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第79話 結界②



『もとより命なんて、とうの昔に捨てたものなの!』

『その通りじゃ!』



 クウは自分と同じく力強く発光し、自らの魂までも燃やす勢いのロスを横目で見ると苦笑いをした。


『だから脳筋って言ってるの。さっき言ったばかりなのに……まったく』まぁ、嫌いじゃないけどねと、呟くと、クウは一瞬サンボウの肩から手を放し、真横のロス目掛けて妖力をぶつけた。


『何をするのじゃ!』

 ロスも吹き飛ばされながらも文句を言う。

 

『ロスは自分の仕事をまっとうするの。サンボウのサポートはクウの役目なの!』


 ロスからサンボウへの妖力の供給が強制的に断たれたが、すかさずクウは再びサンボウの肩に手を置き、呪文を唱える。その術の内容に気づいたサンボウが結界を攻撃しながらもクウを制止する。


『何をする気じゃ! 詠唱をやめろ!』

『うるさい! サンボウは自分の仕事に集中するの!

 今、お前がやるべきことはなに!? 

 誰の犠牲もなく結界の突破ができるなんて思ってなかったはず!』


『しかし……!』


 詠唱が終ると、サンボウの肩から凄い勢いで妖力が流れ込んできた。


『ぅ゙わーー!』




「なにが起こってるの……?」

 離れた水牢の中からだと状況がわからない。


『……あれは自らの魂を妖力に変換する呪文。

 あの妖精はあと数分で消えるだろう』

「そんな!?」


 シロの思念を受けてミレイは食い入るようにクウを見つめた。


「クウーー!! いやーー!」


 ミレイは無駄だと思っても水牢をガンガン叩いた。


「ウンディーネ何とかならないの!?」

『……私には……』


 ウンディーネの顔が歪む


 クウが死んじゃうなんてイヤ!!

 みんなで一緒に行くっていったのに!



「やだ! やだよ。クウーー!!」

 泣き叫ぶミレイに気づいたクウは、横目でその様子を見ていた。


 姫は変わらず優しいの……

 姫に会えて本当に良かった

 この姿もあと少し……。



『サンボウ、ロス。今までありがとう。

 お前達と一緒に居られて良かったの。……姫を頼む! ──あと水龍さまもな……。どうかあの方に寄り添ってくれ』


『バカヤローー! 諦めるな!』

『クウーー!』


 クウの体の光が少しずつ弱くなり

 今にも消えてしまう………


 ──と、思った瞬間、サンボウの背後に白い獣の姿が見えた。



『……なんじゃ?』

「…………えっ? あれは……シロ?」


 ロスとミレイの言葉が重なる。

 


『その妖精の言うとおりだ。ダレしもやらねばならない時がある。

 ──あの時、ワタクシは何もやらなかった……できなかった。今こそ……!』


『…………な……にを』


『お前のような心意気の者があの子に……王に付き従っていることを嬉しく思います』


 シロは笑みを浮かべ、虫の息のクウの手を掴むと自らの力を注ぎ込む。

 クウは理由の分からないまま、問いただすこともできず意識を手放した。ロスは慌ててクウを抱きとめるとその鼓動を確認した。


『……いきてる、生きてる』



『──宰相の息子よ……集中しなさい。

 王の結界は王の国を想う気持ちそのもの。今のお前では破れない』


『……あなたは……』


 サンボウも何かを感じとったのか、背後の気配に背中を預けた。


『集中だ。結界の奥の龍王国に意識を向けよ。なにもかんがえるな……』



 シロは天を仰ぎみると心の底から叫んだ。


『──創造神さま! ……悔い改めるワタクシに最後の慈悲を頂けないでしょうか! 愚かなワタクシに今だけ、今だけ力を赦しを……!!』


 すると空から神々しいまでの淡い光がそっと差し込んできた。


 キラキラ……キラキラ


 その光がシロの体を包みこむと、シロの体が徐々に獣から人型に変化した。



「シ……ロ?」

『ミレイ一旦離れるわ! エネルギー量が違う!』


 ウンディーネはそれだけ言うと、慌ててサンボウ達から離れ、水牢に威力を籠めた。



 ──女性の姿だった。

 離れていくなかで見たのは、腰の下までストレートな髪をなびかせている女性がサンボウの背後に立ち、蒼白い光を纏っていた。



「サンボウ、クウ、ロス……シローー!」




 ──その後、蒼い光が辺り一帯を飲み込んだ……



 


  ◇  ◇  ◇





 ピチャン……。



『姫、ひめ……だいじょうぶ……か?』


 目を開けるとロスが気遣わしげに顔を除き混んでいた。


「ここは……?」

『ここは……龍王国じゃ』


「じゃぁ!?」


 がばり、と起き上がる。


『あぁ……結界を突破した』

「……よかった……」


 もうダメかと思った。


「サンボウとクウは?」

『……ここにいるが……』


 ロスの後ろに二人の妖精が横たわっていた。

『とりあえず息は……ある』


 二人は真っ青な顔で辛うじて息を繋いでいる状態だった。


『姫、涙をくれ』


 言われずとも、すぐに涙は出てきた。

 二人に無理やり飲ませても目が開くことも、指一つ動くことも無かった。


『息があるだけマシじゃ』


 そういって自嘲気味に笑うロス自身も満身創痍の状態だった。あれからクウとサンボウを助け、衝撃波で意識を失ったミレイをウンディーネの協力の下、龍王国に引っ張り込んだのだ。



「…………シロは?」


 ゆっくりロスが首を振る。


 なんとなくそんな気はしていた。


 蒼白い光に包まれているなかでシロの思念が伝わってきた。


『……水ひめ……あの子を……水龍を、龍王国を……よろしくお願いします』



 水龍さまを『あの子』と言っていたあの人は……おそらく……。



『姫、先に進もう』


 ミレイはコクリと頷くと、涙を拭い、重たいウエットスーツを脱ぎ捨てた。そっとサンボウとクウをすくい上げるとロスの先導のもと、走りだした。



 早く、早く水龍さまのところに……。





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