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カードチェス  作者: 破天ハント
第二部第一章 外町編
55/73

第九話〖決闘(前編)〗

決闘と書いてデュエルと読む!

【一】


「お願い? 断るぜ、遮断能力発動!」

 タクミはギンガの眼前で両手をクロスさせた。オレンジの爪が弧を描き、バツ印が完成する。


「まあまあ、そう頭ごなしに拒否せんでもええやんけ。話くらいは聞かんかいや。あんたにとっても損はないと思うでぇ」

 ギンガは両手をクロスした状態でタクミの腕を掴み、バツ印を強引にこじ開けた。


「オマエのお願いは、たいてい厄介事なんだよ」

「厄介事といえばそのとおりやけど⋯⋯。実は、カイザに遮断能力を教えて欲しいんや」

「おいおい、大会の本戦二週間前だぜ? オレだって対局の練習で忙しいんだよ。今、必要なのかよ?」

 タクミはオレンジの瞳をカイザに向ける。


「じゃあ、僕が対局の練習に付き合うよ。カードチェスの実力は、たぶん君より僕のほうが上だからね」

 カイザは不敵な笑みを浮かべた。


「おいおい、オレより実力が上だって? オマエが★×3(ミドル)ランクに昇格したのは、つい一週間前らしいじゃねえか。オレは何年も前から★×3(ミドル)ランクだったんだぜ。オマエみたいな『初心者』に負けるかよ」

「ということは、何年も前からずっと、★×4(エキスパート)ランクに昇格できずにいるってことだよね」

「イヤミな言い方しやがるぜ。ランクアップってのはそう簡単にはできねえんだよ。そんなことも知らねえのかよ!」

「え、そうなの?」

 カイザは嫌味なく無邪気に首をかしげた。

 それが余計にタクミのかんに障った。


「タクミが言うとるんはホンマのことやでぇ。ある程度まで実力をつけたら、成長率が落ち着くんが普通なんや。レベルアップは年に一回か二回あればええほう。ランクアップは最短五年、平均十年ってところやな。カイザァ、あんたの成長率が異常なだけや」

 ギンガはカイザとタクミの間に入り、冷静に解説した。

 カイザはいきなり一段飛ばしで★×2(ノービス)ランクに覚醒した。それからデッキを組み直したのち、所員になってからは、たったの一週間で★×3(ミドル)ランクに到達してしまった。

 史上最短記録だということはカイザも知っていたが、そこまで異常だとは思っていなかった。


「そうだったのか。タクミ、ごめんね。だけど、どっちにしても一緒だよ。君は兵頭対局所本店で予選を通過する見込みがないから、秋山対局所に登録替えしたんでしょ? 自分の実力がないって認めているようなものじゃないか」

「チッ、生意気なガキだぜ。お仕置してやらねえとな」

 闘争本能をかき立てられるタクミ。オレンジの髪と安全ピン型のピアスが大きく揺れる。


 見たところ、タクミはカイザたちより少し年上のようだ。

 カイザは年下には優しいが、年上には食ってかかるところがあった。カードハンター時代からの性格だ。

 カイザは人の顔色を伺い、空気を読んで誰とでも仲良くなれるタイプだ。だが、自らの力を過信する者や権力や立場を笠に着る者、頼んでもないのに憐れみを向けてくる者などには、つい反抗する癖があった。

 ただし、本当に危険な場合の引き際は心得ている。天性の直感が働くのだ。

 先日のケイマとのクリエイトバトルでもそうだった。本来ならばクリエイトバトルは危険だが、大丈夫だと判断した。

 進むべきか退くべきか。今回も、カイザの直感は進むべきだと言っている。


 一方、クリエイトバトルを挑んだ側のケイマは、カイザとは逆の性格だった。自分より実力のありそうな者や尊敬する人物、年長者には丁寧に対応する。

 だが、長所には同等の短所が含まれる。実力が下と判断した者には、少し厳しいところがある。

 正義感は強いが、人の気持ちには鈍感。危機回避能力も鈍感。自ら危険に飛び込むような破滅的な部分があった。母国で王族の地位を捨て、裏クリエイターになって飛び出してきたという出自にも性格があらわれている。


 では、ギンガの場合はどうか。利益のためなら多少の危険を受け入れるというところは、カイザよりケイマに似ているように見える。

 ただし、行動基準はケイマと真逆だ。ケイマほど強い正義感や道徳心はなく、これまでもたびたび道を踏み外してきた。裏組織を抜けてアユムと出会ってからマシになったらしいが。

 利益のためなら手段は選ばない。非情な決断をくだすために、あえて人の気持ちに鈍感になることもある(不調期は感受性が鋭くなるので、いつもその限りではないが)。このあたりも、ケイマと似ているようで実は真逆だ。

 仕事相手には丁寧だが、単に年長者というだけでこびたりしないところはカイザに似ている。だが、これも実は真逆。単に、自分が有能だと思っているからだ。

 ギンガは常に自分の有能さを示したがっていた。成功や勝利への異常なこだわり。本当の自分に対する自信のなさの裏返しだろう。カイザはそう分析していた。


 ならば、タクミはどうだろうか。カイザはタクミのことをよく知らないが、ギンガとかなり近い部分があると見極めていた。

 ギンガの「悪友」というだけあって、悪い部分はそっくりだ。根拠なく自分の実力を信じているところ。挑発するのは巧みだが、される側になると弱いところ。好戦的で負けず嫌いなところ。


「決闘だ。オレと対局しやがれ! 大口を叩く前に、オマエの実力を見せてみよろ」

「じゃあ、僕が勝ったら言うとおりにしてくれるんだね?」

「おうよ。ただし、オレが勝ったら工場で一日強制労働をしてもらうぜ」

「よし、望むところだ。受けて立つ!」

 言質を取った。思惑どおりだ。



【二】


 カイザたちは地下三階の裏対局室に移動した。カイザとタクミが対局によって決闘をおこなうためだ。

 ギンガとケイマは決闘の立会人になり、左右に分かれて決闘者ふたりを囲んだ。Q2機関の面々が面白半分についてきて騒ぎ、近くにいた裏クリエイターたちも集まってくる。


「ギギギギンガ姉さんの友だちと、カイザ。どどどどっちを応援すればいいんだ」

 頭を抱えるケイマ。ジャイ男からもらったお守りのサイコロを握りしめる。


「カイザァ、あんたは早う終わらせて大会の書類を申請しに行かなアカンねん。一本勝負の決闘や。負けたら承知せぇへんでぇ!」

 カイザの勝利を確信しているギンガ。Q2機関の仲間内で、また例の賭けをしはじめた。


「ちょっと、やめなよギンガ! また僕を使って稼ごうとしているね」

 決闘前だというのに冷静なカイザ。ギンガに注意しつつ、タクミの様子を観察していた。


「チッ、ギンガまでコイツが勝つと思っているのかよ。見ていろよ、すぐにその鼻を明かしてやる。大損こいても知らねえぜ」

 腕をまくり、鼻息を荒らげるタクミ。ズカズカとカイザの前に出て、額が触れそうなほどに顔を近づけた。


 タクミは眉間にシワを寄せ、あごを突き出すようにしてカイザをにらみつける。だが、性格に反して丸顔タレ目で、まったく様になっていない。

 開いた口のすき間から、尖った犬歯がのぞいている。形状はネジのようで右向きのらせんが刻まれていた。奥歯はナットのようなつぶれた六角柱。自然界では有り得ない形状だ。

 先天的な歯や骨の違いは、新時代生まれのクリエイターにはめずらしくないらしい。念写真で見かけたジョーコというギンガの元相棒や、秋山対局所所長のアキラも同類だ。


 長いまつ毛に、優しげな眉。背はカイザより高いが、ケイマよりは低い。柔らかな曲線を描いた女性らしい体型だが、決して太っているわけではない。

 きれいだ、とカイザは思った。

 タクミは元来の容姿に対して、服装や髪型、話し方、そしてなにより元来の性格が噛み合っていない。個人の自由とはいえ、カイザからすればもったいないように見えた。


「オマエ、可愛い顔をしてるのに性格が生意気でもったいないぜ。心を入れ替えさせてやる。とっちめてやるから覚悟しろよ」

「君のほうこそ、可愛い顔をしているのに性格が悪くてもったいないよ」

「オレに可愛いって言うんじゃねえ。気持ち悪いんだよ、クソガキが」

「僕の名前はクソガキじゃなくてカイザだよ。やれやれ、実力もない上に学習能力もゼロなのか」 

「好き放題言いやがって。あとで後悔することになるぜ」

「後悔はそもそもあとでするものでしょ」

「チッ、いちいち揚げ足を取りやがって。その言い方、ギンガにそっくりだぜ」

 タクミは急に真顔になった。


 カイザはドキリとした。前にもギンガに似てきたと言われたことがあったからだ。カイザは良くも悪くも、カードハンター時代から変わりつつあった。


 だがそんなことよりも、誰かに似ているとからかわれるのが我慢ならなかった。

 つい数時間前も秋山対局所のアキラから言われたばかりだった。見た目はナゴミという女の子に、霊紋は下摂津ノ國の支配者・覇道テイトクに、それぞれ似ていると指摘された。


「カイザ、オマエはやっぱりギンガの子飼いだな。かわいそうに。師匠の悪いところは反面教師にしろよな」

「僕が⋯⋯かわいそうだって?」

 タクミが少し落ち着いたタイミングで、今度はカイザが沸騰しはじめた。


「かわいそうってなんだよ! お前にあわれまれる筋合いなんてない!」

「とにかく、早くおっ始めようぜ」


 カイザとタクミは左手で握手をした。対局空間を発生させる合図だ。


「よろしくお願いします」

「よろしくお願いするぜ!」



【三】


 対戦者同士が互いの魂から霊子を持ち寄って構成された特殊な空間。それが対局空間だ。

 カイザは気づけば対局空間に立っていた。その肉体は霊子で構成された架空のからだに置きかえられている。


 広大な荒野に、「塁」と呼ばれる二十二枚のマットが五列に配置される。塁はすべて同じ大きさの正方形で、カイザが腕を広げても端まで届かない程度のサイズだ。

 カイザは近くにある「味方塁」を探して乗った。レンガ積みの要領で半分ズレて配置された塁のうち、カイザから見て最前列右端にある塁だ。

 味方塁の色は、先手が赤で後手は青。一戦目のみ、先手後手がランダムで決まるようになっている。


「よし、今回も先手を取ったぞ。やっぱり僕はツイている!」

 カイザはいつもの口ぐせを言った。

 デッキケース内のカードが自動的にシャッフルされ、対局がスタンバイされる。


 カイザは対戦相手のほうを見た。

 カイザから見ると「相手塁」で、タクミから見るとそこが味方塁にあたる位置。五列先、つまりカイザ側から見て最奥列の左端にある塁。そこにタクミが立っているはず⋯⋯。


「え、誰?」

 カイザは混乱して当たりを見渡した。タクミはどこにもいない。

 そこに立っていたのは、知らないおじさんだった。


「オレだよ、オレ」

 知らないおじさんはオレンジのひげをさすった。顎ひげは濃く、もみあげとつながっている。


 背丈はタクミと同程度だが、余分な脂肪がなくて男性的な体つき。鼻、耳、目元はタクミそっくり。左耳に安全ピン型のピアスをつけている。


「⋯⋯は?」

「だから、オレが機島タクミだ。名前を忘れたのかよ? やれやれ、実力もない上に学習能力もゼロなのか」

 おじさんは低い声で言った。現実世界でカイザがタクミに言った生意気なセリフを、そっくりそのまま返さしてきた。


「どういうことだよ?」

「親札のデザインを少々イジったのさ」

「そ、そんなことができるのか。知らなかったよ」

 カイザは素直に感激した。


「いや、普通はできねえぜ。だが、オレはウラワザを使えるのさ」

「そのウラワザ、僕にも教えてよ」

「違うぜ。教えてください、だろ?」

「教えてください。お願いします!」

「お、おう。やけに素直だな。それなら仕方ねえ、教えてやらんこともないぜ」

 タクミはカイザの変わりように困惑しつつ、アバターチェンジのやり方を教えることにした。

「バ美肉」があるなら、その逆があってもいいはず。

オレっ娘からのおじさん化!(なお需要はなさそう)

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