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当時、小学2年生・・・
ある日の事、歯磨き用コップの内壁が、
ザラザラしている事に、気付いた。
僕は、毎朝、そのコップに、ラムネを入れ、
それを、魔法で溶かしていたのだ。
つまり、樹脂製のコップの内壁が、
『溶けている・・・?』
『このまま行けば、ボロボロに成る・・・?』
それはまだ、初期の段階だったが、
これは、明らかに魔法の影響だった。
ちなみに、ラムネのボトルに、
水とラムネを入れ、それを溶かした場合、
なぜか、ボトルのフタが、開いてしまうので、
ベッドの中で、行う事は、無理であった。
では、どうしたか?
そこで考えたのが、ラムネの空ボトルに、
ラムネを1粒だけ入れて、
水無しで、溶かす方法だった。
実際には、溶ける訳ではなく、粉末状に成っていた。
以前、この様な事は、出来なかった。
ところが、魔法が成長した結果、
出来る様に成ったのだ。
『これが、身体の成長によるモノなのか・・・?』
『魔法の成長によるモノなのか・・・?』
それは、明確では無い。
しかし、水が無くても、ラムネを、
粉末にする事が出来た。
最初の頃は、1粒分解するのに、
30分ほどかかった。
この方法であれば、毎朝、起こされる前に、
ベッドの中で行えた。
試しに、同じボトルを、使い続けてみたが、
水が無い為なのか、ボトルは無事だった。
その様な訳で、小学3年生に成った僕は、
魔法の消費に、困る事は無かった。
条件反射で、魔法が出る事は、多少あったが・・・
毎朝、魔法を使い、疲労しているので、
過剰な暴走も無く、普通の小学生を、演じていた。
ところが、ある日の事、
それは終わった・・・
当時、小学3年生、2学期、1人で下校中・・・
地道を歩いていた。
つまり、土の道である。
両端が、草むらの、田舎道、
そこに、軟式野球ボールが落ちていた。
雨の日だった。
周囲には、誰もいない・・・
僕は、軽い気持ちで、そのボールを蹴った。
蹴ったのは1度きりだった。
しかし、そのボールは、転がり続けた。
まるで散歩中の犬の様に、僕の前を、
コロコロと進んで行った。
不謹慎だが楽しかった。
もちろん、この様な事は、するベキでは無い。
魔法を使って、遊んではいけない。
『僕の魔法が、見付かれば・・・』
『誰かの仕事が、無くなる・・・』
『誰かの人生を、台無しに、してしまう・・・』
『誰かの一生懸命を・・・』
『誰かの誇りを・・・』
『うばってしまう・・・』
僕は、ガンを治せるのだ。
つまり、名医でさえ、仕事を失う危険性があるのだ。
僕の魔法は、世界にとって迷惑なのだ。
と思った・・・
その瞬間、
ボールが、吹っ飛んだ・・・
一瞬、何が起きたのか、解らなかった。
『ボールが、草むらに、飛んで行った・・・』
『草が飛び散っている・・・』
僕が、全力で蹴っても、
この様な現象は、起こせない。
もちろん、僕は、何もしていない。
それなのに、ボールが吹っ飛んだのだ。
僕は、今の状況を思い返した。
『魔法の力で、僕の前を転がり続けるボール・・・』
『その光景を、人に見られる恐怖・・・』
『魔法を使っては、いけない・・・』
『しかし、魔法は発動する・・・』
『僕の存在は迷惑・・・』
僕は、そう感じた。
その結果、僕の、無意識魔法が発動して、
ボールを、吹っ飛ばし、草むらへと隠したのだ。
つまり、やったのは、僕である。
『これが石だったら・・・・』
『そこに生き物がいたら・・・・』
僕の心臓は、ドキドキしていた。
僕は、動くモノを、動かす魔法を、
この1年以上練習していない。
それなのに、明らかに、成長していた。
僕のヒザは、恐怖で震えた。
それ程の勢いで、ボールが飛んで行ったのだ。
僕の中で、不安が増して行く・・・
『もし、これが・・・』
『ドッジボールの最中だったなら・・・』
『殺してしまう・・・!』
僕は、冷や汗を流した。
『今度、体育の授業でボールを使う・・・』
『サッカーをする・・・』
今まで、事故が起こらなかったのが、不思議だった。
先ほど、飛んで行ったボールの威力は、
恐ろしいモノだった。
鳥肌が立った。
これまで、体育の前には、
ラムネを、食べない様にしていた。
しかし、今も、ラムネは食べていない。
それで、この威力だ。
僕は、千切れ落ちた草を見て、生ツバを飲み込んだ。
試しに、草むらにパンチをしたが、
草が千切れる事は無かった。
つまり、先程のボールには、
パンチ以上の威力があったのだ。
恐ろしかった。
『僕の自制心は、弱い・・・』
『強いと思っていたのは、勘違いだ・・・』
『心に、ブレーキをかける練習が、必要だ・・・』
この日、僕は、久しぶりに、知恵熱を出した。




