」




 言葉が崩れていく。




「まもっ……。小生は。小生は……」




 髪を整えることも忘れていた。

 あれほど大切にしていた髪が乱れていることにも、気づかない。


 マントは泥と土と血で汚れていた。

 背を飾っていた青、赤、黄の線も、もはや本来の色は埋もれている。


 いつも大仰に振る舞う男が、今はただ、壊れていた。




 こつ。



 こつ。




 杖を突く音が、足音に混じって近づいてくる。



 壊れた男の前へ、天上の者を思わせる少女は、歩いてきた。




「――ここまでの始終、堪能させていただきました」




 少女はやはり、ほんの少し微笑んでいた。


 怒らない。

 興奮しない。

 声を荒げない。


 ただ、上品に。


 今まさに絶望の底へ落ちている男へ、祈りの絵から抜け出したような微笑みを向ける。




「あなたのお仲間はもうご逝去されてしまいましたでしょうか」


「ぁ……」




 それは反応と呼べるものではなかった。

 意気が漏れた時に、たまたま音も漏れただけ。


 少女は首を傾げる。



「あー。そういえば。あなたは私たちの正体を知りたくて追ってこられたのでしたね」



 彼女はダステンの反応など気にしていない。


 一切ない服の皺を払うような仕草をひとつして、非の打ちどころのない所作で一礼した。



「これは失礼いたしました。名乗りが遅れてしまいましたね」



 その綺麗な一礼に合わせ、夜風が静かに流れた。

 髪が揺れ、白い衣の裾がふわりと持ち上がる。


 まるで、この夜そのものが、彼女を美しく見せるために動いたかのようだった。



 遠く、都市の水路が小さく鳴っている。



 少女は、可憐な声で告げた。




「私は白翼会、咎人筆頭位。

 『詐欺』使い――ノクタ・スフィラと申します」




 返事は、やはりなかった。


 ダステンの瞳に、もう少女はまともに映っていない。

 彼は崩れた三つの影を見つめたまま、何かを小さく呟き続けている。




「あら」




 少女はそこで初めて、少しだけ残念そうに瞬きをした。




「もう、聞いていただける方はいらっしゃらないようですね」




 杖の先で、地面を軽く叩く。




「これは失礼いたしました。挑発行為とも受け取られかねない、無粋な名乗りでしたね」




 道の向こう。

 さらに水路の向こうで、中心都の明かりが揺れている。


 その光は遠い。


 ここで何が起きたのか。


 誰も知らない。

 誰も見ていない。



 ただ、白い少女だけが、壊れた人動車と、倒れた者たちと、人として壊れてしまった男を見下ろしていた。



 そして最後に、もう一度だけ微笑んだ――。






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